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米10月雇用統計・NFPは予想超えも、労働参加率は改善せず

by • November 5, 2021 • Finance, Latest NewsComments Off2157

Job Growth Shows Strong Rebound, But Worker Shortages Remain.

<本稿のサマリー>

米10月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、3ヵ月ぶりに市場予想を上回る増加を遂げました。新型コロナウイルス感染者が減少し経済が再び正常化する過程で、労働市場が再び勢いづき始めたようです。年末商戦前の臨時雇用も、下支えしたことでしょう。失業率は改善基調をたどりますが、労働参加率の伸び悩みが一因でした。米失業保険給付上乗せが9月6日に終了し、長期失業者の指標は改善がみられますが、彼らの一部は労働市場から退出した可能性を示唆します。平均時給は引き続き上昇しつつ、前月比と前年比ともに予想通りにとどまりました。労働参加率が改善しないように人手不足が深刻化し、賃上げ圧力が一段と高まるリスクをはらみます。そうなると、11月FOMCでFedが物価に対し「一時的と見込まれる要因」と「見込まれる」との文言を追加し、パウエルFRB議長の記者会見でも雇用の最大化をめぐり定義の明確化を回避したのは合点がいきます。労働参加率が低推移でも、インフレ加速局面で利上げできるよう地均ししたのでしょう。

今回の結果を受け、米株の主要3指数はNY時間13時半時点で米株相場は上昇しダウは300ドル高に。米債市場は買いで反応(米債利回りは低下)し米10年債利回りは1.5%を割り込みました。米債利回りの低下は、NFPや平均時給の伸びが予想の範囲内で、Fedのテーパリングや利上げの予想を前倒しするほどではないと判断されたもようです。さらに、雇用統計を受けて財政拡大路線が困難になったとの見方もあって、米国債の発行減が意識されたと考えられます。金利低下を受け、ドルは売り優勢となっています。今回のポイントは、以下の通り。

(労働市場にポジティブ)

・NFPの増加幅は3ヵ月ぶりに50万人超え
・過去2ヵ月分では合計で23.5万人の上方修正
・雇用の先行指標である派遣が3ヵ月ぶりに増加
・平均時給は前月比と前年比ともに力強く上昇
・失業率は4.6%、20年3月以来の低水準
・就業率は58.8%、20年3月以来の水準を回復
・不完全就業率は8.3%、コロナ感染拡大直前の20年2月以来の低水準
・長期失業者の割合は31.6%と20年9月以降で最低、失業期間の中央値なども軒並み改善
・フルタイムの雇用が増加(パートタイムも増加)

(労働市場にネガティブ/ニュートラル)

・週当たり労働時間は前月以下、財部門が下押し
・労働参加率は前月比横ばい、レンジ61.4~61.7%を突破できず

米10月雇用統計の詳細は、以下の通り。

米10月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比53.1万人増となり、市場予想の45万人増を上回った。前月の31.2万人増(19.4万人増から上方修正)を超え、3ヵ月ぶりの高い伸びに。年初来から10ヵ月連続の増加となる。8月2日に成人人口における1回以上のワクチン接種率が70%を突破し、デルタ株感染拡大も9月以降にピークアウトした結果、雇用の回復につながった。

8月分の11.7万人の下方修正(36.6万人増→48.3万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で23.5万人の上方修正となった。8~10月の3ヵ月平均は55.0万人増と、コロナ禍前の2019年平均である16.8万人増を大幅に上回った水準を維持した。

20年5月以降、今回で1,816万人の雇用を取り戻した。ただ、同年3~4月の記録的な減少(2,236万人)を打ち消し同年2月の水準を回復するには、あと約420万人必要となる。

チャート:コロナ禍で失った雇用を取り戻すには、あと約420万人増加する必要あり

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(作成:My Big Apple NY)

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比60.4万人増と市場予想の42万人増を上回った。前月の36.5万人増(31.7万人増から上方修正)を含め、10ヵ月連続で増加した。民間サービス業は49.6万人増、前月の29.5万人増(31.7万人増から上方修正)を上回った。

チャート:NFPは10ヵ月連続で増加し、失業率も20年3月以来の水準に低下

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(作成:My Big Apple NY)

