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ドラギ、緩和策の合わせ技は市場に響かず

by • March 11, 2016 • Finance, Latest NewsComments Off3947

Draghi Suggested No More Rate Cuts, Euro Bounced Back.

欧州中央銀行(ECB)は10日、フランクフルトで定例理事会を開催した。政策金利にあたるリファイナンス金利を今回、市場予想の据え置きに反し0.05%から0%に設定。上限金利の限界貸出金利も0.30%から0.25%へ、下限金利の中銀預金金利もマイナス0.4%へ引き下げている。

1月の理事会で堂々と金融政策の変更を示唆していたように、以下の通り合わせ技も披露した。

・資産買入プログラムを、月額600億ユーロから800億ユーロへ引き上げ(4月から開始)。市場予想の700億ユーロを上回る。期間は2017年3月で据え置いたものの延長の可能性を維持。

・対象を投資適格級のユーロ建て社債へ拡大

・対象を絞った長期的流動性供給オペ(TLTRO)に、4年物を追加したTLTRO IIを発表。2016年6月から2017年3月にかけ四半期に1回、合計4回実施へ。入札ではリファイナンシング・オペの金利を支払うところゼロ%へ引き下げられており、一段と低下する場合は中銀預金金利に並ぶ見通し(つまりECBが金利を支払う)。

今回の決定は、「過半数を上回る支持」を得たという。質疑応答では、中銀預金金利を階層式にする観測を否定。ドラギ総裁は「金利がゼロから一段と低下するとの印象を与えたくなかった」と説明する。そのほか、記者会見での重要ポイントは以下の通り。

・主要政策金利は資産買入期間が終了した後も、長きにわたり現状あるいはそれ以下の水準で推移。
一段の利下げが必要とは認識せず、ただ状況や見通し次第で変更もありうる。
・銀行システムの収益性、マイナス金利で阻害されず。
・仮にECBが政策対応を断念していたならば、デフレに陥り債務の実施価値も増大していた。
・ここ数年、ECBが行動していなければ破壊的なデフレに落ち込んでいた。
・本日、ECBに政策手段が短期的に枯渇していないことを明らかにした。
・成長見通しのリスクはダウンサイド。
・原油価格の下落により、数ヵ月先はインフレがマイナスに落ち込む可能性も。

スタッフ経済見通しは、こちら。利下げだけでなく抱き合わせ戦法を駆使したように、2016年のインフレ見通しが大幅に引き下げられたほか、軒並み下方修正されている。

2016年見通し(3月時点)
GDP 1.4%
HICP 0.1%

2016年見通し(12月時点)
GDP 1.7%
HICP 1.0%

2017年見通し(3月時点)
GDP 1.7%
HICP 1.3%

2017年見通し(12月時点)
GDP 1.9%
HICP 1.6%

2018年見通し(3月時点)
GDP 1.8%
HICP 1.6%

BNPパリバのケン・ワトレット欧州担当主席エコノミストは、記者会見でドラギ総裁が一段の利下げに否定的な見解を表明したため「中銀預金金利を7-9月期末にマイナス0.7%へ引き下げるとの当方の予想を見直す」とした。また、質疑応答での回答と合わせ「ECBが主要金利(の引き下げ)より、非伝統的政策へ焦点をシフトさせているようだ」とも指摘。上海で開催された20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、財政政策による景気刺激を求めた声明に沿うと分析する。従って、経済指標や金融市場で著しい悪化が生じた場合は「2017年3月までとする資産買入プログラムの延長を選択するのではないか」と予想。時期としては、「今年の9月」を挙げた。

――金融市場はリスク・オンで反応した後、株安・債券安・ユーロ高で取引を終えました。ドラギ総裁の利下げ打ち止め示唆、中銀の政策手段の弾丸切れが取沙汰されていますが、個人的には英国の欧州連合(EU)残留をめぐる国民投票を6月23日に控え、マーケットが大荒れを迎えた場合はどうなるのかと疑問を持ちました。定例理事会は4月21日のほか、直前の6月2日に予定するため、状況次第で政策に大きな変更がなければ「ECBに打つ手なし」と判断されかねません。

あるいは、来週を見据え敢えて市場はリスク・オンに動かなかった余地を残します。今回の大胆な措置を受けて市場が楽観モードに突入すれば、来週15~16日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)でタカ派寄りになりかねない。ウォトレット氏は、追加利下げや買い入れ規模の拡大、TLTRO IIの効果がいずれ金融市場にプラスの効果を与えると予想していましたが、仮に実現なら16日以降となりそうです。

余談ですがブルームバーグによるとドラギ総裁、2012年7月に「あらゆる手段を講じる(whatever it takes)」と発言した当時と同じ“勝負ネクタイ”を着用していたのだとか。あの時を覚えていた方は、大胆な政策に打って出ると見込んでポジションを張っていたのかもしれませんね。

(カバー写真:ECB/Flickr)

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