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12月FOMC:金利据え置き継続でも「冬眠」できないワケ

by • December 12, 2019 • Finance, Latest NewsComments Off2796

Will Fed Hibernate  The Whole Next Year?

※ドットチャートに誤りがありましたので、お詫びして訂正致します。大変申し訳ございません。

12月10~11日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、市場予想通りFF誘導金利目標を1.50~1.75%で据え置いた。7月30~31日開催分、9月17~18日開催分、10月29~30日開催分と合わせ3回連続で行なった「予防的利下げ」を終了させた格好だ。声明文では「委員会は現状の金融政策が(二大目標達成などに)適切と判断する」とし、据え置きへの転換を表明。利下げの根拠に挙げた「世界動向が示唆する経済見通しと低インフレ圧力を受けて」の文言を削除し、同様の文言を将来の金融政策に掛かる段落に移動させた。今後の金融政策が経済指標のほか、世界動向と物価次第であるという表現に変更させている。また、「不確実性が残存する」との文言を削除し、据え置き姿勢との整合性を確保した。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長も、会見で「現在の金融政策姿勢は、持続的な経済成長、力強い労働市場、対称的な物価目標2%の達成を支援すると確信する」と発言。結果、2020年末までのFOMC利下げ織り込み度は、むしろ直前の63.0%から69.0%へ上昇した。詳細は、以下の通り。

【景況判断】

※下線部は前回の声明文から追加された文言、取り消し線は今回削除された文言となる。

変更なし「10月のFOMC以降に入手した経済指標によれば、労働市場は力強さを維持したものの、経済活動はゆるやかなペースで拡大している。足元の雇用の伸びは概して堅調で、失業率は低水準を保つ。家計支出は力強く拡大したが、企業の固定投資と輸出は弱いままだ。全体とコアの物価は、前年比で目標値の2%を下回って推移している。市場ベースのインフレ指標は低水準を維持し、調査ベースの長期的なインフレ期待の指標はほぼ変わっていない」
米7~9月期成長率が潜在成長率を維持し、米11月雇用統計が引き続き好調で、設備投資インフレ指標に課題を残す状況は変わらず、文言変更を控えた。

【統治目標の遵守、政策金利について】

前回:「世界動向が示唆する経済見通しと低インフレ圧力を受けて、委員会は政策金利を1.1.50~1.75%へ引き下げた

今回:「委員会はFF金利誘導目標を1.50~1.75%で維持することを決定した」
※米中貿易協議で第1段階の合意で両首脳による署名が視野に入り、BREXITも合意なき離脱のリスクが低下したためか、文言を削除。ただし、同様の表現は今後の金融政策を示唆する別の段落へ移動。

前回:「今回の行動は、経済活動の持続的な拡大、力強い労働市場環境、2%近辺という委員会の対称的な物価目標の達成が、最も起こり得る結果とする見方を支援するがこの見通しへの不確実性は残存する

今回:「委員会は、現状の金融政策が経済活動の持続的な拡大、力強い労働市場環境、2%近辺という委員会の対称的な物価目標などの達成を支援するのに適切と判断する」
※7月、9月、10月にわたる3回の予防的利下げを経て、据え置きスタンスへの変更を表明。現行の金融政策を「適切」と判断する以上、「不確実性は残存する」との文言を削除。

前回:「委員会は、FF金利誘導目標の適切な道筋を見極める上で、今後入手する経済指標など見通しに関する情報が示唆する内容を注視し続けていく」

今回:「委員会は、FF金利誘導目標の適切な道筋を見極める上で、世界動向や低インフレ圧力を含め、今後入手する経済指標など見通しに関する情報が示唆する内容を注視し続けていく

【金融政策の運営方針】

変更なし「FF金利の目標誘導レンジを調整する時期や規模を決定する際、委員会は最大限の雇用と対称的な2%の物価目標に照らし合わせ、経済動向の実績と見通しを評価する。この評価には、労働市場環境をはじめ、インフレ圧力やインフレ見通し、金融動向や海外情勢の解釈など、幅広い情報を考慮する」

【票決結果】

票決は全会一致。前回は10人中、7月、9月に続き据え置きを求めたボストン地区連銀のローゼングレン総裁とカンザスシティ地区連銀のジョージ総裁の2人が反対票を投じていた。今年は8回のFOMCのうち、全会一致の決定は今回と合わせ1月、3月、5月の4回のみとなり、2018年の全8回から半減した。

