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米9月個人消費は堅調も、貯蓄率は19年末以来の低水準

by • October 29, 2021 • Finance, Latest NewsComments Off1827

U.S. Consumers Drew From Saving To Keep Spending.

米9月個人消費支出は前月比0.6%増と、市場予想と一致した。前月の1.0%増(0.8%増から上方修正)に届かなかったとはいえ、年初来で7回目の増加となる。

個人所得は同1.0%減と、市場予想の0.3%減より下げ幅を広げた。前月の0.2%増を下回り、4ヵ月ぶりに減少し、年初来で4回目のマイナスとなった。ただし、今回の減少は失業保険給付上乗せが9月4日に終了したためで、賃金・給与は好調な伸びを保った。

個人消費支出が堅調に伸びた一方で所得が減少したため、貯蓄率は7.5%と、新型コロナ感染拡大直前の水準(8.3%)を下回った。7月15日から開始した1人当たり最大300ドルの子育て世帯向け税額控除の前払いが開始するなか個人消費は増加したが、貯蓄率が低下しただけに年末商戦を控え裁量消費余地が狭まったかたちだ。詳細は以下の通り。

〇個人消費支出
子育て世帯向けの税控除前払いや賃金上昇を支えに、4ヵ月連続で増加した。米9月新車販売台数が20年5月以来の低水準だったため、耐久財は5ヵ月連続で減少。ただ、食品や服飾、雑貨、光熱費などが支え、非耐久財はガソリン価格が高騰し約7年ぶりの水準を付けるなかでも2ヵ月連続で増加した。デルタ株感染拡大が8月末でピークアウトするなか、サービスは6ヵ月連続で増加し個人消費支出全体を支えた。

・前月比0.6%増と市場予想と一致、8月は1.0%増(0.8%増から上方修正)
・前年比10.9%増と7ヵ月連続で増加したなかで最も小幅な伸び、8月は11.9%増
・インフレを除く実質ベースでの個人消費は前月比0.3%増と年初来で6回目の増加、8月は0.6%増
・前年比では6.2%増と7ヵ月連続で増加しなかで最も小幅な伸び、8月は7.4%増

個人消費支出の内訳(前月比ベース)
・財 0.5%増と年初来で6回目のプラス、前月は0.4%増
・耐久財 0.2%減と5ヵ月連続で減少し年初来で6回目のマイナス、前月は0.4%増
・非耐久財 0.9%増と年初来で5回目のプラス、前月は2.3%増
・サービス 0.6%増と7ヵ月連続で増加し年初来で8回目のプラス、前月は0.6%増

チャート:個人消費、前月比の項目別内訳

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(作成;My Big Apple NY)

〇個人所得
→子育て世帯向けの税控除前払いや賃金・給与が支えた半面、失業保険給付上乗せ終了がこうした伸びを押し下げた。賃金・給与は、7ヵ月連続で増加。その他、住宅価格の高騰を受け賃貸需要が高まり、家賃収入も3ヵ月連続で増加した。なお、米疾病対策センター(CDC)は8月、新型コロナウイルス感染予防策対策として、感染率が高い地域を対象に新たに10月3日まで住宅立ち退き猶予期間を設定。しかし、家主や不動産団体が撤回を求め提訴し、米連邦最高裁判所が8月26日に無効の判断を下した結果、家賃の上昇が進み始めている。

・前月比1.0%減と4ヵ月ぶりに減少し年初来で4回目のマイナス、市場予想の0.3%減から下げ幅を拡大、8月は0.2%増
・前年比では4.2%増と5ヵ月連続で増加、8月は6.0%増
・実質ベースでは前月比1.4%減と年初来で6回目のマイナス、8月は0.1%減
・前年比は0.2%減と過去6ヵ月間で5回目の減少、8月は1.7%増

