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イエレンFRB議長とベージュブック、12月利上げに弾み

by • December 4, 2015 • Finance, Latest NewsComments Off2326

Yellen And Beige Book Step Closer To Lift-Off.

イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、ワシントンDCで開催されたワシントン・エコノミック・クラブの会合で講演した。“12月利上げ開始”を明示しなかったものの、方向性を示唆。質疑応答では講演内容より踏み込んで利上げ姿勢をにじませ、労働市場への見方も楽観寄りへ軸足を移している。一方、10月FOMC議事録でも取り上げられた“均衡実質金利(equilibrium real rate)”、今回の講演でいう“中立金利”に言及し、今後の利上げが非常に緩やかになるとのメッセージをあらためて送っている。

(質疑応答)
・利上げ開始において「全会一致は必要ない。我々は数人からの反対票に辛抱強くならねばならないと考える」、「反対票を抑え込むつもりはないし、反対票が半数近くになる可能性すら予想している」
→ブレイナードFRB理事、タルーロFRB理事、シカゴ連銀のエバンス総裁は利上げ慎重派で仮に3名が反対すれば投票者10名中3人が反対派となる

(講演内容、金融政策)
・労働市場が一段と改善し、中期的インフレ目標値2%への達成が中期的に確信できる場合に、利上げは適切
・利上げ開始は、緩和策を縮小させる局面でも上記の二大目標が達成できるという判断を反映

・経済見通しは不透明で、政策運営にあたっては上方及び下方リスクを吟味
・ゼロ近辺金利であるためインフレや労働市場、成長が上振れした局面での対応が下振れしたケースより容易になる
・(下振れした場合での対応が困難になる)事情を配慮し、利上げには一段と慎重に取り組む

・利上げが遅れた場合、急激な利上げにより金融市場が混乱し経済後退を招きかねない
・現状のゼロ金利政策維持で、過剰なリスクテーク相場(バブル)を励行させ金融安定に打撃を与える

・利上げ開始後も、緩和的な政策を維持
・最大限の雇用とインフレ目標値2%に近付いた後も、FF金利は中立的な金利水準を下回って推移する可能性(以下、金融政策のパートで半分近くにわたり中立金利水準の低下傾向について説明)

(講演内容、経済の現状と見通し)
・米経済は緩やかに拡大、総支出の8割を占める家計(個人消費、住宅投資)と企業投資が年間3%増と成長率を上回るペース
・ドル高と海外動向を背景に、純輸出は成長に小幅マイナス

・労働市場の伸びが家計資産を力づけた(bolstered)
・労働市場が強まり続ければ(continued to strengthen)、10月時点で約200万人に及んだ労働人口から外れた人々(4週以上仕事探しをしていない労働に従事できる者)が労働力として戻ってくる
→bolsteredなど以前より強い表現を使用、労働市場見通しへの自信の裏打ちか

・ドル高と原油安がリスク
・海外動向はリスク要因ながら、中国は追加利下げを実施し多くのエマージング国も金融政策及び財政政策を緩和し対応
・先進国での緩和的な政策が成長に寄与へ
・世界的な需要回復と共に、商品先物価格が安定へ
→10月FOMC議事録に引き続き、中国への懸念が後退

・米国の財政政策はポジティブ材料
・地方政府及び州政府の財政が改善、同政府支出の拡大が成長に小幅ながら寄与へ
→2017年3月まで債務上限引き上げ交渉を必要とせず、表面化せず、2013年の政府機関閉鎖のような政治対立は回避する公算大

・労働市場の一段の改善により、中期的にインフレは目標値2%へ回帰すると確信する(confident)
・インフレは原油安、輸入価格の下落(ドル高効果)の押し下げが減退へ
・労働市場の逼迫で、賃上げ圧力高まる
・マーケットベース(5年先5年物ブレークイーブン・インフレ率など)のインフレは過去最低付近から回復
→5年先5年物ブレークイーブン・インフレ率は9月末の1.07%から、直近では1.29%まで回復(セントルイス連銀調べ)

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、Fed番であるジョン・ヒルゼンラス記者の署名記事「イエレン、12月の利上げ開始サインを点灯(Yellen Signals Fed on Track to Raise Rates in December)」を配信。活気にあふれる労働市場がインフレを目標値2%に押し上げる方向性に、イエレンFRB議長は自信を持つと伝えた。

