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米7月雇用統計を受け75bp利上げ観測急浮上、フルタイム労働者は減少でも

by • August 5, 2022 • Finance, Latest NewsComments Off3516

Stronger Than Expected Jobs Report Bolsters The Case Of  75bp Rate Hike.

<本稿のサマリー>

米7月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、米7月チャレンジャー人員削減予定数が減少したように5ヵ月ぶりの強い伸びを記録しました。さらに、NFPの水準と失業率は新型コロナウイルス感染拡大直前にあたる2020年2月以来の水準を回復。米国を襲う熱波のように労働市場の過熱を表すかのような結果でしたが、質的には健全な内容とは言い難い労働参加率が低下したほか、フルタイム労働者が2ヵ月連続で減少していたのです。また、NFPの増加は前月と同じく複数の職を持つ労働者が押し上げた可能性を示唆しました。平均時給は労働参加率の低下を受け高止まりしつつ、生産労働者・非管理職部門でピークアウト感がちらつきます。

とはいえ、市場では労働市場の力強さと賃金インフレの執拗さを示すと判断され、FF先物市場では9月20~21日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で75bp利上げの確率が上昇しました。景気後退懸念より、インフレ抑制が重要と見直された格好です。

チャート:FF先物市場、9月FOMCにつき75bp利上げ予想が逆転

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(作成:My Big Apple NY)

米7月雇用統計のポイントは、以下の通り。

(労働市場にポジティブ)

・NFPが5ヵ月ぶりの力強い伸び(NFPの水準自体はコロナ前の水準へ戻す)
・過去2ヵ月分のNFPが上方修正
・失業率はコロナ前の水準を回復
・就業率は上昇
・長期失業者の割合は、20年8月以来の低水準(ただし、労働市場から退出した可能性も)

(労働市場にネガティブ/ニュートラル)

・労働参加率は低下
・フルタイムの労働者が減少(複数の職を持つ労働者とパートタイムは増加)
・不完全就業率は過去最低から若干ながら上昇
・平均時給は、生産労働者・非管理職部門で鈍化(インフレ圧力鈍化という意味ではポジティブ)
・週当たり労働時間は、5ヵ月連続で横ばい

米7月雇用統計の詳細は、以下の通り。

米7月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比52.8万人増となり、市場予想の25万人増を上回った。前月の39.8万人増(37.2万人増から上方修正)を超え5ヵ月ぶりの高い伸びとなり、19ヵ月連続で増加した。

5月分の0.2万人の下方修正(38.4万人増→38.6万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で2.8万人の上方修正となった。4~6月の3ヵ月平均は43.7万人増となった。経済正常化に合わせ、2021年平均の56.2万人増を4ヵ月連続で下回った。

非農業部門就労者数は20年5月以降、今回で2,203万人の雇用を取り戻した結果、同年3~4月の記録的な減少(2,199万人)を打ち消した。7月は1億5,254万人と、20年2月の1億5,250万人を上回った。

チャート:20年2月の水準を回復するまで、2年と5ヵ月を要した格好。

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(作成:My Big Apple NY)

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比47.1万人増と市場予想の23万人増を上回った。前月の40.4万人増(38.1万人増から上方修正)を含め、19ヵ月連続で増加した。民間サービス業は40.2万人増、前月の35.3万人増(33.3万人増から上方修正)を下回った。

チャート:NFPは5ヵ月ぶりの高い伸び、失業率は20年2月以来の低水準に並ぶ

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(作成:My Big Apple NY)

サービス部門のセクター別動向は、11業種中で前月通り10業種が増加した。今回最も雇用が増加した業種は教育/健康、2位は娯楽/宿泊、3位は専門サービスが入った。一方で減少はゼロ、公益のみ横ばいだった。

(サービスの主な内訳)

―増加した業種

・教育/健康 12.2万人増、27ヵ月連続で増加>前月は10.9万人増、6ヵ月平均は8.7万人増(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は9.7万人増、13ヵ月連続で増加>前月は8.8万人増、6ヵ月平均は7.0万人増)
・娯楽/宿泊 9.6万人増、18ヵ月連続で増加>前月は7.4万人増、6ヵ月平均は8.8万人増(そのうち食品サービスは7.8万人増>前月は6.6万人増、6ヵ月平均は6.9万人増)
・専門サービス 8.9万人増、15ヵ月連続で増加<前月は9.1万人増、6ヵ月平均は7.8万人増(そのうち派遣は1.0万人増、15ヵ月連続で増加>前月は0.4万人増、6ヵ月平均は0.7万人増)

