Payrolls Increased More Than Expected, But Wage Growth Cooled In September.
<本稿のサマリー>
米9月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、米9月チャレンジャー人員削減予定数が前月比と前年同月比で増加したように前月以下となっただけでなく、21年1月に開始した増加トレンドで最も小幅な伸びとなりました。それでも、コロナ以前と比較しても堅調な増加ペースを維持しています。
なお、家計調査での就労者数をみると、フルタイム労働者が4ヵ月ぶりに増加しつつ、複数の職を持つ労働者も増加に転じており、パートタイムの減少を相殺した格好です。
失業率は低下し20年2月以来の低水準でしたが、労働参加率も同じく低下していました。平均時給は、前年同月比で市場予想以下に。人手不足が指摘されつつ労働参加率が低下するなかでも市場予想以下だったことを踏まえれば、米8月求人数が前月比で20年4月以来の大幅減となったように、企業の大判振る舞いは幕を閉じつつあるようです。9月ベージュブックでも、その兆候を確認していましたよね。物価が依然として高止まりするなか、購買力の低下すること間違いありません。
チャート:9月FOMCで注目する労働指標に挙げた求人数は、ご覧の通り8月に減速
それでも、堅調なNFPの増加ペースと失業率の低下に反応し、市場関係者は再びタカ派のFedを織り込みつつあります。FF先物市場によれば、11月1~2日開催のFOMCの75bp利上げの確率はNY[時間午前11時40分時点で77.6%と、前月の75.2%から上昇しました。9月FOMCでのドットチャートでは、23年末のFF金利見通し・中央値は4.5~4.75%だったところ、4.25~4.5%の織り込み度は前月の34.6%から31.6%へ低下。何より。4.5~4.75%での据え置き見通しが29%と前日の24.4%から上昇しており、Fedの引き締め政策が23年末まで続く見通しが広がっています。
チャート:2023年以降は据え置き予想が引き続き優勢、4%以上への追加利上げ観測は低下
米9月雇用統計のポイントは、以下の通り。
(労働市場にポジティブ)
・NFPがは堅調なペースで増加
・過去2ヵ月分のNFPが上方修正
・フルタイムの労働者が4ヵ月ぶりに増加(ただし、複数の職を持つ労働者も増加に反転、パートタイムは減少)
・失業率は20年3月以来の低水準に再び並ぶ
・長期失業者の割合は、20年8月以来の低水準(ただし、労働市場から退出した可能性も)
(労働市場にネガティブ/ニュートラル)
・労働参加率は低下
・不完全就業率は過去最低から若干ながら上昇
・平均時給は前年同月比で鈍化、生産労働者・非管理職部門は6%割れ(インフレ圧力鈍化という意味ではポジティブ)
・週当たり労働時間は横ばい
米9月雇用統計の詳細は、以下の通り。
米9月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比26.3万人増となり、市場予想の25.0万人増を上回った。前月の31.5万人増に届かなかった上、21年1月に始まった増加トレンドで最も小幅な伸びとなった。とはいえ、2019年平均の16.4万人増を超え、堅調なペースを維持した。
7月分の1.1万人の上方修正(52.6万人増→53.7万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で1.1万人の上方修正となった。6~8月の3ヵ月平均は37.2万人増となった。経済正常化に合わせ、2021年平均の56.2万人増を6ヵ月連続で下回った。
非農業部門就労者数(NFP)は20年3~4月に2,199万人減少したが、22年7月にこれを打ち消した。20年5月以降、今回で2,251万人の雇用を取り戻した結果、NFPは1億5,302万人と20年2月を51,4万人上回った。
チャート:20年2月の水準を回復するまで、2年と5ヵ月を要した格好。
NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比28.8万人増と市場予想の26.5万人増を上回った。前月の27.5万人増(30.8万人増から下方修正)を含め、21ヵ月連続で増加した。民間サービス業は24.4万人増、前月の24.0人増(26.3万人増から下方修正)を下回った。
チャート:NFPは堅調な伸び続く、失業率は20年2月以来の低水準に並んだ前月の3.7%から3.5%へ低下
サービス部門のセクター別動向は、11業種中で7業種が増加し、前月の全業種を下回った。今回最も雇用が増加した業種は教育/健康で、2位は娯楽/宿泊、3位は専門サービスだった。一方で、政府を始め金融が減少したほか、年末商戦前の臨時雇用が前年以下が目立ち輸送・倉庫、小売も落ち込んだ。
(サービスの主な内訳)
