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米10月人員削減予定数、ワクチン接種義務化の順守拒否が押し上げ

by • November 5, 2021 • Finance, Latest NewsComments Off1726

Job Cuts Rise 28% Due To Vaccine Mandate Refusal.

10月のADP全国雇用者数、チャレンジャー人員削減予定数、新規失業保険申請件数をおさらいしていきます。

米10月チャレンジャー人員削減予定数は前年同月比で71.7%減の2万2,822人と、9ヵ月連続にて前年比で減少した。前月比では27.5%増と2ヵ月連続で増加した結果、5ヵ月ぶりの水準となった。

年初来では、前年同期比86.7%減の28万8,043人と、過去最低を更新した。

チャート:人員削減予定数は単月で過去最低、年初来では1997年以来の低水準

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(作成:My Big Apple NY)

チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスのアドリュー・チャレンジャー副社長は、増加の主因として「ワクチン接種義務化への順守拒否」を挙げ、人員削減予定数の22%に相当すると指摘した。また「10月の人員削減予定数は工場や店舗、部署などの閉鎖が理由で5,796人と最も多く、そのうち5,071人がワクチン接種義務化の順守拒否によるもの」と説明する。実際、人員削減予定数の理由のうち”ワクチン接種拒否”は10位に浮上。10月の業種別・人員削減予定数をみても「(バイデン政権が9月9日にコロナ対策強化でワクチン義務化対象に含まれた)ヘルスケアが3ヵ月連続で最多になった」と言及、「人手不足のなか、採用活動や人員確保の努力を困難にさせる」と締め括った。

人員削減が多かったセクターのランキングは、単月で以下の通り。1位は3ヵ月連続でワクチン接種義務化が影響したヘルスケアとなった。チャレンジャー社によれば「米食品医薬品局(FDA)が8月23日にファイザーのワクチンを承認した後にワクチン接種義務化が進む状況」で、民主党知事州を中心に少なくとも22州で医療従事者のワクチン接種または定期検査の義務化、そのうちNY州など6州で義務化を制定。NY州では、ワクチン接種義務化により3.4万人の医療従事者が失職すると試算されている。カリフォルニア州では医療保険大手がワクチン接種拒否の従業員を2,000人を出勤停止とするなど、他医療機関も無給措置を講じている。なお、前月は1位がヘルスケア、2位が産業財、3位が倉庫、4位がサービス、5位がテクノロジーだった。

1位 ヘルスケア 6,694人
2位 産業財 4,392人
3位 サービス 2,656人
4位 政府 1,884人
5位 小売 853人

チャート:年初来、月ごとのヘルスケアの人員削減数、全業種で2位に浮上

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(作成:My Big Apple NY)

なお、バイデン大統領による9月9日のワクチン接種義務化の指針を発表。連邦政府職員や医療従事者へのワクチン接種義務化の大統領に署名したほか、従業員100人以上の企業(約8,500万人)に要請した結果、義務化の対象は約1億人に及ぶ。11月4日時点で1回以上のワクチン接種したは成人で約2億人で80.7%、未接種の成人は約5,000万人とされる。

年初来では、以下の通り。今回、ワクチン接種拒否により人員削減が足元で急増するヘルスケアが2位に浮上した。ヘルスケアは8月に年初来で初めて上位5に食い込み、今回2位まで上昇したことになる。前月までの年初来では1位が航空・防衛、2位が通信、3位がサービス、4位がエネルギー、5位は2ヵ月連続で小売の代わりにヘルスケアがランクインした。

1位 航空・防衛 3万4,027人(前年同月は7万9,861人)
2位 ヘルスケア 2万5,148人(同14万8,499人)
3位 サービス 2万2,505人(同14万1,779人)
4位 エネルギー 1万9,545人(同3万5,949人)
5位 ヘルスケア 1万8,936人(同5万5,462人)

州別動向は、年初来で以下の通り。1位は8~9月まで2位だったカリフォルニア州が浮上したほか、ランク外だったニューヨーク州がミズーリ州に代わって5位に入った。前述したように、カリフォルニア州やNY州の民主党知事州の医療機関ではワクチン接種義務化が進み、大規模な人員削減という大鉈を振るったことが影響したとみられる。なお、年初来の人員削減予定数で最多となった航空・防衛産業が盛んで、ボーイングが本社を置くワシントン州は、1~7月までの1位だった。

1位 カリフォルニア州 4万3,164人(前年同月までの同39万238人)
2位 テキサス州 4万493人(年初来は16万508人)
3位 ワシントン州 3万8,778人(同9万3,697人)
4位 イリノイ州 1万5,470人(同6万226人)
5位 ニューヨーク州 1万3,678人(同23万8,390人)

リストラ実施の理由別ランキングは、年初来で以下の通り。今回、1位はワクチン接種拒否に絡み前月に続き閉鎖となった。前月は1位が閉鎖、2位は市場動向、3位は再編、4位は需要低下、⑤位はM&Aだった。なお、ワクチン接種拒否は6,843人で10位となり、9月の14位から急浮上した。新型コロナウイルスは3~4月に6位だったが、5~7月に7位、8月に8位を経て、今回は9位だった。

1位 閉鎖 5万9,367人
2位 再編 5万1,375人
3位 市場動向 4万8,629人
4位 需要低下 4万8,619人
5位 M&A 1万2,315人

チャート:人員削減の理由において、ワクチン接種義務化への順守拒否が急増

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(作成:My Big Apple NY))

採用予定数は前年同月比で79.6%減の5万2,042人だった。9月が約94万人と急増した反動で、前月比では94.4%減と3ヵ月ぶりに減少した。年初来では前年同期比43.4%減の165万5,906人だが、これは2020年に経済活動停止の解除の反動で急増した前年の反動によるものである。

