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4月ベージュブック:通商政策の懸念台頭も、6月利上げの方向性維持か

by • April 20, 2018 • Finance, Latest NewsComments Off2229

Beige Book Shows Concerns Over Trade Policy, But Fed’s Rate-Hike Should  Go On.

米連邦準備制度理事会(FRB)が4 月18日に公表したベージュブック(3月から4月初めまでカバー)によると、米経済の拡大ペースは前回に続き「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」で据え置いた。今回、米中間で報復関税の応酬が確認された背景から、企業側は鉄鋼・アルミ関税、中国によるその対抗措置、さらに追加で提示された措置検討案への懸念を表明前回より「不確実性」の高まりを示した。とはいえ、経済活動は引き続きゆるやかな拡大を示し労働市場も逼迫する状況に変わらず。物価の上昇は「緩慢」にとどまり、5月1~2日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で6月追加利上げの路線変更を示す可能性は極めて低いと言えよう。ダラス地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。各地区連銀の名称で表記している。

<経済全般のセクション>

(今回)
・経済活動は、3月から4月初めにかけ12地区連銀で「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」なペースで拡大した。見通しはポジティブだったが、製造業や農業、輸送を含む多くの企業の回答者は、新たに賦課された、あるいは賦課が検討される関税への懸念を表明した。

(前回)
・12地区連銀からの報告によれば、経済活動は1月から2月にかけ「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」なペースで拡大した。

<個人消費>

(今回)
個人消費は、ほとんどの地区連銀で「拡大し(rose)」、自動車を除く小売売上高や観光で「増加(gains)」がみられたが、自動車販売台数は「まちまち(mixed)」だった。

(前回)
・1月から2月にかけ、個人消費はまちまち(mixed)で、非自動車の小売売上高は12地区連銀のうち半分を僅かに上回る地区連銀で増加し(just over half the Districts)、自動車は全ての地区連銀で横ばいか減少した(declined or were flat)観光は全般的に「堅調(solid)」で、アトランタとリッチモンドは力強い伸び(robust growth)を遂げた。

<製造業、非製造業の活動>

(今回)
製造業活動は「ゆるやかに拡大(grew moderately)」し、非金融サービスは概して「堅調(solid)」だった。地区連銀の半数以上が、輸送サービス活動の拡大を報告、港湾と航空、鉄道とトラックでの配送量の増加を確認した。

(前回)
・製造業セクターでは生産が広範囲にわたって拡大し、1地区連銀のみ緩慢な伸びにとどまった。

<不動産市場>

(今回)
住宅の建設並びに不動産活動は「一段と拡大した(expanded further)」が、住宅在庫が低水準にあり、「一部(several)」の地区連銀では売上の伸び悩みがみられた。商業の建設並びに不動産活動は、前回のレポートから「改善した(improved)」。

(前回)
・住宅販売と建設活動は「緩慢な伸び(modest growth)」にとどまり、後者は建材や人材の不足が指摘された。非住宅不動産は前回から「ゆるやかに改善し(moderately improved)」、3地区連銀では特に顕著で、NY周辺では商業向け賃料が大いに上昇(up significantly)した。

<貸出需要>

(今回)
・貸出需要は高まった。

(前回)
・借入の規模は全般的に「横ばい(flat)」で、少数の地区連銀は債務不履行率の低下を指摘した。

<農業、エネルギー>

(今回)
・農業の状況は干ばつの影響で、全般的に「ほぼ変わらず、あるいは悪化した(little changed or worsened)」。エネルギーのセクターでは、石炭生産が「横ばい(flat)」で天然ガスの生産が「わずかに減少した(dipped slightly)」リッチモンド以外、活動に回復が見られた。

(前回)
・農業セクターは全般的に「まちまち、あるいは横ばい(mixed or flat)」だった。天然ガス資源は産業動向が控え目ながら(modestly)改善してきたと報告しつつ、ミネアポリスのみエネルギーと鉱業の活動は「力強い(robust)」ペースだった。

<雇用と賃金>

(今回)
・広範囲にわたる雇用拡大が続き、ほとんどの地区連銀は労働市場が「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」なペースで拡大を報告したが、労働市場は「逼迫したまま(remained tight)」で、「複数(some)」の地区連銀で雇用の伸びが抑制されたという。企業はあらゆる産業、技術水準にわたって引き続き適切な人材確保で困難に直面していると報告。労働不足はエンジニアリング、IT、ヘルスケアの他、建設、輸送など特殊技能職で頻繁に聞かれた。企業は人材不足に対し、賃上げや残業時間を活用した職業訓練の拡大、自動化などで対応しているという。賃上げ圧力が残るものの、「全体的に加速せず(generally did not escalate)」、ほとんどの地区連銀での賃金の伸びは「緩慢(modest)」だった。

