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12月FOMC、量的緩和のガイダンスを導入―議長は気候変動題に言及

by • December 19, 2020 • Finance, Latest NewsComments Off3256

Fed Introduces Qualitative’ Approach, Sees Climate Change As An Emerging Risk To Financial System.

12月15~16日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、市場予想通りFF誘導金利目標を0~0.25%で据え置いた。資産買い入れについても、現状のペース(1ヵ月当たり1,200億ドル:米国債800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)400億ドル)を維持。ただし今回、事前予想の通り量的緩和に関し「著しい進展がみられるまで(until substantial further progress)」とするガイダンスを追加、超緩和政策が長きにわたって実施される道筋を補強した。声明文の変更点は以下の通り。 修正箇所は、太字下線部をご参照。

【緩和策の確約】

※4、6、7、9、11月声明文から据え置き。

「FOMCは、困難なときを迎える米国経済を支援すべく、あらゆる手段を活用すると確約し、その上で最大限の雇用と物価安定の目標を推進する」

【景況判断】

※11月から変更なし

「米連邦公開市場委員会(FOMC)は、困難なときを迎える米国経済を支援すべく、あらゆる手段を活用すると確約し、その上で最大限の雇用と物価安定の目標を推進する。

新型コロナウイルスは、全米及び全世界にわたって人々と経済に甚大な苦難を強いている。経済活動と雇用は回復し続けているが、未だ年初の水準以下にとどまる。(筆者注:活動の停滞により)需要が一段と弱まり、油価が年初に下落した結果、消費者物価指数が押し下げられている。経済、そして家計と企業の信用の流れを支援するための政策手段をある程度反映し、全体的な金融環境は緩和的であり続けた」

【政策金利、金融政策の方針】

※11月から変更なし

「経済の道筋は、ウイルスの状況に大きく依存する。公共衛生の危機は、短期的に経済活動や雇用、物価の大きな重石となり、中期的な経済見通しに多大なリスクをもたらし続けるだろう。委員会は、長期的に雇用の最大化とインフレ目標2%の達成を追求する。物価が執拗に長期的な目標以下で推移するなか、委員会はインフレ平均値がいずれ2%で推移し、長期インフレ見通しも2%でしっかりとどまるよう、物価が暫くの間、わずかに2%を上回ることを目指す。

委員会は、FF金利誘導目標を0~0.25%で据え置くことを決定、労働市場が雇用の最大化に則した水準に達し、インフレが2%へ上昇し暫くの間ゆるやかに2%を上回る軌道をたどると委員会が評価するまで、この目標レンジを維持すると見込む」

【量的緩和】

前回:「さらにFRBは市場が円滑に機能することを支えるべく、今後数ヵ月にわたり、米国債や政府機関の保証を得た不動産担保証券の買い入れ規模を少なくとも現状のペースで拡大し、市場の円滑化や、家計と企業の信用の流れを支援していく」

今回:「さらに、委員会の目標である雇用の最大化と物価安定に向け著しい進展がみられるまでFedは引き続き米国債を少なくとも毎月800億ドル、政府機関の保証を得た不動産担保証券を同400億ドル拡大し、市場の円滑化や、家計と企業の信用の流れを支援していく」

※変更なし

「金融政策の適切なスタンスを評価する上で、委員会は経済見通しに係る最新の情報が与える示唆を注視し続けていく。委員会の目標達成を妨げるリスクが表面化した場合、金融政策の姿勢を調整する用意がある。委員会は公共衛生や労働市場、物価から生じる圧力やインフレ見通し、金融動向は国際情勢など、広範囲にわたる情報を考慮に入れて評価していく」

【票決結果】

票決は全会一致、3月23日、30日の緊急会合と4~7月、11月に続いた。9月のみ、ダラス地区連銀総裁とミネアポリス地区連銀総裁2人が反対票を投じていた。11月はまた、ミネアポリス地区連銀総裁の代わりにサンフランシスコ地区連銀のデーリー総裁が出席していた。FOMC投票権保有者は10名で、そのうちFRB正副議長、理事、NY地区連銀総裁の6名が常任、地区連銀総裁は1年間の輪番制で4名となる。今年の地区連銀総裁投票メンバーはフィラデルフィア地区連銀のハーカー総裁、クリーブランド地区連銀のメスター総裁、ダラス地区連銀のカプラン総裁、ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁。

【経済・金利見通し】

今回発表された経済・金利見通しをめぐる修正は、以下の通り。

・FF金利見通し→9月同様に2023年末までの据え置きを示唆、長期見通しは2019年12月、20年6月、同9月と変わらず
・成長見通し→2020~22年は上方修正、2023年と長期見通しは下方修正
・物価見通し→全体の物価は2021~22年を上方修正、コアは2020年を下方修正、2021~22年は上方修正、2023年は据え置き

チャート:FOMC参加者の経済見通し

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(作成:My Big Apple NY)

