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米6月雇用統計:NFPは2ヵ月連続でミリオン達成も、喜べない理由

by • July 5, 2020 • Finance, Latest NewsComments Off2468

Record Job Gain Of 4.8 Million In June, But That Would Not Promise V-Shape Recovery.

米6 月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比480.0万人増となり、市場予想の300万人増を上回った。前月の269.9万人増(250.9万人増から上方修正)を超えたが、3~4月の記録的な減少(2,216万人)を回復するにはあと1,466万人必要となる。米労働統計局は、今回の劇的な改善につき「新型コロナウイルス・パンデミック感染拡大とそれに伴う感染防止策を経て、5月に続き経済活動再開の動きを反映した」と説明した。

チャート:コロナ禍で失った雇用を取り戻すには、まだ道半ば

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(作成:My Big Apple NY)

4月分の10万人の下方修正(2,070万人減→2,080万人減)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で9万人の上方修正となった。4~6月の3ヵ月平均は442.9万人減となり、引き続き2019年平均の17.5万人増からかけ離れた数字に終わった。

NFPの内訳をみると、民間就労者数も前月比476.7万人増と市場予想の290.9万人増を超えた。前月の323.2万人増(309.4万人増から上方修正)に続き、大幅な改善をたどる。民間サービス業も426.3万人増となり、前月の254.8万人増(242.5万人増から上方修正)を上回った。

チャート:NFP、失業率ともに2ヵ月連続で改善

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(作成:My Big Apple NY)

サービス部門のセクター別動向は、11業種中10種が増加し前月の7種を上回った。経済活動再開を受けレストラン利用状況が回復するなか、5月の雇用増の約半分を担った飲食店を含む娯楽・宿泊が引き続き雇用の回復を牽引し、6月の雇用増の43.5%を占めた。次いで5月に続き小売と教育・健康が入った。詳細は、以下の通り。

(サービスの主な内訳)

―増加した業種
・娯楽・宿泊 208.8万人増、2ヵ月連続で増加>前月は140.3万人増、6ヵ月平均は79.1万人減(そのうち食品サービスは148.3万人増>前月は146.2万人増、6ヵ月平均は303.1万人減)
・小売 74.0万人増、2ヵ月連続で増加>前月は37.2万人減、6ヵ月平均は21.2万人減
・教育・健康 56.8万人増、2ヵ月連続で増加>前月は39.9万人増、6ヵ月平均は28.2万人減(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は47.5万人増>前月は37.0万人増、6ヵ月平均は22.0万人減)

・その他サービス 35.7万人増、2ヵ月連続で増加>前月は26.1万人増、6ヵ月平均は12.3万人減
・専門サービス 30.6万人増、2ヵ月連続で増加>前月は16.0万人増、6ヵ月平均は30.1万人減(そのうち、派遣は14.9万人増>前月は4.7万人増、6ヵ月平均は11.8万人減)
・輸送/倉庫 9.9万人減、4ヵ月ぶりに増加>前月は2.8万人減、6ヵ月平均は8.0万人減
・卸売 6.8万人増、2ヵ月連続で増加>前月は1.2万人減、6ヵ月平均は5.3万人減

・政府 3.3万人増、4ヵ月ぶりに増加>前月は53.3万人減、6ヵ月平均は23.4万人減
・金融 3.2万人増、2ヵ月連続で増加>前月は1.0万人増、6ヵ月平均は3.4万人減
・情報 0.9万人増、4ヵ月ぶりに増加>前月は3.9万人減、6ヵ月平均は3.4万人減

―減少した業種
・公益 0.3万人減、4ヵ月連続で減少<前月は0.2万人減、6ヵ月平均は0.2万人減

財生産業は前月比50.4万人増と、過去最悪だった前月の68.4万人増(66.9万人増から上方修正)に続き増加した。経済活動の再開に伴い、前月に続き製造業と建設が牽引したが、油価が徐々に回復しているとはいえ鉱業は減少基調を保つ。詳細は、以下の通り。

(財生産業の内訳)

・製造業 35.6万人増、2ヵ月連続で増加>前月は25.0万人減、6ヵ月平均は12.9万人減
・建設 15.8万人増、2ヵ月連続で増加<前月は45.3万人減、6ヵ月平均は6.5万人減
・鉱業・伐採 1.0万人減、4ヵ月連続で減少(石油・ガス採掘は1,200人減)>前月は1.9万人減、6ヵ月平均は1.5万人減

チャート:サービス11業種中10種が増加

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(作成:My Big Apple NY)

平均時給は前月比1.2%下落の29.37ドル(約3,160円)と、市場予想の0.7%より下げ幅を広げた。前月の1.0%に続くマイナスで、2ヵ月連続の下落は少なくとも2006年以降で初となる。3~4月に反し、5月に続き娯楽・宿泊など低賃金職が雇用回復を牽引した結果、統計上の理由で押し下げられた。前年比はそれでも5.0%上昇、市場予想の5.3%に届かず前月の6.6%(6.7%から下方修正)に届かなかったとはいえ、高い水準を保ち前年比の3%超えは23ヵ月連続となる。

チャート:平均時給は前年比で4月をピークに鈍化

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(作成:My Big Apple NY)