(前回)
・雇用は概して、前回から「緩やかなペースで拡大し続けた(grew at a moderate pace)」。全米にわたり、引き続き労働市場の逼迫と特殊技能職の活発な需要(brisk demand)を確認し、また人事派遣サービスの活動も高まった。一部の地区連銀(several Districts)は大部分のセクターで人材不足を報告し、特に建設、IT、製造業で目立つ。多くの地区連銀で、賃金の伸びは「ゆるやかなペース(moderate pace)で回復した(picked up)」。ほとんどの地区連銀は、雇用主が労働市場の逼迫に合わせ賃金を引き上げ、福利厚生を拡大したと指摘。数地区連銀(a few Districts)からは、税制改革法案の成立により賃金を控え目ながら引き上げた(modest increases)との報告も聞かれている。

<物価のセクション>

(今回)
物価は地区連銀全体で「ゆるやかに(moderately)」上昇した。新たな関税賦課の影響で、鉄鋼価格は幅広く値上がりが報告され、時に「劇的な上昇(dramatically)」がみられた。また素材価格が「勢いよく上昇し続け(continued to rise briskly)」、特に木材、乾式壁、コンクリートで顕著だった。輸送費用は「概して上昇(generally rose)」、燃料価格やトラック運転手不足が主な理由に挙げられている。製造業、IT、輸送、建設で、消費者への価格転嫁に成功したとの報告が「パラパラ(scattered)」と聞かれた。企業は全般的に、鉄鋼や建築材を中心に数ヵ月以内の「さらなる値上げ(further price increases)」を見込む。

(前回)
・物価は全ての地区連銀で上昇(increased)し、ほとんどが「ゆるやかなインフレ(moderate inflation)」を報告した。4地区連銀は鉄鋼価格の値上げに言及、海外との競争低下(decline in foreign competition)が一因だという。建設活動の拡大(uptick in construction activity)を背景に、木材など建材価格も持ち直した。一部の地区連銀は、広範にわたって輸送コストの上昇を報告、航空輸送費を押し上げた燃料費の値上がりによるものだという。住宅と賃料は、全米にわたって上昇した。

それぞれの地区連銀が経済活動全般を表現するために使った形容詞、比較チャート。

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(作成:My Big Apple NY)

<地区連銀別、経済活動の形容詞>

●「緩慢」と表現した地区連銀、4行<前回は5行
NY(前回は“緩慢”→今回据え置き)
フィラデルフィア(前回は“緩慢”→今回据え置き)
アトランタ(前回は“緩慢”→今回据え置き)
セントルイス(前回は“緩慢”→今回据え置き)

●「ゆるやか」と表現した地区連銀、8行>前回は7行
ボストン(前回は“緩慢”→今回据え置き)
クリーブランド(前回”ゆるやか“→今回据え置き)
リッチモンド(前回は“ゆるやか”→今回据え置き)
シカゴ(前回は“緩慢”→今回据え置き)
ミネアポリス(前回は“ゆるやか”→今回据え置き)
カンザスシティ(前回は“緩慢”→今回は上方修正)
ダラス(前回は“ゆるやか”→今回据え置き)
サンフランシスコ(前回は”ゆるやか“→今回据え置き)

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(作成:My Big Apple NY)

<全体のキーワード評価>

総括並びに地区連銀のサマリーでみたキーワードの登場回数は、以下の通り。「不確実性」の文言は、今回1つに増えた。これまでは、2017年の5回(5月、7月、9月、10月、11月)と、2018年1月、3月の2回、合計7回連続でゼロだった。なお「不確実性」の登場回数は米大統領選挙前の2016年10月分に7回、2016年11月分は3回、2017年1月分は7回、2017年3月分は3回だった。

「増加した(increase)」→12回<前回は17回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→3 回<前回は5回
「ゆるやか(moderate)」→17 回>前回は15回
「緩慢、控え目など(modest)」→14回<前回は22回
「弱い(weak)」→1回>前回は0回
「底堅い(solid)」→5回>前回は4回
「安定的(stable)」→1回>前回は0回
「不確実性(uncertain)」→1回>前回は0回

地区連銀の詳細報告での「不確実性」登場回数は前回の2回から7回に増加した。前回はダラス地区連銀のみ2回言及したが、今回はダラスの他、5地区連銀が「不確実性」を指摘している。

・NY連銀 1回>前回はゼロ
→不動産の一業者から、税制改革法案に関わる税制変更に対し「不確実性」があると指摘

・リッチモンド 1回>前回はゼロ
→複数の港湾施設が鉄鋼関税の影響をめぐる「不確実性」を指摘

・カンザスシティ 1回>前回はゼロ
→農業セクターが干ばつの余波、キャッシュフロー不足、借り手である農業主の流動性縮小、生産費用の上昇に加え、通商への「不確実性」を懸念材料として指摘