チャート:10月の採用予定者数、9月の大幅増の反動もあって2019、22年以下の水準

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:採用予定数、年初来では9月分に押し上げられ削減予定数を上回る

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(作成:My Big Apple NY)

セクター別では、単月で以下の通り。年末商戦を控え、小売と輸送が目立った。

1位 小売 66万8,000人
2位 輸送 19万7,750人
3位 テクノロジー 5万6,339人
4位 自動車 1万900人
5位 ヘルスケア 1,820人

年初来では、以下の通り。

1位 小売 93万6,403人
2位 輸送 73万7,300人
3位 娯楽・宿泊 43万1,007人
4位 政府 11万6,612人
5位 倉庫 10万8,215人

なお、9月に入り年末商戦が近づくなかで、アマゾンは12.5万人、百貨店大手メイシーズも7.6万人の雇用計画を発表するなど、小売業は続々とフルタイムを見据えた臨時雇用に取り組みつつある。その反動で、10月の臨時雇用計画発表はわずかにとどまった。

▽米10月ADP全国雇用者数、4ヵ月ぶりの高水準

米10月ADP全国雇用者数は前月比57.1万人増となり、市場予想の40万人増を上回った。前月の52.3万人増(56.8万人増から下方修正)を超え、4ヵ月ぶりの高水準に。1回以上のワクチン接種率が8月2日に全米の成人人口の70%に達しバイデン政権の目標を達成し、デルタ株の感染拡大も8月末にピークアウトした結果、雇用回復が進んだ。また、米失業保険給付上乗せが9月6日に終了したことも、労働市場への復帰を促した可能性がある。なおADP全国雇用者数は民間のみであり、政府を含まない。

チャート:ADP全国雇用者数、10ヵ月連続で増加

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(作成:My Big Apple NY)

セクター別では、サービス部門が45.8万人増と前月の43.1万人増(修正値)を上回り、10ヵ月連続で増加した。内訳は以下の通り。

・娯楽/宿泊→18.5万人増、10ヵ月連続で増加<前月は20.0万人増
・専門サービス→8.8万人増、18ヵ月連続で増加>前月は5.8万人増
・貿易/輸送→7.8万人増、10ヵ月連続で増加>前月は6.6万人増
・教育/健康→5.6万人増、18ヵ月連続で増加>前月は5.4万人増
・その他→2.2万人増、10ヵ月連続で増加>前月は2.1万人増
・金融→1.5万人増、15ヵ月連続で増加<前月は1.9万人増
・情報→1.4万人増、3ヵ月連続で増加=前月は1.4万人増

財部門(製造業、建設、鉱業)は前月比10.2万人増と7月の4.2万人増を上回った。ただし、7ヵ月連続で増加している。内訳は以下の通り。

・製造業→5.3万人増、8ヵ月連続で増加>前月は4.3万人増
・建設→5.4万人増、8ヵ月連続で増加>前月は4.2万人増
・鉱業→0.6万人増、9ヵ月連続で増加<前月0.7万人増

ADPリサーチ・インスティチュートのニラ・リチャードソン首席エコノミストは、結果を受け「労働市場は勢いを取り戻し、第3四半期は平均で就労者が月当たり38.5万人増加し、年初来で約500万人の増加となる」と振り返った。業種では「財部門が幅広く増加しており、サービス部門も力強い伸びを示す」状況。また企業規模では「大企業の採用活動が著しく、2ヵ月連続で大幅増となった」とのコメントを寄せた。

▽米新規失業保険申請件数、コロナ禍での最低を更新

10月30日週までの米新規失業保険申請件数は26.9万件と、市場予想の28.1万件を下回った。前週の28.3万件(修正値)以下となり、5週連続で減少。20年3月7日週以来の低水準となる。9月4日に失業保険給付上乗せが終了するタイミングとデルタ株の感染拡大のピークアウトが重なるなか、順調に改善を続けている。

10月23日週までの継続受給者数は210.5万人と、前週の223.9万人(修正値)を下回り、2020年3月14日週以来の低水準だった。詳細の結果は、以下の通り。

・新規失業保険申請件数(10/30週)1.4万人減の26.9万件、5週連続で減少
・継続受給者数(10/23週)→前週比13.4万人減の210.5万人、6週連続で減少し2020年3月14日週以来の低水準
・失業者に占める被保険者の割合(同)→2.0%、前週の2.1%を上回り20年3月21週以来の水準に並ぶ
・PAU(同)→前週比626人減の2,195人

チャート:米新規失業保険申請件数は、20年3月以来の低水準

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(作成:My Big Apple NY)

――米10月チャレンジャー人員削減予定数は低水準ながら、ワクチン接種義務化の順守拒否を理由に増加していました。バージニア州知事選で、コロナ対策強化を打ち出した民主党候補を共和党のヤンキン候補が打ち破った構図が浮かび上がります。

バイデン政権は11月4日に、従業員100人以上の企業へのワクチン接種義務化について指針を発表しました。年末商戦を控え年明けを求めた企業の主張が通ったのは人手不足に喘ぐ事情の他、従業員である一般市民の声が届いたことも一因でしょう。しかも、事前に政府委託業者に対して義務化の指針を緩和した通り、屋外勤務あるいは在宅勤務の従業員は免除とするなど、かなり企業に裁量を設けています。

バイデン政権の支持率低下は8月15日のタリバンによるアフガン陥落が大きいと言われますが、保守派メディアは、9月9日に発表したワクチン接種義務化を含むコロナ対策強化により、特に黒人の間で支持率が低下した報道していました。そうなれば、バイデン政権が中間選挙に向け、バージニア州知事選の敗北もあって、軌道修正してもおかしくありません。

(カバー写真:Hayley Tschetter/Flickr)

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