―増加した業種
・教育/健康 9.0万人増、29ヵ月連続で増加>前月は7.5万人増、6ヵ月平均は8.7万人増(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は7.5万人増、15ヵ月連続で増加>前月は6.0万人増、6ヵ月平均は6.9万人増)
・娯楽/宿泊 8.3万人増、21ヵ月連続で増加>前月は3.1万人増、6ヵ月平均は6.2万人増(そのうち食品サービスは9.0万人増>前月は8.1万人増、6ヵ月平均は7.2万人増)
・専門サービス 4.6万人増、17ヵ月連続で増加<前月は5.4万人増、6ヵ月平均は6.4万人増(そのうち派遣は2.7万人増、17ヵ月連続で増加>前月は1.3万人増、6ヵ月平均は0.9万人増)
・その他サービス 1.7万人増、3ヵ月連続で増加>前月は0.3万人増、6ヵ月平均は1.8万人増
・情報 1.3万人増、7ヵ月連続で増加>前月は0.5万人増、6ヵ月平均は1.8万人増
・卸売 1.1万人増、15ヵ月連続で増加<前月は1.6万人増、6ヵ月平均は1.6万人増
・公益 横ばい<前月は0.1万人像、6ヵ月平均は0.1万人増
―横ばいの業種
なし
―減少した業種
・政府 2.5万人減、3ヵ月ぶりに減少<前月は4.0万人増、6ヵ月平均は1.8万人増
・金融 0.8万人減、15ヵ月ぶりに減少<前月は0.7万人増、6ヵ月平均は0.9万人増
・輸送/倉庫 0.8万人減、29ヵ月ぶりに減少<前月は0.5万人増、6ヵ月平均は2.0万人増
・小売 0.1万人減、4ヵ月ぶりに減少<前月は4.3万人増、6ヵ月平均は0.6万人増
財生産業は前月比4.4万人増と前月の3.5万人増(4.5万人増から下方修正)を上回った。17ヵ月連続で増加した。業種別をみると、製造業が17ヵ月連続で増加した。建設は5ヵ月連続で増加。油価が景気後退懸念で9月に80ドル割れへ向かう過程ながら、鉱業・伐採も前月から増加に転じた。詳細は、以下の通り。
(財生産業の内訳)
・製造業 2.2万人増、17ヵ月連続で増加<前月は2.7万人増、6ヵ月平均は3.2万人増
・建設 1.9万人増、5ヵ月連続で増加>前月は1.1万人増、6ヵ月平均は1.5万人増
・鉱業/伐採 0.3万人増(石油・ガス採掘は400人増)>前月は0.3万人減、6ヵ月平均は0.5万人増
チャート:セクター別、就労者の増減
チャート:20年2月との比較、民間サービス部門は前月の0.7%増→0.9%増と4ヵ月連続でプラス圏をたどると共に上げ幅を広げた。11業種中、2カ月連続で6業種が当時の水準を超えた。今回、8月にプラスに転じた卸売(0.3%増、2カ月連続)のほか輸送・倉庫(12.7%増、24ヵ月連続)、専門サービス(5.0%増、12ヵ月連続)、情報(4.8%増、10ヵ月連続)、小売(1.6%増、9ヵ月連続)、金融(1.0%増、8ヵ月連続)となる。ただし6業種中、輸送・倉庫、金融は前月を下回る伸びとなり、小売は前月と変わらずだった。
財部門は前月の0.6%増と、前月の0.5%増を超え3ヵ月連続でプラス圏を守った。建設(0.7%増)が5ヵ月連続でプラスとなっただけでなく、製造業(1.2%増)と4ヵ月連続で増加した。そろって、プラス圏を回復して最も力強い伸びとなる。鉱業・伐採は7.7%減と前月の8.2%減から再び下げ幅を狭めた。
平均時給は前月比0.3%上昇の32.46ドル(約4,710円)と、市場予想と前月と一致した。20ヵ月連続で上昇している。前年同月比は5.0%上昇、前月まで3カ月連続で5.2%だったが、2021年12月末の5%割れが迫った。生産労働者・非管理職の前年同月比は5.8%上昇、21年9月以来の6%割れを迎え賃金インフレのピークアウト感を示した。
チャート:平均時給は、生産労働者・非管理職の前年同月比でピークアウト感が漂う
週当たりの平均労働時間は、前月に続き34.5時間だった。一因は、前述したようにパートタイムの増加が一因とみられる。2006年以来の最長を記録した2021年1月の35時間を下回り続けた。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は4カ月連続で39.9時間となり、コロナ禍で最高となった21年9月に並んだ前月の40.4時間以下が続く。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは20年4月以来の低水準に並んだ前月の33.4時間から、33.5時間へ小幅に改善した。とはいえ引き続き低水準にあり、雇用主が従業員の確保を狙い、就業時間の柔軟性を与えていると考えられよう。2006年以降で最長を記録した21年5月の33.9時間以下が続く。
チャート:週当たり平均労働時間は、短縮傾向