FOMC参加者は、全員で17名。輪番制である地区連銀総裁からは今年、セントルイス地区連銀のブラード総裁、シカゴ地区連銀のエバンス総裁、カンザスシティ地区連銀のジョージ総裁、ボストン地区連銀のローゼングレン総裁が投票権を有する。2020年の投票メンバーは、フィラデルフィア地区連銀のハーカー総裁、ダラス地区連銀のカプラン総裁、クリーブランド地区連銀のメスター総裁、そしてミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁となり、ミネアポリス地区連銀総裁以外は全て予防的利下げ反対・慎重派となる。

【超過準備預金金利】

FOMCは、超過準備預金金利(IOER)を予想通り1.55%で据え置いた。なおIOERの調整は5月、8月、9月に続き年内4回実施。利上げ過程にあった2018年の6月、12月は、IOERの引き上げを25bpではなく20bpとし、FF金利上限からの乖離を広げていた。

【経済金利見通し】

12月FOMCでの経済・金利見通しによれば、成長見通しは2019年から長期見通しにわたり据え置いた。インフレ見通しは、コアPCEを2019年分のみ下方修正した。失業率は、米11月雇用統計などで1969年以来の水準へ低下するなかで、2019年から長期見通しにわたり力強い労働市場を反映する方向へ修正した。(※赤字は、今回修正された数字)。

12月FOMCでの経済・金利見通しは以下の通り。

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(作成:My Big Apple NY)

FF金利見通しは、10月利下げを背景に2019~22年にわたって下方修正した。2020年のFF金利見通しからは、据え置き派はまず、パウエルFRB議長を始めFRB副議長2名(クラリダ氏、クオールズ氏)、理事2名(ブレイナード氏、ボウマン氏)、ウィリアムズNY地区連銀総裁の指導部6名が想定される。それに加え、地区連銀総裁11人中、7名(以下4名を除く、筆者の予想:カンザスシティ地区連銀総裁、クリーブランド地区連銀総裁、フィラデルフィア地区連銀総裁、リッチモンド地区連銀総裁)が指導部に追随したもよう。2021~22年も今回、10月利下げの影響で小幅ながら下方修正された。

12月FOMCでのドットチャート

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(作成:My Big Apple NY)

【パウエルFRB議長の記者会見、質疑応答のポイント】

※記者会見の冒頭で表明する見解はこちらを参照。

●金融政策について
→「これまでの政策決定の流れを受け、金融政策は持続的な経済成長や力強い労働市場、対称的な物価目標2%を支援することで、米国民に役立っていくと確信する」
→「経済が弱い世界経済や貿易動向などに直面するなか、最大限の雇用と物価目標を最も達成させる金利の道筋に対する見方は昨年から大きく変わった。時が経過するにつれ、我々はこうした動向に対し金融政策上の緩衝材を与えるべく金融政策姿勢を調整し、関連するリスクに対し幾分の保険を与えた」
→「(75bpの利下げは)経済が見通し通り推移することを支援する」
→「現在の金融政策姿勢は、持続的な経済成長、力強い労働市場、対称的な物価目標2%の達成を支援すると確信する」
→「足元の経済指標が概して見通しに沿えば、現在の金融政策は適切であり続けるだろう
→「今後は、FF金利の道筋が適切かどうか評価する上で、見通しに関わるその他の情報と合わせ、政策決定の効果を注視し続けていく
→「仮に、実体的(material)見通しの再評価につながる動向が発生すれば、我々は適切に対応する
→「失業率が約50年ぶりの低水準にあるにも関わらず賃上げペースが加速しない状況で、(1995~96年や1998年と異なり)利上げの必要性は当時より低い
→「金融政策は、既定路線にはない」

●米経済について

→「経済見通しは、世界動向や今あるリスクにも関わらず、良好なままだ
→「経済はゆるやかに拡大してきた」
→「家計部門が力強い上、金融政策や金融環境の支援もあって、我々は経済がゆるやかに拡大し続けると予想する」
→「(今年直面したような貿易などの困難などを当初想定せず)こうした困難は驚きだった」