所得の内訳は、名目ベースの前月比で以下の通り。

・賃金/所得 0.8%増と7ヵ月連続で増加(民間は0.9%増、政府部門は0.2%減)、前月は0.4%増
・経営者収入 0.7%減と2ヵ月連続で減少(農業は18.0%減、非農業は0.4%増)、前月は0.7%減
・家賃収入 1.3%増と3ヵ月連続で増加、前月は1.3%増
・資産収入 0.1%増、前月は横ばい(金利収入が0.1%増、配当が0.4%増)
・社会補助 7.0%減と3ヵ月ぶりに減少、前月は0.2%増
・社会福祉 横ばい、前月は0.5%増(メディケア=高所得者向け医療保険は0.7%増と5ヵ月連続で増加、メディケイド=低所得者層向け医療保険は0.1%減と3ヵ月ぶりに減少、失業保険は72.3%減と6ヵ月連続で減少、退役軍人向けは1.4%増と増加基調を維持、その他は0.9%増)

チャート:個人所得、前月比の項目別内訳

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(作成:My Big Apple NY)

〇可処分所得
・前月比1.3%減、前月の0.1%増をから転じ4ヵ月ぶりに減少
・前年比は2.3%増と年初来で7回目のプラス、7月は4.4%増
・実質ベースの可処分所得は前月比1.6%減と年初来で5回目のマイナス、7月は0.2%減
・前年比は2.0%減と過去6ヵ月間で5回目の減少、7月は0.2%増

〇貯蓄率
7.5%、8月の9.2%を下回りコロナ前の2019年12月以来の低水準

チャート:実質の個人消費は、貯蓄率の低下と共に大幅に伸びが縮小

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(作成:My Big Apple NY)

〇個人消費支出(PCE)デフレーター
→油価の上昇やサプライチェーン途絶による影響を受け、高止まりが続く。PCEデフレーターの前年比は1990年1月以来、コアPCEも1991年7月以来の高水準を維持した。インフレ加速は一時的との見方を示していたFRBだが、9月FOMCでは参加者はインフレ見通しを上方修正するなど、物価高への警戒を強めている。

・PCEデフレーターは前月比0.3%の上昇し市場予想と一致、8月は0.3%の上昇(0.4%から下方修正)
・前年比は4.4%上昇し市場予想と一致、1990年1月以来の高い伸び、8月は4.2%の上昇(4.3%から下方修正)
・コアPCEデフレーターは前月比0.2%上昇し市場予想と一致、8月は0.3%の上昇
・コアPCEの前年比は6~8月に続き3.6%上昇、1991年7月以来の高い伸びを維持、市場予想の3.7%は下回る

チャート:物価上昇を受け、実質賃金の伸びを抑制へ

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(作成:My Big Apple NY)

――米9月個人消費は前月比0.6%増と前月の1.0%増を下回ったとはいえ、堅調なペースを維持しています。インフレを除く実質ベースでの個人消費も同0.3%増と鈍化しつつ、コロナ感染者数の増加がピークアウトしたこともあって、プラスを維持しました。

人口の上位5州別のレストラン利用状況をみても、供給網の制約を受けつつ、サービス分野で人の出入りが戻り個人消費を支えている様子が分かります。NY市やサンフランシスコ市のように、ワクチン未接種者にレストランなど屋内活動を禁止する地方自治体を含まない共和党知事州のテキサス州やフロリダ州は、10月27日までの1週間で2019年比16.4%増、13.4%増に。米国でも5.8%減まで下げ幅を縮小しています。

チャート:レストラン利用状況、人の出入りが戻っている様子が明らかに

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(作成:My Big Apple NY)

一方で、個人所得が減少したため、今後の個人消費に不透明感が漂います。米9月個人所得の伸び減速は社会補助が前月比7.0%減で、そのうち9月4日に終了した失業保険給付上乗せ撤廃が同72.3%減と全体を押し下げました。肝心の賃金・給与はというと、10月ベージュブックにある通り人手不足により企業が賃上げやボーナスなどインセンティブを付与し同1.0%増と好調そのもの。ただ、貯蓄率が急低下し2019年末の水準まで低下していたため、やはり裁量消費の余地を狭めかねません。ガソリン高を始め食費、光熱費、家賃の上昇も重ります。小売業者は、今年のクリスマスに個人消費が息切れしないことを祈っていることでしょう。

(カバー写真:Subhash Roy/Flickr)

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