総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数の伸びが前月以下だったものの、週当たり労働時間が横ばいだったため、前月比0.2%増だった。一方で、平均時給は上昇が続いた結果、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比0.5%増だった。
失業率は3.5%と、市場予想と前月の3.7%から低下した。7月に続き、20年2月の低水準に並んだ。失業者が26.1万人減と減少に転じたことが一因。さらに、労働参加率も低下を押し下げた。ただし、自発的離職者数が小幅ながら4ヵ月連続で増加し失業率の低下を抑えた。
チャート:自発的離職者数は前月比0.8%増の90.5万人と7ヵ月ぶりの高水準。つれて失業者に占める自発的離職者数の割は15.9%と、1990年4月以来の水準へ上昇。
労働参加率は62.3%、3月に続き20年3月(62.7%)以来の高水準となった前月の62.4%を下回った。なお、コロナ感染拡大直前の20年2月は63.4%である。労働力人口は前月比35.3万人減と、前月の増加を打ち消した。
就業率は60.1%と前月と変わらず。ただし、コロナ感染拡大直前にあたる20年2月の61.2%に距離を残す。
コロナ禍を理由に在宅勤務を行ったとする労働者の割合は前月の6.5%から5.2%とコロナ禍で最低を更新した。
コロナ禍が理由で過去4週間に職探しをしなかった労働者は45.2万人と前月比で減少し、20年2月以降で最低を更新した。ただし、労働参加率の改善にはつながらなかった。
チャート:コロナ禍で職探しをしなかった労働者は、労働参加率は年初来で最低
6~7月に、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就労者数の乖離について指摘した。今回はNFPが26.3万人増に対し、家計調査の就労者数は20.4万人増と、NFPを下回る伸びだったが両者の乖離幅は縮小した。
チャート:NFP比べ、家計調査の就労者数の伸びは限定的。
家計調査の就労者数を雇用形態別でみると、フルタイムと複数の職を持つ者が増加をけん引していた。フルタイムは4ヵ月ぶりに増加。複数の職を持つ者は増加に反転し過去4カ月間で3回目の増加となった。家計調査の就労者数がNFP以下で、複数の職を持つ労働者が前月と打って変わって増加したことを踏まえれば、やはり複数の職を持つ者がNFPを支えていると考えられよう。パートタイムは0.7万人とわずかに減少した。
チャート:パートタイムと複数の職を持つ者が増加、肝心のフルタイムは減少
チャート:複数の職を持つ労働者は増加基調へ戻し、コロナ以前の20年2月以来の高水準となった。
かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全就業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。
1)不完全就業率 採点-△
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全就業率は前月の7.0%から6.7%へ低下、1994年の統計開始以来で最低を更新した6~7月の水準に並んだ。家計調査で、就業者のうちパートタイムが微減した結果を踏まえれば、単にパートタイムの労働者が減少したとも考えられる。
2)労働参加率 採点-×
労働参加率は62.3%と、20年3月以来の高水準だった前月の62.4%を下回り当時(62.7%)の水準回復から再び一歩後退した。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。
チャート:不完全就業率は過去最低水準から上昇、労働参加率と就業率は改善
3)長期失業者 採点-△
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は前月に続き8.5週と前月と変わらず、3~4月の7.5週超えを維持。ただし27週以上にわたる失業者の割合は18.5%と前月の18.8%を下回り、1回目の失業保険給付上乗せが終了直後の2020年8月以来の低水準。ただし労働参加率が低下したように、一部の長期失業者が労働市場から退出した可能性を示唆する。
チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は、2020年8月以来の低水準
4)賃金 採点-△
今回は前月比0.3%上昇し、20ヵ月連続で上昇。前年比は3ヵ月連続で5.2%を経て5.0%と2021年末以来の水準に鈍化した。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で3カ月連続で0.4%上昇。前年比は5.8%の上昇し、21年9月以来の6%割れを迎えた。
(カバー写真:Olympia Zampathas/Flickr)
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