・政府 5.7万人増>前月は0.6万人減と8ヵ月ぶりに減少、6ヵ月平均は2.2万人増
・小売 2.2万人増、2ヵ月連続で増加=前月は2.2万人減、6ヵ月平均は3.4万人増
・輸送/倉庫 2.1万人増と27ヵ月連続で増加=前月は2.1万人増、6ヵ月平均は3.4万人増

・その他サービス 1.5万人増>前月は0.1万人減と18ヵ月ぶりに減少、6ヵ月平均は1.5万人増
・情報 1.3万人増、21ヵ月連続で増加<前月は2.4万人増、6ヵ月平均は1.7万人増
・金融 1.3万人増、13ヵ月連続で増加<前月は0.6万人増、6ヵ月平均は1.7万人増
・卸売 1.0万人増、24ヵ月連続で増加>前月は0.6万人増、6ヵ月平均は1.8万人増

―横ばいの業種

・公益 横ばい<前月は0.1万人増、6ヵ月平均は横ばい

―減少した業種

なし

財生産業は6月と同じく前月比6.9万人増で、15ヵ月連続で増加した。業種別をみると、製造業が15ヵ月連続で増加した。建設は3ヵ月連続で増加。油価が景気後退懸念で8月に向け90ドル割れへ向かう過程で、鉱業・伐採は小幅ながら6ヵ月連続で増加した。詳細は、以下の通り。

(財生産業の内訳)

・建設 3.2万人増、3ヵ月連続で増加>前月は1.6万人増、6ヵ月平均は2.6万人増
・製造業 3.0万人増、15ヵ月連続で増加>前月は2.7万人増、6ヵ月平均は4.1万人増
・鉱業/伐採 0.7万人増(石油・ガス採掘は0.2万人増)、6ヵ月連続で増加<前月は0.8万人増、6ヵ月平均は0.8万人増

チャート:セクター別、就労者の増減

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:20年2月との比較、民間サービス部門は前月の0.1%増→0.5%増と2ヵ月連続でプラス圏をたどった。11業種中で当時の水準を上回るのは5業種で変わらず。輸送・倉庫(12.9%増、21ヵ月連続)、専門サービス(4.6%増、10ヵ月連続)、情報(4.0%増、8ヵ月連続)、小売(1.3%増、7ヵ月連続)、金融(1.1%増、6ヵ月連続)となる。財部門は前月の0.2%減→横ばいとマイナス圏から脱した。建設が2ヵ月連続でプラスとなっただけでなく、製造業が前月の0.1%減から0.3%増とコロナ禍以降で初めてプラス圏に反転(前月は横ばいに下方修正)。建設(1.1%増、3ヵ月連続)と製造業(0.3%増、2ヵ月連続)でプラスだった一方で、鉱業・伐採は7.4%減と引き続きマイナス圏をたどった。

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(作成:My Big Apple NY)

平均時給は前月比0.5%上昇の32.27ドル(約4,260円)と、市場予想の0.3%を上回った。前月の0.4%(0.3%から上方修正)を超え、18ヵ月連続で上昇した。前年同月比は5.2%上昇し、市場予想の4.9%を超えた。高止まりを続けつつ、上方修正された前月と一致した。一方で、生産労働者・非管理職の前年同月比は6.2%上昇と、年初来で最も小幅な伸びにとどまり賃金インフレのピークアウト感を残した。

チャート:平均時給は、生産労働者・非管理職の前年同月比でピークアウト感が漂う

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(作成:My Big Apple NY)

週当たりの平均労働時間は34.6時間と上方修正された前月(速報値は34.5時間)を含め、5ヵ月連続で変わらず。2006年以来の最長を記録した2021年1月の35時間を下回り続けた。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は40時間と、5ヵ月ぶりの低水準だった前月の39.9時間を上回った。とはいえ、コロナ禍で最高となった21年9月に並んだ前月の40.4時間以下が続く。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは4ヵ月連続で33.5時間となり、20年4月以来の低水準を保った。雇用主が従業員の確保を狙い、就業時間の柔軟性を与えたため短縮したと考えられる。2006年以降で最長を記録した21年5月の33.9時間以下が続く。

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数が力強く増加したため、週当たり労働時間が変わらずとも、前月比0.4%増だった。一方で、平均時給は上昇が続いた結果、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比0.8%増だった。

