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ベージュブック、労働市場の「ひっ迫」を指摘

by • September 9, 2016 • Finance, Latest NewsComments Off2110

Beige Book Evaluates Labor Market .As ‘Tight’.

9月7日に公表されたベージュブックを、遅ればせながらおさらいしていきます。

米連邦準備制度理事会(FRB)が7日に公表したベージュブック(7月2日から8月29日までカバー)は、引き続き経済活動の拡大を確認した。サンフランシスコ地区連銀がまとめた今回のベージュブックでは総括として、地区連銀は経済活動が「緩慢(modest)あるいはゆるやか(moderate)」に拡大したと報告。前回の「緩慢(modest)に成長した」から引き上げた。全般的に前回から概して上方修正が優勢で、製造業をはじめ労働市場、商業不動産で上向きが見られた。特に労働市場は「ひっ迫(tight)」へ表現を変更しており、イエレンFRB議長をはじめ「完全雇用に近づいた」と述べたことも頷ける。

米雇用統計が6~7月の大幅増加を経て8月に減速したため9月20~21日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ観測は後退しつつあるが、ベージュブックはFedが利上げに動いてもおかしくない内容と言える。なお2015年12月に利上げを開始する直前の10月ベージュブックの総括は「穏やか(modest)」な拡大としつつ、個人消費や労働市場は上方修正していた。特に労働市場は「「引き締まった(tightened)」との表現を用い、今回と符合する。

(経済全般)
地区連銀は「緩慢(modest)」なペースの拡大を報告した。ほとんどの地区連銀は「緩慢」あるいは「ゆるやか」と表現しつつ、NYとカンザスシティは「変わらず(no change)」だった。フィラデルフィアとリッチモンドは拡大継続を指摘しつつも「前回より鈍化した(slowed from the previous period)」としている。見通しをめぐって、地区連銀は概して「ゆるやか」なペースを予想した。

(ドル高をめぐる表記)
ドル高をめぐるネガティブな表記は総括にて2回連続でゼロとなり、各地区連銀からも1回にとどまった。前回の6回から減少。地区連銀別では前回の5行からダラスの1行に減り、表現は以下の通り。前回のボストン、クリーブランド、リッチモンド、サンフランシスコが消えている。

・ダラス「メキシコ湾岸の石油化学産業で、ドル高と世界的な需要低下が向かい風であり続けた」

(中国)
中国というキーフレーズが登場した回数はゼロで、前回の1回から改善した2015年9月に初めて中国が盛り込まれた当時の11回から徐々に減少し、1年経過して漸くゼロへ戻した格好だ。

中国経済減速への懸念は後退。

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(出所:Loïc Lagarde/Flickr)

(全体のキーワード評価)
今回、総括部分で使用されたキーワードの登場回数(同じ単語の変化形を含む)は以下の通り。「強い」が増えたほか、「ゆるやか」と「緩慢」の増加が目立つ。

「増加した(increase)」→19回<前回は20回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→13回>前回は9回
「緩やか(moderate)」→15回>前回は6回
「緩慢(modest)」→14回>前回は9回
「弱い(weak)」→4回<前回は5回
「底堅い(solid)」→0回=前回は0回
「安定的(stable)」→1回=前回は1回
「不透明性(uncertain)」→1回=前回はゼロ回

JPモルガンのダニエル・シルバー米エコノミストは、結果を受けて「労働市場と賃上げ動向を上方修正した」点に注目する。同氏によると、労働市場の「ひっ迫(tight)」との表現は、6月ベージュブックで用いられており今回復活を遂げた格好だ。賃上げ圧力も「緩慢(modest)」に「ゆるやか(moderate)」が加わったと指摘。また米8月ISM非製造業景況指数が分岐点割れを迎えたものの、「非金融サービス業で前回の『悪化が広がった』から『さらに勢いづいた』とポジティブな方向へ修正した」ことにも、注目を寄せた。

主な項目の詳細は、以下の通り。

(個人消費)
個人消費は全体的に「ほぼ変わらず(appeared little changed)」となったようだ、と報告した。前回“の個人消費は全体的に「ポジティブ」だったものの、「鈍化のサイン(with signs of softening)」が見られた”から、さほど明るさはみられず。ボストンやクリーブランド、サンフランシスコの3行は概して「緩慢」だった。ボストンは顧客が戻ってきたため「回復(pickup)」を報告し、フィラデルフィアは逆に客足が減ったものの売上は横ばいだったという。ダラスやカンザスシティ、シカゴの3行は「著しく鈍化した(slowed notably)」という。リッチモンドとアトランタは「軟調(softened)」となったが、アトランタはレーバーデーの週末は季節的要因から押し上げを確認している。自動車の売上は「幾分減少(somewhat decline)」したが、全般的に高いレベルを維持。観光活動は概して「横ばい(flat)」だったが、前年比は上回った。観光業では、アトランタがジカ熱の影響が及ぶ可能性を指摘した。

