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ベージュブック、ドル高の悪影響緩和を示唆

by • July 15, 2015 • Finance, Latest NewsComments Off1937

Beige Book Suggests Strong Dollar Effect Is Slowly Abating.

米連邦準備制度理事会(FRB)が15日に公表したベージュブック(5月半ばから7月初めまでカバー)は、夏にかけ堅調な成長軌道をたどっていることを確認しました。アトランタ連銀がまとめた今回のベージュブックでは、「経済が拡大した(expanded)」と総括。概して2014年12月、1月、3月、4月、6月に公表した分の表現を据え置きつつ、製造業を中心にドル高の悪影響に緩和の兆しが見られます。

ニューヨーク連銀、フィラデルフィア連銀、カンザスシティ連銀の3地区連銀は経済拡大ペースが「控え目(modest)」でした。前回と変わらず、3地区連銀となっています。一方でリッチモンド連銀、アトランタ連銀、シカゴ連銀、セントルイス連銀、ミネアポリス連銀、ダラス連銀、サンフランシスコ連銀の7地区連銀は「緩やかなペース(moderate pace)」での拡大を報告。前回の4地区連銀から増加しています。クリーブランド連銀は前回と比較し「安定的(steady)」、ボストン地区連銀は「安定的あるいは改善した(stable or improving)」へ、それぞれ上方修正。見通しに対しては、ボストン連銀をはじめフィラデルフィア連銀、アトランタ連銀、カンザスシティ連銀、ダラス連銀が「楽観的(optimistic)」と報告し、シカゴ連銀とサンフランシスコ連銀は一部セクターのみ楽観的な見解を寄せていました。

製造業活動は「まだら模様(uneven)」で、前回のダラス連銀以外は「安定的あるいは拡大(steady or increased)」から下方修正してきました。フィラデルフィア連銀、リッチモンド連銀、アトランタ連銀、シカゴ連銀の4地区連銀が「拡大(increased)」し、ボストン連銀やセントルイス連銀も前向きだったといいます。ただしクリーブランド連銀をはじめカンザスシティ連銀、ダラス連銀は原油先物の影響もあって「低下した(decline)」と報告。ミネアポリス連銀は「まちまち(mixed)」で、ニューヨーク連銀とサンフランシスコ連銀は「横ばい(flat)」でした。ボストン連銀、クリーブランド連銀、ダラス連銀は、ドル高こそ輸出需要を抑えた理由に挙げています。「ドル高(strong dollar)」の文言は今回6回登場し、6月の13回から減少していました。米6月ISM製造業景況指数米6月鉱工業生産がヘッドラインで改善を示したように、ドル高の悪影響がはく落しつつあるようです。

ドル高をめぐるネガティブ要因として、3地区連銀から以下のような報告が上がっていました。前回の4地区連銀から、減少しています。

・クリーブランド連銀「製造業生産の阻害要因」、「鉄鋼輸出の競争力を抑制」
・ミネアポリス連銀「カナダからの観光客の支出が減少」
・ダラス連銀「化学製品の輸出需要が低下」

消費者動向の改善動向は地区連銀によって「様々(varied)」で、フィラデルフィア連銀をはじめクリーブランド連銀、サンフランシスコ連銀の3地区連銀はエネルギー価格の下落が消費を押し上げたと指摘。ただしミネアポリス連銀やダラス連銀の2地区連銀などは、国境に接する地域でドル高を鈍化要因に挙げていました。自動車売上では、セントルイス連銀が「まちまち(mixed)」と報告した程度で他は全て拡大。特に、シカゴ連銀は2015年に過去最高を予想していました。観光・旅行はニューヨーク連銀のみ「さらなる鈍化の兆候(further signs of slowing)」を確認した程度で、他の地区連銀は「改善(improved)」しています。

NY市も、ドル高が観光客の支出を圧迫している模様。
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(出所:My Big Apple NY)

雇用は、地区連銀およびセクター全般にわたり「回復(picked up)」しており、前回の「わずかな上向き(up slightly)」から上方修正してきました。ボストン連銀、フィラデルフィア連銀、リッチモンド連銀、ダラス連銀の4地区連銀でサービス業における「従業員の拡大(payroll expansion)」が伝えられています。ニューヨーク連銀、セントルイス連銀では専門職で新規採用を報告。製造業は「まちまち(mixed)」で、クリーブランド連銀をはじめリッチモンド連銀、セントルイス連銀で求人・採用件数が増加したものの、ボストン連銀やダラス連銀ではレイオフを確認しました。特にアトランタ連銀、ミネアポリス連銀、ダラス連銀ではエネルギー関連で「人員削減(downsizing)」を指摘。ただダラス連銀では、前回よりペースが鈍化しています。賃上げ圧力は「控え目(modest)」で、前回の「わずかな伸び(slight growth)」とほぼ変わらず。賃上げはITや輸送、建設など、特殊技能職に限定されていました。物価圧力は、前回から「概して変わらず(largely unchanged)」。ボストン連銀、ニューヨーク連銀、クリーブランド連銀、アトランタ連銀、シカゴ連銀は小売価格が「抑制的(subdued)」と報告しています。アトランタ連銀とサンフランシスコ連銀は、ドル高により輸入物価や商品価格の鈍化を指摘していました。

原油安を背景に石油・天然ガス採掘作業はクリーブランド連銀、ミネアポリス連銀、カンザスシティ連銀、ダラス連銀の4地区連銀にて「減少し続けた(continued to reflect decreases)」といいます。ただし、前回の5地区連銀から減少しました。石炭もリッチモンド連銀とセントルイス連銀で減少。カンザスシティ連銀はドライブ・シーズンを背景にオクラホマ州クッシングで原油在庫の減少を指摘した上で、稼働率の上昇を報告しています。クリーブランド連銀、アトランタ連銀、ダラス連銀は設備投資を削減し続けるなか、後者の2地区連銀は「雇用の縮小(labor cutbacks)」を確認しました。

農業は「まちまち(mixed)」で、シカゴ連銀とセントルイス連銀では大雨により収穫に悪影響が及んだと報告。カンザスシティも豪雨により、冬期の収穫見通しを下方修正したといいます。ダラス連銀は降雨量の改善で干ばつ状況が改善したと伝え、干ばつが続くサンフランシスコ連銀は逆風を乗り越え全般的に生産の増加を確認。一方、シカゴ連銀とサンフランシスコ連銀は鳥インフルエンザにより、鶏肉・卵などの価格上昇につながったと報告していました。

今回、サマリー部分で使用されたキーワードの登場回数(同じ単語の変化形を含む)は以下の通り。

「増加した(increase)」 →31回、前回は24回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→13回、前回は20回
「緩やか(moderate)」 →7回、前回は6回
「穏やか(modest)」→9回、前回は4回
「弱い(weak)」→5回、前回は14回
「底堅い(solid)」→3回、前回は3回
「安定的(stable)」→4回、前回は9回

BNPパリバのデレク・リンゼー米エコノミストは、今回の内容を受け「『緩やか』あるいは『控え目』な成長ペースの報告は10地区連銀から上がっており、前回の7地区連銀から増加した」と指摘。もっとも、各連銀の報告を含めたベージュブック全体で「『弱い (weak)』とする文言の登場回数は29回」とし、前回6月分の52回および過去平均の32回を下回っています。文言全体も明るいトーンが増えており、イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長が年内利上げを強調するはずですね。

(カバー写真:Tim Evanson/Flickr)

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