失業率は3.5%と前月まで4ヵ月続いた3.6%を下回り、コロナ前にあたる20年2月の低水準に並んだ。ただし、失業率の低下は失業者が24.2万人減と大幅に減少しただけでなく、労働参加率の低下が影響したとみられる。さらに、自発的離職者数が2ヵ月連続で増加したものの失業率を押し上げなかった理由は、労働市場から一部退出した可能性を示す。ただし、25~54歳の働き盛り世代では82.4%と前月の82.3%を、55歳以上も38.6%と前月の38.6%を上回っており、早期引退者が増えたわけではなさそうだ。むしろ、16~24歳で55.2%と前月の55.6%から顕著に低下しており、若い世代の一部がスキルを磨くべく学校に戻ったと考えられよう。

チャート:自発的離職者数は前月比1.2%増の84.2万人と5ヵ月ぶりの水準へ戻す。つれて失業者に占める自発的離職者数の割は14.8%と、同じく5ヵ月ぶりの水準へ上昇

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(作成:My Big Apple NY)

労働参加率は62.1%と前月の62.2%を下回り、年初来で最低だった。20年3月(62.7%)以来の高水準となった3月の62.4%が遠のいた。なお、コロナ感染拡大直前の20年2月は63.4%である。労働力人口は前月比35.3万人減と、前月の増加を打ち消した。

就業率は60.0%と、4ヵ月ぶりに60%を割り込んだ前月の59.9%を上回った。それでも、コロナ感染拡大直前にあたる20年2月の61.2%までの道のりは遠い。

コロナ禍を理由に在宅勤務を行ったとする労働者の割合は前月と同じく7.1%。新型コロナウイルス感染者が下げとまったものの、パンデミック下で最低を保った。

コロナ禍が理由で過去4週間に職探しをしなかった労働者は54.8万人と前月比で減少も、コロナ禍で最低だった前月の45.5万人を上回ったままだ。

チャート:コロナ禍で職探しをしなかった労働者は7月に下げ渋り、労働参加率は年初来で最低

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(作成:My Big Apple NY)

前回、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就労者数の乖離について指摘したが、今回もNFPが52.8万人増に対し、家計調査の就労者数は17.9万人増と伸びは限られた

チャート:NFP比べ、家計調査の就労者数の伸びは限定的。

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(作成:My Big Apple NY)

さらに、家計調査の就労者数を雇用形態別でみるとフルタイムは減少し、パートタイムと複数の職を持つ労働者が押し上げていた。NFPの伸びは確かに力強かったものの、決して健全な成長を遂げているとは言い難い。

チャート:パートタイムと複数の職を持つ者が増加、肝心のフルタイは減少

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:複数の職を持つ労働者は2ヵ月連続で増加し、コロナ以前の20年2月以来の高水準

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(作成:My Big Apple NY)

加えて、事業所調査で確認できる週当たり平均労働時間は、複数の職を持つ労働者が増加する過程で伸び悩みが続く。

チャート:週当たり平均労働時間、足元は伸び悩み傾向

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(作成:My Big Apple NY)

同じ日に働くとは限らないものの、複数の職を持つ労働者にとって1日に割く労働時間は限られ、本業一本の労働者より短くならざるを得ず、週当たり労働時間の伸び悩みを招いていそうだ。加えて、人手不足を受けて企業が従業員の希望を受け柔軟な労働時間で対応している事情もある。

かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全就業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。

1)不完全就業率 採点-△
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全就業率は6.8%と、1994年の統計開始以来で最低を更新した前月の6.7%から若干上昇した。

2)労働参加率 採点-×
労働参加率は62.1%と前月の62.2%を下回り、年初来で最低。2020年3月以来(62.7%)の水準回復は未だ遠い。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。

チャート:不完全就業率は過去最低を更新も、労働参加率と就業率は鈍化

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(作成:My Big Apple NY)

3)長期失業者 採点-△
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は前月に続き8.5週、3~4月の7.5週超えを維持。ただし27週以上にわたる失業者の割合は18.9%と前月の22.6%を下回り、1回目の失業保険給付上乗せが終了直後の2020年8月以来の低水準。一部の長期失業者が労働市場から退出した可能性を示唆する。

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は、2020年9月以来の低水準

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(作成:My Big Apple NY)

4)賃金 採点-△
今回は前月比0.5%上昇し、18ヵ月連続で上昇。前年比は2ヵ月連続で5.2%だった。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.4%と、前月の0.5%以下に。前年比は6.2%の上昇と、年初来で最も小幅な伸びにとどまり賃金インフレのピークアウトの兆しを残した。

(カバー写真:Nenad Stojkovic/Flickr)

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