(製造業)
製造業活動は「横ばいあるいはわずかに上向いた(flat or slightly up)」とし、過去2回の「まちまち(mixed)」から若干の回復をみせた。テクノロジー関連はダラスで「ゆるやかに上向いた」ものの、SFは半導体の生産が「横ばい」にとどまり「幾分の未稼働が続く(somewhat underutilized)」状況だ。セントルイスでは輸送機器や産業機械で設備拡大の報告を確認し、SFでは価格面で規制強化の流れを受けながら、「力強い売上ペース(a strong pace)」を続けたと明かす。数地区連銀の石油・ガス採掘部門は、低迷する鉄鋼需要・生産と合わせ弱い。反対にシカゴでは需要が「安定的(steady)」で、輸入の減少が市場シェアの回復につながったと説明する。リッチモンドは見通しに「楽観的(optimistic)」で、フィラデルフィアも向こう6ヵ月での「回復」を見込む。

(労働市場、賃金、物価)
労働市場は、総括の部分で「ひっ迫した(tight)」とまとめた。「ゆるやかなペースで拡大した(expanded at moderate pace)」とも指摘しつつ、前回の「緩慢に増加し続けた(continued to grow modestly)」から上方修正している。労働市場がひっ迫する地区連銀はボストンをはじめシカゴ、NY、SF、セントルイス、ミネアポリスの6行で、ボストンでは尋常ではない求人数がみられた。リッチモンドでは未経験者の職で回転率が上昇したという。一方でクリーブランドでは「ごく緩慢(only modest)」な増加にとどまり、フィラデルフィアではパートタイム職が増加しフルタイムの削減に合わせ労働時間が伸びたという。全般的に、企業は特殊技能職特にテクノロジー部門での人員不足が目立った。また、全体的に炭素排出業で雇用は減少したが、アトランタでは石油化学の精製所で雇用が増加した。

賃上げ圧力は「横ばいから力強い(flat to strong)」で、前回の「緩慢からゆるやか(modest to moderately)」から賃上げ圧力の高まりを確認した。特にSFのテクノロジー職で賃上げ動向が目立ち、クリーブランドでは建設や小売りで賃上げが顕著となった。

インフレ自体は全体的に「緩慢(modest)」で、ボストンをはじめシカゴ、クリーブランド、ダラスの4行では「横ばい」に終わった。前回の「わずかに(slightly)」より、若干の上方修正となる。

(建設、不動産)
建設と不動産活動は「一段と拡大した(expanded further)」とし、前回の「強まり続けた(continued to strengthen)」から上方修正された。住宅建設は全般的に「ゆるやか」だったが、SFで「活発(robust)」だったという。商業不動産での活動も「一段と拡大した」と表現され、前回の「安定的であり続けた、あるいは改善した(remained stable or improved)」から上方修正された。ボストンをはじめカンザスシティ、セントルイスの3行は「わずか」に伸びた程度だったが、クリーブランドとダラスでは「加速(faster clip)」した。リッチモンドとNYでは商業施設の建設が顕著で、特に後者の空室率は10年ぶりの低水準だったという。

(エネルギー、農業関連)
エネルギー関連は原油価格が40~50ドル台で安定的に推移するなか、需要は「低下し続ける(continued to decline)」ものの、安定の兆しが見えつつある。ただアトランタでは、抽出業者の「活動が一段と低下」したため、在庫が過去最高水準に上った。反対にカンザスシティでは、石油やガスのリグ稼働が増加した。天然ガスの需要は「まちまち」だった。

農業は前回に続き「まちまち(mixed)」で、多くの地区連銀は主要作物の収穫が増えたものの値下がりを背景に売上が低迷しているとの報告が上がった。特にシカゴでは、記録的な豊作により農家の所得は非常に低い見通しにとどまる。洪水の被害に遭ったアトランタですら収穫量が幾分減少する見通しながら、綿の生産は前年に近い水準を保つという。

――今回は労働市場や賃上げをめぐる表現が上方修正されただけでなく、中国やドル高という不透明要因の払しょくを確認しました。9月利上げの余地を残した内容と言えるでしょう。商業不動産の加速にも触れており、エネルギー産業にも回復のサインが点灯したかのようです。ただし、今回のベージュブックは米8月雇用統計発表前に公表された点に注意。今回のベージュブックの取り纏め役だったサンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁自身、9月利上げから軸足を外した見解を表明しているだけに、9月ベージュブックで今月の利上げが確実になったと判断するのは早合点と言えるでしょう。

(カバー写真:Daniel X. O’Neil/Flickr)

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