週当たりの平均労働時間は34.5時間と、3~4月の34.2時間を上回った。ただし、統計が開始した2006年以来で最長となる前月の34.7時間には届いていない。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は39.2時間と、前月の38.9時間を上回り過去最低だった4月の38.1時間で一旦底打ち迎えた。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは33.6時間と、過去最長となった前月から短縮した。

失業率は11.1%と、市場予想の12.3%を下回った。前月の13.3%からも低下し、過去最悪だった4月の14.7%で一旦のピークアウトを示す。失業者は前月比323.5万人減の1,755万人となっただけでなく、就労者も同494.0万人増の1億4,218人と大幅増に転じている。

労働参加率は61.5%と、コロナ禍を受け1973年1月以来の低水準だった4月の60.2%、5月の60.8%から改善をたどった。就業率も、過去最低だった4月の51.3%→5月の52.8%を経て、今回は54.6%へ上昇した。

フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比2.1%増の1億1,894万人、前月から241.8万人増加した。パートタイムは同11.8%増の2,074万人となり、前月から244万人増加した。

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数が予想外に増加したため平均労働時間も短縮した者の、前月比3.7%増と2ヵ月連続でプラスとなった。平均時給が前月比で2ヵ月連続で下落するなか、雇用増が支え労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比2.4%増と、こちらも2ヵ月連続で増加した。

かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全失業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。

1)不完全失業率 採点-〇
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者や働く意思を持つ者などを含む不完全失業率は18.0%と、前月の21.2%から改善した。経済的理由でパートタイムを余儀なくされている労働者は前月比9.5%減の906万人と大幅に2ヵ月連続で減少した。

チャート:不完全失業率、労働参加率、就業率はそろって改善

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(作成:My Big Apple NY)

2)長期失業者 採点-〇
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要があるため、長期失業者に関連する項目が前月を上回った点は、労働参加率の改善が示すように長期失業者が経済活動の再開に合わせ労働市場へカムバックしつつある証左と言える。失業期間の中央値は13.6週と、前月の7.7週を上回った。2014年6月以来の高水準となる。27週以上にわたる失業者の割合は7.9%と、前月の5.6%、過去最低だった前月の4.1%から改善をたどった。平均失業期間は前月の9.9週から15.7週に伸び、こちらも統計開始以来で最低だった4月の6.1週で底打ちを示す。

3)賃金 採点-×
今回は前月比1.2%の下落と、前月の1.0%に続き2ヵ月連続で下落。前年比も5.0%と高い水準ながら、前月の6.7%を下回った。とはいえ、前年比で3%超えは23ヵ月連続。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比0.9%下落の24.74ドル。前年比でも5.6%の上昇と、前月の6.7%を下回った。

4)労働参加率 採点-〇
労働参加率61.5%と、1973年1月以来の低水準だった4月の60.2%、5月の60.8%着実な改善を遂げた。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。軍人を除く労働人口は前月比1.1%増の1億5,993万人と2ヵ月連続で増加し、非労働人口は同1.5%減の1億27万人と2ヵ月連続で減少した。

――労働参加率の改善は、働き盛りの男性でも明白です。全米の男性は季節調整済み、白人は季節調整前の数字で以下の通り。全米の25~34歳以外で上昇し、統計データ取得可能期間で最低を更新した4月から、改善を続けています。

・25~54歳 87.9%>前月は87.2%、6ヵ月平均は88.2%
・25~54歳(白人) 89.2%>前月、6ヵ月平均は89.6%
・25~34歳 86.1%<前月は86.4%、6ヵ月平均は87.5%
・25~34歳(白人) 88.2%>前月は88.0%、6ヵ月平均は89.2%

チャート:働き盛りの男性、労働参加率

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(作成:My Big Apple NY)

一方で、6月の失業率では米国で黒人と白人の失業率の格差が広がってしまいました。6月の白人の失業率が10.1%に対し、黒人の失業率は15.4%となり、両者の格差は5.3%ptと2015年5月以来で最大なんですよ。黒人の失業率と言えば、2019年8月に5.4%と過去最低を記録し、白人との失業率の差は2%ptへ縮小していたものですが、隔世の感がありますね。

・白人 10.1%、2ヵ月連続で低下<前月は12.4%、6ヵ月平均は7.2%
・黒人 15.4%、3ヵ月ぶりに低下<前月は16.8%と過去最悪、6ヵ月平均は10.5%
・ヒスパニック 14.5%、2ヵ月連続で低下<前月は17.6%、6ヵ月平均は10.0%
・アジア系 13.8、3ヵ月ぶりに低下<前月は15.0%と過去最悪、6ヵ月平均は7.9%

チャート:人種別の失業率

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(作成:My Big Apple NY)

しかも、こちらでお話したように今後は経済活動再開の一時停止や規制の再導入で、飲食を含む娯楽・宿泊を中心に雇用の回復が腰折れしかねず。黒人の失業率が過去最低を更新するまでの道のりは、長く険しくなりそうです。トランプ大統領再選に掛かる暗雲も、色濃くなった感は否めません。

何よりNFPが2ヵ月連続でミリオンを達成し、失業率も低下したとはいえ、経済活動再開の一時停止や規制を再導入する州が増加中です。7月以降の労働市場は、これまで雇用の改善を牽引してきた娯楽・宿泊を始め対面でのサービスを提供する職種で鈍化すること必至で、米経済のV字型回復期待が剥落することでしょう。

(カバー写真:Eden, Janine and Jim/Flickr)

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