WSJ Hilsenrath And Lindsey Question September Lift-Off.
ギリシャ債務危機、中国株安に加えプエルトリコの債務不履行(デフォルト)と立て続けに金融市場を揺るがすイベントが発生しています。9月利上げ観測に冷や水を浴びせるなか、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙はFed番であるヒルゼンラス記者の署名で利上げが後ろ倒しとなる可能性を点灯させました。”世界の市場混乱が米国に影響を与えれば、Fedは利上げを先送りへ(For Fed to Delay Rate Hikes, Global Tumult Would Need to Infect U.S.)”と題した記事は、1)ドル高が米経済の成長を抑制、2)高い不透明性により家計や企業の支出が下押し、3)ギリシャなどの要因で金融市場が不安定化——といった事態を迎えれば、一部の参加者が9月と見込む利上げ開始時期を「数ヵ月(in the months ahead)」手控えると予想しています。
パウエルFRB理事の発言を思い起こすと、WSJ紙のヒルゼンラス記者とのインタビューで9月利上げの確率を「50%」と明言した折に「世界成長が非常に重要」との見解も寄せ、米経済の逆風になりうると警戒していました。振り返ればFed、量的緩和(QE)の終了宣言も2013年9月が有力視されながら同年12月に後ろ倒しした実績があります。当時は、債務上限引き上げ交渉のもつれや政府機関の閉鎖など米国内の要因で先送りを余儀なくされましたよね。
2013年当時の記事を振り返ると、ハト派寄りの記事が多かったヒルゼンラス記者(左)。
(出所:WSJ)
金融市場がギリシャや中国情勢をめぐり最初の反応を示した29日、ダウ平均は1.9%安とリーマン・ショック時の4.4%安より小幅にとどまりました。ドルは対ユーロでいって来いを経て売りに転じ、米10年債利回りは急速な質への逃避を表さず。しかし、特にドル高には要注意です。成長を阻害するだけでなく輸出競争力を削ぎ、インフレを押し下げてしまい、世界成長の鈍化と合わせ米経済の拡大の重しとなりかねません。ヒルゼンラス記者の予防線を張りながらの読みは、的中するのでしょうか?ちなみに2013年9月FOMC明け、年内のテーパリング見送りを示唆するなど予想を外したケースもございます。
リンゼー・グループのローレンス・リンゼー元FRB理事も、CNBCに出演し「Fedは利上げ先送りの機会と捉える」と予想。ブッシュ前大統領の時代に国家経済会議(NEC)の委員長を務めた同氏は「問題は利上げ先送りで何も解決できず、Fedがビハインド・ザ・カーブに陥り市場と経済に動揺を与えかねない」と注意喚起するのも、忘れません。また、電力会社サザン・カンパニーの最高経営責任者(CEO)でアトランタ地区連銀の取締役のトム・ファニング氏も、利上げ先送りを見込むリンゼー氏の意見に同調していました。
翻ってダドリーNY連銀総裁は、28日付けの英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙でのインタビューにて9月利上げのサインをあらためて点灯させています。スイスのバーゼルを舞台に開催する国際決済銀行(BIS)年次会合に出席したイエレンFRB議長とダドリーNY総裁は、今後どのようなメッセージを送ってくるのか。ひとまず、イエレンFRB議長は7月に予定する議会証言でヒントをかざしてくるでしょう。
仮にFedが9月利上げを見送るなら、2011年の欧州中央銀行(ECB)の例を参考にしてのことかもしれません。リビア情勢混迷を背景とした原油高に耐えきれず、ECBは2011年4月に債務危機に揺れながら利上げに踏み切りました。ところがドラギ総裁のデビュー戦を飾った11月、利下げに舵を切った経験があります。金利正常化の過程でFedは躓きたくないでしょうから、9月利上げを回避しかねない。もっとも、ビハインド・ザ・カーブに伴う大幅利上げへの懸念も捨てきれない。ギリシャ債務危機をはじめとしたリスク・イベント、早く収束して欲しいのはギリシャ国民より誰よりFedなのかもしれません。
(カバー写真:hiroo yamagata/Flickr)
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