【ドットチャート】

FOMC参加者17名全員が、前回に続き2022年まで0~0.25%での据え置きを予想。ただし、2022年は利上げを予想する1人の参加者が見通しを0.625%から0.375%へ大きく引き下げた結果、平均値は下方修正された。9月分から追加された2023年は中央値こそ9月から横ばいだったが、利上げを予想する参加者は4人から5人へ増加した。長期見通しは2019年12月、20年6月、同9月に続き据え置きだった。

チャート:ドットチャートは2023年末までのゼロ金利継続を示唆

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(作成:My Big Apple NY)
【パウエルFRB議長の記者会見、質疑応答のポイント】

〇金融政策について
→「“長期的な目標と金融政策戦略”で示した通り、雇用の最大化こそ広範囲にわたり、且つ包括的な目標とみなす
→「我々は、緩和的な金融政策を雇用と物価の目標を達成するまで継続すると見込む
→「金利については、委員会が雇用の最大化を達成し、物価が時に2%をゆるやかに上回りつつ2%に到達したと評価するまで、0~0.25%で維持することを適切とみなす」

〇量的緩和について
→「今回の声明で、雇用の最大化と物価安定の目標に向け著しい進展がみられるまで、毎月米国債を800億ドル、住宅ローン担保証券を400億ドル買い入れする方針を表明した」
→「我々は、今年のバランスシートを拡大させたことで、金融環境が実質的に緩和し、経済に多大なる支援を与えると信じる」
→「FF金利のフォワード・ガイダンスと合わせ、バランスシート拡大をめぐるガイダンスは、経済が発展するにつれ金融政策が大いに緩和的であり続けることを保証する」
→「成果型のガイダンスは、雇用と物価の目標に紐づいている。従って目標への進展が鈍れば、緩和的な政策を強める意図を表すものとされ、一段と低いFF金利やバランスシートの拡大の見通しにつながるだろう
→Q&Aの回答「(ツイストオペや年限を維持した上でのテーパリングについて)仮定の状況について回答を控えるが、我々は会合毎に全体的な金融政策の姿勢、金融動向、経済の異なる分野をみた上で、政策スタンスが変化すべきか協議する。経済が一段の緩和が必要とみなした時には、供給する用意がある。しかし、現状で我々は大いなる緩和策を提供し、適切な規模と考える。年限を維持し、規模を縮小するというのはカナダ銀行が行っているが、それはFOMCで討議し、議事要旨で確認でき、見方はまちまちだ」

〇緊急資金供給措置について
→「多くの資金供給措置は、米財務省が異例な環境に合わせ、支援を提供する緊急貸出に依存している」
→「こうしたプログラムは重要な信用市場を支え、民間の貸し手から通常の道筋を通じた信用の流れを回復させる目的がある」
→「異例な規模の貸出制度は、米議会と米財務省の支援によって成し遂げられた」
→「CARES法を通じた新規の融資と新たな買い入れは、12月31日以降は行われない見通しだが、必要とあれば、新たな貸出制度への支援につき財務省は為替安定資金から引き出す権限を有する」
→「緊急資金供給措置は貸出を行うのであって、支出するわけではない」
→Q&Aの回答「(緊急貸出制度について)我々は権限を有し、必要な時に法が定める範囲内で利用する」

〇景気刺激策など財政政策について
→「直接的な財政支援が必要だ」
→「足元の経済停滞は我々が生きてきたなかで最も深刻であり、経済活動や雇用がコロナ以前の水準へ戻すまで時間が掛かる見通しで、金融と財政両面での支援が引き続き必要である公算が大きい」
→Q&A「(米議会で協議中の約9,000億ドルの追加経済対策規模が十分かについて)追加経済対策が実現する可能性は極めて高いと世間で広く受け止められているが、詳細については米議会次第だ。しかし、コロナ禍での失業保険の期限切れや立ち退き期限の猶予を控え、家計や企業に財政支援が必要だ」

〇経済、労働市場、物価について
→「回復は予想より格段に早急に進みFOMCの参加者は2020年の成長見通しを9月から引き上げた。しかしながら、全体的な経済活動はコロナ禍以前の水準を下回り、引き続き高い不確実性を伴う
→「足元で経済の改善ペースはゆるやかとなった」
→「対照的に、旅行や宿泊など特に人々が密接に集合する必要がある業種で、サービス支出は低水準を維持した」
→「経済の停滞は全ての米国人に平等に訪れたわけではなく、衝撃に脆弱な人々に最も大きな打撃を与えた。特に、低賃金労働者やサービス部門のセクターや、黒人やヒスパニックでの失業率が高水準となっている」
→「経済見通しには、著しい不確実性が存在する」
→「ワクチンに関する最近のニュースはポジティブだが、ワクチンの生産と流通のタイミングを始め、異なるグループ間での効果を含め、大いなる課題と不確実性がある」
→「委員会のほぼ全員は、経済の不確実性が高まったと認識
→「見通しに関するリスク・バランスにつき、ほとんどの参加者は9月より下方リスクに傾いたと指摘しなかった」
→「半数を少し上回る参加者は足元、経済活動のリスクにつきほぼ均衡と判断し、ほぼ同数の参加者は物価について下方リスクに偏ったとの見方を示した
→Q&A「(コロナ感染者数の急増について)当初の予想を大幅に上回り、バーやレストランなど人々が集まる場所での活動を抑制させるだろう。感染者数は非常に多く、広範囲にわたって影響を及ぼすだろうが、どれほどの規模となるかはまだ分からない。その一方でワクチン供給が開始し、1~3月期末から4~6月初めにかけ、非常に多くの人々がワクチンを接種している見通しだ。その時に、米経済がどのような展開を迎えているか、向こう5~6カ月先がカギとなる」