・ダラス 3回>前回は2回
→製造業セクターから、新たに賦課された関税による活動や価格への見通し「不確実性」への懸念が浮上した。逆に非金融サービス関連では、通商政策への「不確実性」と新たに賦課された関税により一部企業の見通しを押し下げたものの、見通しそのものは前回よりわずかに上昇した。金融サービスは税制改革法案成立を手掛かりに楽観的な見方が流れる半面、鉄鋼・アルミ製品への関税賦課がテキサス州のビジネスに与える影響に「不確実性」があると指摘。

・サンフランシスコ 1回>前回はゼロ
金属業界は素材供給側が価格保証協定を結ばない事情から、生産コストに大きな「不確実性」があると指摘。

<ドル高をめぐる表記>

ドル高をめぐるネガティブな表記は2017年5月分、7月、9月、10月、11分、2018年1月分に続き総括ではゼロだった。地区連銀別でも、前回に続きゼロとなる。2017年9月、10月、11月、2018年3月に続きゼロだった。なお2017年5月分(クリーブランド)、7月分の1行(クリーブランド)、2018年1月分(サンフランシスコ)はそれぞれ1行が報告していた。

<中国>

中国というキーワードが登場した回数は、総括部分で2017年10月、11月、2018年1月、3月に続きゼロだった。地区連銀別では、4回登場。前回はボストンとミネアポリスだったが、今回はミネアポリスが取り下げた代わりにシカゴが挙げた。なお2017年10月と11月はゼロで、中国の言葉が登場した回数につき過去を振り返ると、2017年4月分まで6回連続でゼロとなった後、同年5月分で2回登場(ボストンとミネアポリスがそれぞれ1回ずつ指摘)していた。2015年9月に初めて中国が盛り込まれた当時は11回で、その後は徐々に減少。1年経過した2016年9月分でゼロへ戻し、2017年4月までその流れを続けていた。

・ボストン 3回>前回は1回
→製造業セクターは中国が提案した米国輸入品128品目への関税賦課に対しリスクを指摘、玩具メーカーは中国向け輸出が75%を占める事情を挙げた。また別の業者は、薄型アルミホイルの生産地は中国に集中するため、鉄鋼・アルミ関税により三層アルミホイルの値上がりにつながると指摘した。

・シカゴ 1回>前回は0
→人材不足を背景に、中国での生産拡大を報告。

――今回のベージュブックで「関税(tariff)」は36回、「懸念(concern, worry)」も22回使用され、米通商政策への不安台頭を感じさせます。とはいえ、ダラス地区連銀が報告したように見通しに大きな影響は与えていません。鉄鋼・アルミ輸入制限発動により鉄鋼価格で「さらなる上昇」が指摘されながら、物価自体は「ゆるやか(moderate)」な伸びにとどまりました。中国が鉄鋼・アルミ輸入制限の報復措置として128品目の関税賦課を発動したものの、大豆や航空機など米国の主要輸出産品ではありません。経済ファンダメンタルズは劇的に変化しておらず、5月1~2日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ小休止のサインを点灯する余地はかなり狭いと考えられます。

米中貿易摩擦は予断を許さないものの、中国側は習主席が金融セクターでの外資開放、自動車セクターでも外資の過半出資容認などで市場開放宣言を行い歩み寄りもみられています。仮に米国が301条を根拠に中国輸入品500億ドルに関税を賦課すれば中国輸入品の約10%に相当し、中国が報復措置(106品目、500億ドル相当)を決定すれば米国からの輸入品の約25%に相当する公算。米国側は公募期間を経て5月半ば頃に決定する方針ですが、今回のベージュブックでビジネスからの反対意見が多数派を占めることが分かりました。パブリックコメントが反映されるなら、両者が強硬に報復措置を発動するリスクは低いと言えるでしょう。

米中間の報復関税応酬に気を取られがちですが、対ロシア追加制裁措置を通じ金属価格の上昇も見逃せません。米国がロシアのアルミ大手ルサールに制裁を発動した結果、LMEアルミ相場は急騰中。他金属先物価格にも波及しており、地政学的リスクを下地に原油先物価格も2014年以来の68ドル乗せを示しました。足元で物価は落ち着きを示すものの、インフレへの影響に注意すべきでしょう。パウエルFRB議長が「関税は物価を押し上げる」と発言していたこともあり、Fedが利上げペースを引き上げる余地を残します。

(カバー写真:bk1bennett/Flickr)

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