サービス部門のセクター別動向は、政府を含め11業種中で9種が増加した。今回最も雇用が増加した業種は9月に続き娯楽・宿泊で、次いで前月2位の専門サービス、3位に教育・健康が入った。一方で、前月に続き公立学校の教員などが押し下げ政府が減少。公益は横ばいにとどまった。

(サービスの主な内訳)

―増加した業種

・娯楽/宿泊 16.4万人増、9ヵ月連続で増加>前月は8.8万人増、6ヵ月平均は24.1万人増(そのうち食品サービスは11.9万人増>前月は4.0万人増、6ヵ月平均は14.7万人増)
・専門サービス 10.0万人増、6ヵ月連続で増加>前月は7.6万人増、6ヵ月平均は8.8万人増(そのうち派遣は4.1万人増、3ヵ月ぶりに増加>前月は0.6万人増、6ヵ月平均は2.2万人増)
・教育/健康 6.4万人増、9ヵ月連続で増加>前月は1.3万人増、6ヵ月平均は5.9万人増
(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は4.7万人増、9ヵ月連続で増加>前月は3.4万人増、6ヵ月平均は2.8万人増)

・輸送/倉庫 5.4万人増、6ヵ月連続で増加<前月は5.7万人増、6ヵ月平均は4.6万人増
・小売 3.5万人増、2ヵ月連続で増加<前月は5.7万人増、6ヵ月平均は3.2万人増
・その他サービス 3.3万人増>前月は1.0万人減と9ヵ月ぶりに減少、6ヵ月平均は3.2万人増

・金融 2.1万人増、8ヵ月連続で増加>前月は0.7万人増、6ヵ月平均は1.3万人増
・卸売 1.4万人増、2ヵ月連続で増加>前月は0.7万人増、6ヵ月平均は1.2万人増
・情報 1.0万人増、11ヵ月連続で増加>前月は0.4万人増、6ヵ月平均は1.6万人増

―横ばいの業種

・公益 横ばい=前月も横ばい、6ヵ月平均は0.1万人減

―減少した業種

・政府 7.3万人減、3ヵ月連続で減少<前月は5.3万人減、6ヵ月平均は5.7万人増

財生産業は、前月比10.8万人増となった。前月の6.5万人増(修正値)を上回り6ヵ月連続で増加した。業種別をみると、製造業が6ヵ月連続で増加したほか、油価が10月8日に2014年以来の80ドルを突破し上値を試すなか、鉱業・伐採は9ヵ月連続で増加した。建設は住宅市場の在庫ひっ迫と価格高騰を受けながら、2ヵ月連続で増加した。詳細は、以下の通り。

(財生産業の内訳)

・製造業 6.0万人増、6ヵ月連続で増加>前月は3.1万人増、6ヵ月平均は4.4万人増
・建設 4.4万人増>前月は3.0万人増、6ヵ月平均は1.0万人増
・鉱業/伐採 0.4万人増(石油・ガス採掘は1,200人増)、9ヵ月連続で増加=前月は0.4万人増、6ヵ月平均は0.6万人増

チャート:10月のセクター別増減

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:20年2月との比較、民間サービス部門は2.6%減となり引き続き輸送・倉庫のみ当時の水準を上回りつつ小売が0.9%減、専門・サービスも1.0%減まで下げ幅を縮小。財部門は2.2%減、全てマイナス圏だが製造業と建設は2%台にとどまる。鉱業・伐採が下押し5.7%減。

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(作成:My Big Apple NY)

平均時給は前月比0.4%上昇の30.96ドル(約3,530円)と、市場予想と一致した。前月の0.4%(0.6%から下方修正)を含め6ヵ月連続で上昇した。前年比は4.9%上昇し市場予想と一致しつつ、前月の4.6%を超え、8ヵ月ぶりの高い伸びとなり賃上げ圧力を確認した。

チャート:平均時給は力強く伸び、賃上げ圧力を示唆

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(作成:My Big Apple NY)