JPモルガンのマイケル・フェローリ米主席エコノミストも、講演を受けて「今回の講演にサプライズは乏しく、イエレンFRB議長は概して12月利上げへ条件が整いつつあるとの考えを示唆したと言える」と振り返った。中立金利を発言については「15~16日のFOMCが近づくにあたり、利上げ開始がタカ派への方向転換との思惑を招かないよう強調しているのだろう」と分析した。

――FF先物動向では、12月利上げを74%であり金融市場関係者の間では織り込み済みといって過言ではありません。そうはいいながら、ホリデー商戦本番とあってやはり慎重に利上げ開始へ向けコマを進めたいもの。利上げ開始という彼岸にたどり着くまで、Fedは石橋を叩きながら歩みを進めいくのでしょう。

マーケットは、サンタ・ラリーに向け邁進できるのか。
NYSE4
(出所:http://www.hippowallpapers.com/nyse)

▽ベージュブック、12月利上げ開始に弾み

米連邦準備制度理事会(FRB)が2日に公表したベージュブック(10月初めから11月後半までカバー)は、経済拡大ペースが緩慢であることを確認した。リッチモンド連銀がまとめた今回のベージュブックでは、前回に続き「経済活動は穏やかに拡大し続けている(continued modest expansion in economic activity)」と総括。2014年12月、2015年1月、3月、4月、6月、7月、9月での表現「経済が拡大し続けた(continued to expanded)」にほぼ沿う表現を用いた。全般的に雇用や賃金をはじめ前回より上方修正が目立ち、15~16日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ開始に弾みをつけた。

今回、経済拡大ペースが「控え目(modest)」と表現した地区連銀は7行(クリーブランド連銀、リッチモンド連銀、アトランタ連銀、シカゴ連銀、セントルイス連銀、ダラス連銀、サンフランシスコ連銀)で最も多く、前回の6地区連銀から増加した。経済拡大ペースにつき「緩やか(moderate)」だった地区連銀は前回と同じくミネアポリス連銀で1地区連銀にとどまり、前回の3行から減少。カンザスシティ連銀は「概して安定的ながらまちまちな状況(steady on balance with mixed conditions)」と表記する。NY連銀は前回から「横ばい(leveled off)」、フィラデルフィア連銀は企業活動が「穏やかなペースで拡大し続けた(continued to grow at modest pace)」、ボストン連銀は売上増加にも関わらず、前回より「幾分鈍化した(somewhat slowed)」したという。

全体的なトーンに明るさが増したように、ドル高をめぐるネガティブな表記は総括を含め15回と前回の16回から減少した。7地区連銀から以下のように言及され、前回の8地区連銀から減少している。

・ボストン連銀「価格に下押し圧力を掛けている」、「海外で展開する小売業は、ドル高が売上増加を打ち消していると報告」、「製造業における複数の企業は、現地通貨での売上増加を報告したもののドル高では減少を報告した」
・NY連銀「一部は、観光業の売上に影響を与え続けていると指摘」
・フィラデルフィア連銀「製造業で業績を圧迫する要因に原油安、外需の弱さとともにドル高」
・クリーブランド連銀「製造業では、ドル高や原油安、エマージング国経済により生産を押し下げ」、「ドル高により、複数の製造業で値下げ」
・アトランタ連銀「ドル高で農業輸出への影響を懸念」
・カンザスシティ連銀「エネルギー関連業者は、ドル高による圧迫を指摘」
・ダラス連銀「湾岸地域の化学業者は、ドル高により前年比で海外需要が鈍化したと報告」、「ドル高と雨天状況により、小売売上高はまちまち」

中国というキーフレーズが登場した回数は、前回と変わらず6回だった。7月に初めて中国が盛り込まれた当時の8回から、減少している。前回に続きボストン連銀とクリーブランド連銀が入り、ダラス連銀とサンフランシスコ連銀は前回と異なり含まれていない。

今回、総括部分で使用されたキーワードの登場回数(同じ単語の変化形を含む)は以下の通り。

「増加した(increase)」 →36回、前回は17回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→19回、前回は14回
「緩やか(moderate)」 →25回、前回は8回
「控え目(modest)」→25回、前回は9回
「弱い(weak)」→10回、前回は12回
「底堅い(solid)」→4回、前回は2回
「安定的(stable)」→9回、前回は1回

10月23日の中国人民銀行による追加利下げ、同日の欧州中央銀行(ECB)による追加緩和示唆により、世界同時株安が一服したためか、前回より明らかに上方修正されている。11月2日にオバマ米大統領が2017年3月までの債務上限引き上げ案に署名したこともあって連邦政府が与える景気下押し圧力も消え、前回明記されたリスク要因の増加(ボストン連銀、中国以外にロシア・シリア空爆、米連邦政府機関の閉鎖懸念)が全て削除された。

