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米8月小売売上高は予想外に増加も、手放しで評価できない理由

by • September 16, 2021 • Finance, Latest NewsComments Off2045

Retail Sales Unexpectedly Increase, But Uncertainty Remains.

米8月小売売上高は前月比0.7%増と、市場予想の0.8%減に反しプラスとなった。前月の1.8%減(1.1%減から下方修正)を超え、年初来で5回目の増加となった。7月から子育て世帯向けに税控除を開始した効果が、新学期セールス実施も重なって8月になって表れた可能性がある。また、今年度の新学期入りからNY市のように対面の授業を再開しており、売上を押し上げたとみられる。

自動車とガソリンを除いた8月の小売売上高は前月比2.0%増と、前月の1.4%減(0.7%減から下方修正)から改善した。国内総生産(GDP)の個人消費のうち約4分の1を占めるコントロール小売売上高(自動車、燃料、建築材、外食などを除く)に至っては2.5%増と、市場予想の0.1%減に反しプラスとなっただけでなく、前月の1.9%減(1.0%減から下方修正)の下げ幅を打ち消し、年初来で4回目の増加となる。

チャート:小売売上高、前月比で増加に反転

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チャート:前年比はベース効果で過去最高の伸びとなった4月から鈍化を継続

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(作成:My Big Apple NY)

前月比の内訳をみると、主要13カテゴリー中9品目増加し、前月の5品目を上回った。今回、最も力強く増加したのは無店舗で、デルタ株感染拡大の影響に加え、新学期セールが支えになったようだ。そのほか家具や一般小売、食料・飲料、雑貨などが続いた。一方で、価格高騰と半導体不足による減産が痛手となり、3ヵ月連続で自動車・部品が最も弱い。その他、電気製品やスポーツ用品も減少した。なお、NY市は8月3日、カリフォルニア州サンフランシスコとルイジアナ州ニューオーリンズは8月12日、レストランやジムの利用など屋内活動でのワクチン接種を義務化した。18歳以上のワクチン接種完了者の割合が全米人口の76%(9月15日時点)を占めるものの、デルタ株感染拡大は横ばいにとどまった。前月比の項目別詳細は以下の通り。

(プラス品目)

・無店舗(主にネット)→5.3%減、年初来で5回目の増加>前月は4.6%減、6ヵ月平均は0.8%増
・家具→3.7%増、年初来で4回目の増加>前月は0.4%減、6ヵ月平均は1.5%増
・一般小売→3.5%増、年初来で4回目の増加>前月は1.0%減、6ヵ月平均は2.1%増(百貨店は2.4%増>前月は0.2%減、6ヵ月平均は3.9%増)

・食料/飲料→1.8%増、年初来で6回目の増加>前月は0.8%減、6ヵ月平均は0.8%増
・雑貨→1.4%増、年初来で5回目の増加>前月は0.5%増、6ヵ月平均は2.1%増
・建築材/園芸→0.9%増、年初来で3回目の増加>前月は1.0%減、6ヵ月平均は0.6%増

・ヘルスケア→0.2%増、年初来で5回目の増加>前月は0.8%減、6ヵ月平均は1.5%増
・ガソリンスタンド→0.2%増、年初来で7回目の増加<前月は2.0%増、6ヵ月平均は2.7%増
・服飾→0.1%増、年初来で5回目の増加>前月は2.7%減、6ヵ月平均は4.5%増
(横ばい品目)

・外食→横ばい<前月は1.3%増と年初来で6回増加、6ヵ月平均は4.5%増

(マイナス品目)

・スポーツ用品/書籍/趣味→2.7%減、年初来で6回目の減少<前月は1.9%減、6ヵ月平均は2.4%増
・電気製品→3.1%減、年初来で4回目の減少>前月は1.0%減、6ヵ月平均は2.8%増
・自動車/部品→3.6%減、年初来で5回目の減少>前月は4.6%減、6ヵ月平均は1.1%増

チャート:8月の品目別動向、無店舗や家具、一般小売、食料/飲料などが牽引

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(作成:My Big Apple NY)

――主要米メディアは、今回の結果を拍手喝采で迎えています。例えば、CNBCは「米8月小売売上高は予想外に増加、デルタ株感染拡大でも消費の力強さを示す(Retail sales post surprise gain as consumers show strength despite delta fears)」とのヘッドラインを掲げ、米経済回復の底堅さと個人消費の耐性を評価していました。テーパリングの準備を進める米連邦公開市場委員会(FOMC)にとっても、朗報です。

ただし、前月分が1.1%減→1.8%減と大幅に下方修正されていたほか、貯蓄率の高さの割に前月比の伸びは年初と比較すると力強さに欠けます。小売売上高は現金給付後の4月以降、増減を繰り返しますが以下の通り増加した月はマイナス幅を打ち消せていません。9月はハリケーン「アイダ」や「ニコラス」の影響も及ぶと想定され、再び下振れ余地を残します。

チャート:米小売売上高は4月以降、一進一退

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(作成:My Big Apple NY)

金額ベースでも米小売売上高は3月に成立した追加経済対策での現金給付後、概ね横ばいとなっています。

チャート:金額ベースの米小売売上高

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(作成:My Big Apple NY)

現金給付に頼らず高水準で踏みとどまっていると解釈できる一方で、飛躍的な伸びは期待できそうにありません。Fedがテーパリングを開始する過程で、個人消費の伸び悩みに配慮する必要があるでしょう。

(カバー写真:JoLynne Martinez/Flickr)

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