〇資産価格について
→Q&A「(高止まりする住宅価格について)我々は、あらゆる資産価格と住宅価格を注視している。金融安定の側面から言えば、住宅価格は現状、懸念する水準にはなく、需要を反映したものだ。また、経済活動が停止した状況でのペントアップ需要もあるだろう。住宅価格は現時点で、金融安定上の懸念材料ではない
→Q&A「資産価格は少し割高にあるように見えるが、全体的にまちまちだ。我々は金融市場を注視しており、(監督責任に関して)枠組みを公表してきており、説明責任を果たしている」

〇気候変動対策について
→Q&A「Fedは12月15日に気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)に加盟したが、まず申し上げたいのは、気候変動がどのように我々の職務に影響するかについて理解していく上で、注意深く且つ熟慮しながら進めていくということだ。Fedを監視する政府などを含めた外部としっかり協力しながら、大いなる透明性をもって進めていく。

なぜNGFSに加盟したかという質問について、議会はFedあるいは他の金融当局に明確に気候変動に関わる役割を課していない上に、全米気候評価を管轄する規制当局ではない。しかし、気候変動は法律によって定められた既存の統治する範囲に関わるものだ。なぜかと言えば、我々の職務のひとつは銀行を規制し且つ監督することで、政府もそれを見込んでいる。だからこそ我々は、信用リスクを始め市場リスク、サイバーリスクなど多くのリスクに銀行が耐性を確保するよう見込む。気候変動は、金融機関や金融システム、そして経済に忍び寄るリスクである。

ただ、現段階では他と同様に気候変動がどのような影響をもたらすのかを理解する初期段階にあり、だからこそ(加盟する)83の中央銀行は共に研究し、最良の対応を認識していこうとしている。金融システムはグローバルなものであり、最良の対応策を世界の中銀と協議していきたい

金融政策の観点から言えば、実在する懸念材料であり、実際に注視すべきは金融機関の監督と、金融安定への問題にある。金融政策は、雇用の最大化と物価の安定で、気候変動と関連付けるべきかは、少なくとも私自身にとって、あまり明確ではない。しかし気候変動が与える金融市場と金融機関の盤石性や耐性への繋がりを理解する上で、なすべきことがあると思料する」

――量的緩和に関するガイダンスを公表しつつ、緩和余地も担保してきました。とはいえ、前傾姿勢で米国債の買い入れ規模を拡大する、あるいは年限を長期化するようなコミットメントはしていません。

何より、2023年の利上げを予想する参加者は前回の4名から5名に増加していました。2020~22年までの成長見通しが上方修正されたように、足元の米指標の改善と、ワクチン開発の進展を好感したのでしょう。そうなれば、コロナ感染者数が過去最多を更新中でも、追加経済対策の成立も期待されるなかでは、前のめりで追加緩和を示唆する必要はないと判断したと考えれます。

その一方で、個人的には資産価格に警戒感を表明しなかったのは興味深い。ゼロ近辺の金利政策を2023年末まで継続させ、量的緩和を長期的に行うことをコミットする状況では、米株高を許容しているようにみえます。もちろん、バブルの崩壊を防ぐべく、9月にお伝えしたようにマクロプルデンシャルな政策手段を駆使するのでしょうが。

何より、FOMC開催中にNGFSに正式加盟し、今回の記者会見で気候変動対策を金融安定の観点から政策に組み込む可能性を示唆したパウエル議長の発言は、バイデン政権発足後のFRBの在り姿について考えさせられます。そもそも、財務相に指名されたイエレン氏は前FRB議長であり、サンフランシスコ地区連銀総裁だった事情もあって専門の労働問題以外に気候変動問題にも精通し、FRB議長退任後はClimate Leadership Councilの創設メンバーに名を連ね、「炭素税」の導入を支持します。バイデン政権の気候変動対策とFedが足並みをそろえる上で、一肌脱ぐに違いありません。気候変動問題での中銀等の対応については、また別の機会にお伝えしますね。

(カバー写真:Federalreserve/Flickr)

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