週当たりの平均労働時間は34.7時間と、市場予想と前月の34.8時間を下回った。2006年以来の最長を記録した1月の35時間を9ヵ月連続で下回った。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は39.9時間と、2019年3月以来の高水準に並んだ前月の40.4時間を大幅に下回った。逆に、全体の労働者の約7割を占める民間サービスは33.7時間と、年初来の最低となる9月までの3ヵ月間の33.6時間から漸く上向いた。ただ、2006年以降で最長を記録した1月の33.9時間以下が続く。

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数が前月を上回る伸びだったが、平均労働時間が小幅ながら短縮したため、前月比0.2%増と9月の伸びを下回りつつ8ヵ月連続で増加した。平均時給が7ヵ月連続で上昇しただけでなく前月を上回った結果、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比0.5%増、ただし9月以下の伸びにとどまった。

失業率は4.6%と、市場予想の4.7%と前月の4.8%を下回り2020年3月以来(4.4%)の低水準となった。失業者が25.5万人減少しただけでなく、就労者数が35.9万人増加していた。その他、労働参加率の伸び悩みが失業率を押し下げたとみられる(後述)。ただし、自発的離職者数は4ヵ月ぶりに増加しており、ワクチン接種義務化の影響が一部現れた可能性がある。労働統計局によれば、引き続き一時解雇された労働者が「雇用されているが休職中」として扱われるなど正確に反映されていない場合があり、これを考慮すると失業率は4.7%だったという。

労働参加率は前月通り61.6%と、市場予想の61.7%を下回った。ワクチンが普及する状況でも、労働参加率は20年6月以降、61.4~61.7%の狭いレンジにとどまり、コロナ感染拡大直前の20年2月の63.4%以下で推移し続けている。

就業率は58.8%と、前月の58.7%を上回った。20年3月以来の高水準だが、コロナ前の61.1%を下回ったままだ。

コロナ禍を理由に在宅勤務を行ったとする労働者の割合は11.6%と前月の13.2%を下回り、コロナ禍で最低を更新した。

コロナ禍が理由で過去4週間に職探しをしなかった労働者は10月に129万人と、コロナ禍以降で最低となった。しかし、労働参加率は伸び悩みが続く。

チャート:職探しをしなかった労働者は減少、労働参加率は低下

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(作成:My Big Apple NY)

フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比0.2%増(27.9万人増)の1億2,831万人だった。一方で、パートタイムは同0.6%増(15.9万人増)の2,591万人と、前月から増加に転じた。

かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全就業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。

1)不完全就業率 採点-〇
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む完全就業率は8.3%と、前月の8.5%を下回り20年2月以来の水準に低下した。

チャート:不完全就業率は急速に改善、就業率も右肩上がり。

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(作成:My Big Apple NY)

2)長期失業者 採点-〇
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の平均値は26.7週と、前月の28.4週から短縮し9ヵ月ぶりの低水準失業期間の中央値も12.0週と前月の13.3週から短縮し、2020年5月以来の低水準。6月に2012年1月以来の高水準(19.8週)に並んだ後、9月6日の失業保険給付上乗せ撤廃に合わせ急速に改善た。27週以上にわたる失業者の割合は31.6%と前月の34.5%を下回り、当時の失業保険給付上乗せが再開した2020年9月以来で最低となった。バイデン政権下で失業保険給付上乗せが21年9月6日に終了した後、労働参加率は概ね横ばいながら、長期失業者の割合は低下しており労働市場から退出した可能性を示唆する。

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は、共和党知事州で失業保険給付上乗せの前倒し終了が取り沙汰された7月以降に急低下

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(作成:My Big Apple NY)

3)労働参加率 採点-×
労働参加率は6~8月の61.7%を経て、9月に続き61.6%。1973年1月以来の低水準だった20年4月の60.2%を上回った水準を保つが、20年6月以降、61.4~61.7%のレンジを維持。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。

4)賃金 採点-〇
今回は前月比0.4%と7ヵ月連続で上昇し、前年比は4.9%と8ヵ月ぶりの高い伸びだった。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.4%上昇の26.26ドル、前年比は5.8%の上昇と経済活動が再開し始めたばかりの2020年5月以来の上昇率を記録、3ヵ月連続で前年比は管理職を含めた全体を上回った。

(カバー写真:Mike Mozart/Flickr)

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