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米8月貿易赤字は予想超えも、中国の大豆輸入を増加中

by • October 10, 2019 • Finance, Latest NewsComments Off1969

Trade Deficit Edges Up, But China Continues Buying Soybeans.

米8月貿易収支は548.96億ドルの赤字となり、市場予想の545億ドルを小幅に上回った。前月の540.35億ドル(539.9億ドルから修正)から1.6%増加しつつ、足元のレンジ内にとどまる。原油関連を除く貿易赤字も548.96億ドルと、前月の540.35億ドル(修正値)を上回った。

5月に米中通商協議が物別れに終わり、トランプ政権は約2,000億ドル相当の中国製品に対する追加関税の税率を10%から25%へ引き上げ、同13日には第4弾の追加関税として残り約3,000億ドル相当の中国製品に対し25%の追加関税を発動する方針を表明。さらに同20日にはファーウェイなど安全保障上の脅威となる企業に対し禁輸措置を講じた。6月末の米中首脳会談では、第4弾の追加関税措置の無期延期で合意するなど、雪解けの様相を呈したが、7月30日に上海で開催された米中通商協議を経て、トランプ大統領は8月1日に第4弾を9月1日に実施すると発言。8月23日には、中国が約700億ドルの米国製品に5~10%の追加関税を9月1日から発動すると表明した。同日、トランプ政権は約2,500億ドル相当(第1~3弾)の税率を25%→30%、第4弾の税率を10%→15%へ引き上げる方針を発表し、米中貿易摩擦が苛烈さを増す状況だ。ただし、9月4日に米中通商協議が10月初旬に開催されると中国政府が発表、足元で決裂への懸念は後退しつつある。

内訳をみると、輸出が0.2%増の2,078.66億ドルと2ヵ月連続で増加した。輸入は0.5%増の2,627.63億ドルと、3ヵ月ぶりに増加に転じた。

国内総生産(GDP)の算出に使用されるインフレを除いた実質ベースのモノの貿易赤字は856.61億ドルと、前月の853.56億ドル(修正値)を上回った

輸入の伸びが輸出を上回り、実質ベースのモノの貿易赤字は拡大。

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(作成:My Big Apple NY)

当該単月の輸出の内訳をみると、モノは前月比0.3%増と前月の0.9%増を含め2ヵ月連続で増加した。サービスを含めた6大項目別では、6~7月の3項目から4項目に増加した。資本財と自動車が2ヵ月連続で増加したほか、食品・飲料と産業財が増加に転じた。逆に、資本財と産業財は減少した。モノの輸出項目別動向は、以下の通り。

(増加項目)

・食品/飲料 4.1%増>前月は1.8%減、5ヵ月ぶりに減少
→金額ベースでの増加が最大だったのは中国の大規模購入に支えられ大豆で前月比9.7%増、そのほか小麦が17.4%増、魚・甲殻類が13.4%増だった。

・産業財 3.4%増、増加に反転>前月は3.9%減
→燃料が33.5%増、非貨幣用金が26.6%増、石油製品が7.2%増となった。

・自動車 2.7%増、2ヵ月連続で増加>前月は4.6%増
→トラック・バスが19.8%増、エンジン・エンジン部品が2.0%増となった。

・サービス 0.1%増、3ヵ月ぶりに増加>前月は0.2%減
→旅行が0.2%増だったほか、その他ビジネス・サービスが0.4%増となった。

(減少項目)

・消費財 4.8%減、減少に反転<前月は9.6%増
→医薬品が13.9%減、芸術・骨董品・切手が24.1%減、ダイヤモンド宝飾品が8.1%減となった。

・資本財 3.1%減、減少に反転<前月は1.9%増
→民間航空機が32.9%減、掘削・油田向け機器が74.4%減、鉄道・輸送機器が18.2%減となった。

輸入の内訳をみると、モノは0.6%増と3ヵ月ぶりに増加に転じた。原油価格が50ドル台を中心に推移するなか、量ベースでのエネルギー関連輸入が7.4%減と減少に反転している。前年比では16.1%減と、少なくとも5ヵ月連続で減少した。金額ベースでは、下落に転じた。エネルギー製品を除いたモノの輸入は前月比で1.2%増と、3ヵ月ぶりに増加した。5大項目別では2項目で増加し、前月の4項目から減少。今回は消費財が2ヵ月連続で増加したほか、資本財が3ヵ月ぶりに増加した。その半面、自動車と産業財、食品・飲料がそろって減少に転じた。項目別動向は、以下の通り。

(増加項目)

・消費財 1.1%増、前月から増加に反転>1.6%減
→金額ベースで増加幅が最大だったのは携帯電話・家庭用品で13.3%増となり、9月販売の新型iPhoneに絡んで増加した可能性がある。その他、医薬品が2.5%増、芸術・骨董品・切手が24.4%増となった。

・資本財 2.6%減、2ヵ月連続で減少<前月は0.6%減、減少に反転
→半導体が19.0%増、産業機器が7.0%増、通信機器が4.0%増となった。

(減少項目)

