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高速道路は「人種差別的」?ブティジェッジ長官のロジックとは

by • April 20, 2021 • Latest News, NY TipsComments Off2783

Is Racism Built Into American Highways?

バイデン政権は、ホワイトハウスのwebサイトに「人種問題」を最優先事項の一つとして掲げるだけでなく、政策でも是正を実現しようとあらゆる施策を講じています。追加経済対策でも、非白人農家向けの債務免除が含まれていました。

インフラ計画にも色濃く表れており、歴史的黒人大学(HBCUs)やマイノリティ受け入れ大学(MSIs)の研究拠点の創設支援や、公共住宅の改修支援などが人種問題への対応と捉えられます。

それだけでなく、バイデン政権はインフラ部門でも人種差別を是正しようと試み、ブティジェッジ運輸長官が旗振り役になっているのですよ。どのインフラが差別的かといいますと、「高速道路」。ブティジェッジ氏は、4月6日付けのインタビューで「国内の高速道路の一部は、人種差別が埋め込まれている」と発言。バイデン氏が発表したインフラ計画“米雇用計画”は、高速道路建設で分断された地域社会を「再びつなげていく(reconnect)」と語っていました。

画像:運輸長官に指名された直後のツイートでも、高速道路建設における人種問題を指摘

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(出所:Pete Buttigieg/Twitter)

共和党は冷ややかに受け止めますが、ブティジェッジ氏はいたって真剣そのもの。実際、インフラ計画をみると「過去の投資で分断された地域社会を再度結び付けていく」予算として、200億ドル割り当てています。さらに「気候変動対策型インフラ投資の恩恵の4割は、恵まれない地域に向かう」と明記。インフラ計画案では「過去の大規模投資と一線を画し、長期的にはびこってきた人種差別への対応を優先課題として挙げる」との看板に、偽りなしといった印象を与えます。

なぜ高速道路が「人種差別的」なのでしょうか?答えは、建設された時期が握っています。米国内の州間高速道路の大半は、アイゼンハワー政権下、人種差別撤廃を求め公民権運動が火を噴き始めた頃、1956年に成立した連邦補助高速道路法に基づき次々に整備されました。同法は、向こう10年間で250億ドルの資金を投じ、全長約6万5000㎞の州間高速道路網の建設を目指すという、巨大プロジェクトだったのです。田中角栄氏は首相就任前の1972年に”日本列島改造論”を発表しましたが、その16年前に産声を上げました。

高速道路の建設に合わせ土地の確保が必要となり、この時にターゲットとなったのが安価で入手できる地域、つまり非白人の居住エリアでした。ウォール・ストリート・ジャーナル)(WSJ)紙の論説が掲げる通り、当時の状況を振り返るレポートのタイトルは「高速道路の線に沿った分断(Segregation Along Highway Lines)」、「黒人の民家を走る白人の道路:高速道路再建にみる人種の分断(White Men’s Roads Through Black Men’s Homes: Advancing Racial Equity Through Highway Reconstruction)」など。高速道路建設で犠牲になった黒人居住者の悲嘆が聞こえてくるようです(ただし、白人系、イタリア系、ユダヤ系居住地区も立ち退きの対象になった例あり)。

こうした暗黒の歴史を塗り替えるべく、20年大統領選前後から高速道路の犠牲となった地域の復活を目指す運動が展開中。例えば、ロサンゼルス・タイムズ紙は20年6月に「人種差別と分断の象徴を取り壊したい?それなら、高速道路の土地をブルドーザーで均してしまえ」とのコラムを掲載しました。非営利団体のコングレス・フォー・ニュー・アーバニズム(CNU)は、NY州からコロラド州まで、撤去すべき“10の高速道路リスト”を提示しています。

問題は、どのように分断された地域をつないでいくか。例えば、CUNが挙げた解体リストに含まれるフロリダ州タンパの州間道路“I-275”の場合、撤去後に公共交通機関の充実を図る案が出ています。高速道路周辺の居住者の環境改善にもつながるとして、一部で歓迎されているもよう。また、NY州シラキュースの“I-81”は寿命を迎え代替案が検討され、NPOのReThink81は、車線を4つ以上敷かず歩行者や自転車利用者のため専用道路を広げつつ、再開発で町の復興を目指します。

解体と再開発にはお金がかかるわけで、バイデン政権はそこを支援していく方針です。ただし、高速道路の解体より多大なコストが予想されるのが再開発です。最たる例がボストンの“ビッグ・ディッグ”で、高架高速道路の中央幹線を地下化し、かつローガン国際空港と都市部を海底トンネルで繋げる巨大プロジェクトでした。その規模と技術面から全米で大いに注目されたわけですが、コストは当初の28億ドルから146億ドルと6倍に膨らみました。しかも、2032年までの金利負担を含めると、243億ドルに膨らむのだとか。期間にしても、1982年頃に開始し、終了したのは2004年です。しかも、2006年にはトンネル内のコンクリート板が落下し、1人が死亡する事件が発生しました。

画像:ビッグ・ディッグ・プロジェクトで完成したトンネル

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(出所:terraplanner/Flickr)

“ビッグ・ディッグ”プロジェクトは全米で最大規模の高速道路整備計画でしたから、極端な例と言えます。しかし、パンデミック後のインフラ計画は、都市から郊外へ移る人々の増加など変化を捉え、投資配分を検討していくべきではないでしょうか。

(カバー写真:Gage Skidmore/Flickr)

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