●物価について
→「物価は対称的な物価目標2%を下回り続けている」
→「物価が執拗に目標を下回り続ければ、長期インフレ見通しを引き下げ、実際の物価を押し下げうる」
→「(物価が押し下げられれば)金利は低下し、実効下限的制約(Effective Lower Bound)に近づく。そうなれば、将来的な減速局面で経済を支援するための引き上げ余地が低減し、米国の世帯と企業に悪しき結果をもたらす」
→「力強い労働市場と金融政策からの支援を受け、物価は2%へ上昇すると見込む」
→「物価を目標値へ戻すことは、米国でも海外でも困難だ。しかし、最善な方法で困難を乗り越えるべく、手段を講じていく」
→「業率が約50年ぶりの低水準にあるにも関わらず賃上げペースが加速しない状況で、(1995~96年や1998年と異なり)利上げの必要性は当時より低く・・・失業率が長きにわたって低水準で推移する見通しながら、賃金は反応していない。従ってむしろ物価が目標値2%を回復するよう、幾分の上方圧力が必要だ

●労働市場に対して
→「労働市場は力強いが、賃金の加速を確認していないように、ひっ迫していると考えていない」
→「(失業率の低下と賃金上昇の相関性が低下していることについて)50年前とは違って、Fedのインフレ抑制策が奏功し、相関性は弱まり続けている。ただし、両者には極めて薄いとはいえ相関性が残る・・・だからこそ金融政策は緩和的であるべきで、緩和的に設定している」

●資産買入再開、短期金利市場について
→「(米財務省短期証券、Tビルの買入という)テクニカルなオペレーションは、準備預金を潤沢な水準で維持し、金融政策の実施に負の効果を与える金融市場の圧力を解決することを狙ったもの」
→「足元、オペは順調で、気に入市場の圧力は足元の週で抑制されている」
→「FF金利をレンジ内に堅持すべく、オペの詳細を調整する準備がある」

●不確実性について
→「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の署名は、通商政策をめぐる不確実性を幾分払拭した」

●トランプ大統領への弾劾訴追について
→「そのようなことは考慮していない」

――FOMCは米中貿易協議やBREXITの進展に加え、2020年に米大統領選を予定する事情もあり、金利据え置きを継続する姿勢を明確に打ち出しました。ウォール街は、この状況を受け「Fedの冬眠」と表現しておりました。ただ、パウエル議長が米11月雇用統計を受けながら会見で「労働市場は逼迫していない」と述べたほか、「むしろ物価が目標値2%を回復するよう、幾分の上方圧力が必要だ」と発言するように、パウエル氏自身のバイアスは利下げに傾いているもよう。FF先物市場は、そんなパウエル氏の心情を察しているのか、2020年末までに1回以上の利下げを69%織り込む状況で、利下げ期待が大きいことが分かります。裏を返せば、利下げ期待が後退する局面では、こちらで指摘させて頂いたように、市場が下落に傾きかねません。

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(作成:My Big Apple NY)

インフレもさえませんから、Fedのドットチャートに反し利上げより利下げが視野に入ります。

トリム平均PCEは2%付近で安定的ながら下方向、NY地区連銀のインフレ見通しもダウンサイド。

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(作成:My Big Apple NY)

ただ、こちらで指摘させて頂いたように来年の地区連銀総裁はタカ派寄りが優勢。利下げのハードルは利上げほど高くないとはいえ、越えてくる場合は地区連銀総裁からの反対が予想されます。これがFedの分裂と判断されれば、金融市場に影響が及ばないとも限りません。Fedが本当に「冬眠」できるのか、まずは米中貿易協議・第1段階の合意をめぐり妥結できるか、第4弾の対中追加関税が発動を回避できるかが分かれ目となりそうです。

筆者は、Fedは「冬眠できない」と考えます。2020年内にわたり金利が据え置かれたとしても、Fedが既に「金融政策戦略、手段、コミュニケーションに関わる再検証」に取り掛かる通り、物価目標の回復を狙ったインフレ上振れを許容するため、物価目標を変更してくる可能性が高いと推察するためです。「物価水準目標」と「平均インフレ率目標」で議論されてますが、恐らく後者を選ぶのでしょう。金利据え置きでも枠組みを変える1年となれば、Fedは「冬眠」していられないはずです。

(カバー写真:Federalreserve/Flickr)

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