・産業材 2.0%増、前月から増加に反転>前月は6.9%減
→石油製品が19.5%減、原油が5.2%減、鉄鋼・製鋼が21.2%減となった。

・食品/飲料 0.6%増、前月から増加に反転>0.7%減
→果物・冷凍ジュースが8.6%減、ワイン・ビール・関連品が5.7%減、食用油・油種が11.4%減となった。

・自動車 0.3%増、前月から増加に反転>1.8%減
→乗用車が5.1%減、トラック・バスが0.6%減となった。

国別でのモノの貿易収支動向を前月比でみると、中国への赤字は前月比3.1%減の317.57億ドルと6ヵ月ぶりの高水準だった前月から減少に転じた。日本への赤字は1.4%減の62.45億ドルと、日米貿易交渉が8月末のG7首脳会談で合意に結び付くなかで縮小。欧州全体への赤字額は、WTOがエアバスの補助金に対する報復関税を承認する2ヵ月前、過去最高を更新した前月から20.9%減の189.80億ドルとなった。ジョンソン英首相就任で関係強化が目される英国への貿易収支は7.0億ドルの黒字となり、3ヵ月ぶりに赤字に転じた。前月から黒字へ戻した。

主な産油国への貿易収支は、対カナダで赤字を縮小させつつ対メキシコでは拡大した。石油輸出国機構(OPEC)に対しては、5ヵ月ぶりに黒字は反転している。メキシコに対する赤字額は前月比12.3%増の89.54億ドルで、増加に転じた。対カナダは58.6%減の14.26億ドルと減少に転じている。一方で、OPECへの貿易収支は7.0億ドルの黒字となり5ヵ月ぶりの黒字を計上した。なお、原油輸入量はカナダが前月比12.9%減、メキシコは9.4%増、OPECは11.6%増だった。金額ベースではカナダが16.6%下落、メキシコが2.2%上昇、OPECが10.9%下落した。

国別動向の年初来・貿易赤字は、1位は中国、2位はメキシコで変わらず、3位は4ヵ月連続で日本となる。2018年9月~19年1月まで3位だったドイツは、4位を維持した。貿易額でトップは少なくとも5ヵ月連続でメキシコとなり、2018年の中国から首位を奪った状況が続く。また、米商務省が7月2日に韓国、台湾の鋼材品をベトナムで最終加工する迂回輸出を抑制する狙いで最大456%の追加関税措置を発動したが、ベトナムからの輸入も引き続き拡大傾向にあることを確認した。結果、対ベトナムの貿易赤字は6月までの年初来6位から、今回5位へ浮上。代わりに、アイルランドがワンランク下落した。各国ごとの年初来の貿易収支動向は、以下の通り。

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(作成:My Big Apple NY)

――対中追加関税措置が発動されてから、引き続きメキシコとベトナムが対米貿易収支でそれぞれ30%台の増加となった。輸入ベースでは引き続きベトナムが34.2%増と、米国の対ベトナム貿易赤字拡大に合わせ突出して増加する状況です。

アイルランドとスイスに対する貿易赤字が年初来で30%台の増加となっている背景は、医薬品の輸入増が影響したとみられます。例えば、アラガンなど米国の製薬会社が租税回避を狙いアイルランドに本社機能や生産拠点を移転させるなか、アイルランドの米国向け輸入額は2018年に前年比17.5%増の576.8億ドルとなり、輸入額トップの医薬品は11.8%増でした。2009年との比較では輸入額が104.6%増に対し、医薬品は281.4%増です。競争力の高い製薬会社を数多く抱えるスイスも同様で、2018年の輸入額は前年比14.1%増、輸入額トップの医薬品は18.3%増でした。2009年との比較では、輸入額は156.1%増、医薬品は260.1%増となります。医療保険制度改革やオピオイド鎮痛薬などの普及、高齢化、肥満率上昇に伴う疾患患者の増加などが、医薬費需要を高めたのでしょう。

中国に視点を戻すと、米国が9月1日から残り約3,000億ドル相当の中国製品に課す第4弾の対中追加関税措置への報復措置として、中国は8月23日に米国の輸入品750億ドル相当への5~10%の追加関税発動を発表しました。これに対し、トランプ政権は第4弾の追加関税の税率の10%→15%、第3弾までの税率を25%→30%への引き上げを決定。さらにトランプ政権が米企業に中国からの撤退を要請するなど、米中貿易摩擦は一段と悪化の様相を呈しました。しかし、米国の対中輸出で製品別トップの大豆は8月に前月比9.7%増の29.5億ドルと、増やしています。

そもそも、大豆の輸出額は2018年7月に対中追加関税が発動してから急激に落ち込んだものの、足元で緩やかながら回復の兆しさえ見えます。

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(作成:My Big Apple NY)

対中追加関税の方針を打ち出した2018年3月を含め、大豆の中国向け輸出は2017年11月以降、前年比で減少をたどっていましたが、5月からは増加に反転。7月は2018年の落ち込みが激しかった分、8倍に膨らみました。季節要因として秋ごろに大豆輸出が急増するだけに、今回の米中通商協議で大豆など農産物の大量購入で妥結しても、中国にとっては例年のパターン通りとなり、痛くも痒くもないといったところでしょうか。

(カバー写真:Louis Vest/Flickr)

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