今回は労働市場の改善が顕著だった。賃上げ圧力が低賃金の職にも波及しており、米連邦公開市場委員会(FOMC)が16日に利上げ開始を発表する正当性を与えている。イエレンFRB議長が上記の講演で12月利上げ開始路線を崩さなかったのも、労働市場の明白な改善が大きいのだろう。

主な各項目の詳細は、以下の通り。

(個人消費)
消費動向をめぐっては、ほぼ全ての地区連銀で「増加した(increased)」ものの増加幅は「まちまち(varied)」だった。とはいえ、前回の「緩やかなペース(moderate pace)」からは、上方修正されている。NY連銀とアトランタ連銀は「予想をわずかながら上回り(rose slightly above expectations)」、ホリデー商戦の見通しも「楽観的(optimistic)」だった。フィラデルフィア連銀をはじめクリーブランド連銀、シカゴ連銀、セントルイス連銀の5地区連銀は「穏やかな(modest)」なペースで拡大した。そのうち、シカゴ連銀は在庫が適切な水準にあると報告。ボストン連銀は住宅関連の小売が「強い水準を維持した(remained strong)」。クリーブランド連銀での小売売上高は、ガソリンのほか家具が牽引したという。NY連銀は全般的に「鈍く(sluggish)」、在庫は幾分積み上がったが満足のいく水準にとどまった。ボストン連銀、リッチモンド連銀、ダラス連銀の3行が「まちまち(mixed)」で前回の2地区連銀から増加した。観光は前回通り「まちまち(mixed)」で、ボストン連銀で「力強さを維持(remained strong)」、リッチモンド連銀やアトランタ連銀で「勢いよく増加した(increased robustly)」だった一方、NY連銀ではブロードウェイやホテルを中心に売上が「減少(decreased)」した。

(製造業)
製造業活動は、足元で「まちまち(mixed)」だった。ドル高、原油安を、海外需要の鈍化を理由に挙げつつ、前回の「全般的に活気に乏しい(generally sluggish)」からは上方修正。ボストン連銀とセントルイス連銀は「緩やかな伸び(moderate growth)」を示し、前回よりは改善したという。南部の地域を管轄するリッチモンド連銀をはじめアトランタ連銀、ダラス連銀は「穏やか(modestly)」で、新規受注はわずかながら増加した。シカゴ連銀も「穏やか(modestly)」と報告。クリーブランド連銀、カンザスシティ連銀、サンフランシスコ連銀の3行は「概して横ばい(flat on balance)」で、ニューヨーク連銀のほかフィラデルフィア連銀、ミネアポリス連銀は「低下した(decline)」。

(労働市場、賃金、物価)
労働市場は、前回のベージュブックと比較し「逼迫し続けた(continued to tighten modestly)」。アトランタ連銀をはじめカンザスシティ連銀、ダラス連銀の3行は「わずかに雇用が回復(slightly picked up)」し、その他は「穏やかから緩やか(modest to moderate)」だった。多くの地区連銀は雇用増加の牽引役として「派遣や初心者の職(temporary and entry-level positions)」であり、人材派遣会社を通じて採用したことが示唆されている。例外はシカゴ連銀で、人材派遣業は「鈍化した(slowed)」。特殊技能職での人材不足は継続しており、アトランタ連銀をはじめミネアポリス連銀、カンザスシティ連銀、サンフランシスコ連銀の4地区連銀は初心者の職や技能を必要としない職にも人材不足が波及しているという。複数の地区連銀からは建設セクターで職人と一般作業員の人材難が報告され、ダラス連銀とサンフランシスコ連銀は人材不足が複数のエリアでの「建築活動を抑制している可能性(labor shortages may have constrained building activity)」を挙げた。

賃上げ圧力は、全般的に「安定的あるいは増加した(stable and increasing)」。前回の「抑制されていた(subdued)」から上方修正されている。ほとんどの地区連銀は特殊技能職での人材不足を理由に挙げた一方、数地区連銀は「広範囲(widespread)」に及ぶと指摘した。そのうちクリーブランド連銀は賃上げ圧力が広範囲にわたるとし、アトランタ連銀は低賃金にまで波及しつつあるサインが点灯したと報告。その結果、アトランタ連銀のほかサンフランシスコ連銀は複数の企業が人材不足を解消するため、給与形態やインセンティブの変更を余儀なくされているという。一方で、シカゴ連銀は複数の企業が福利厚生など、労働コストの削減に励んでいるとの報告が上がった。数地区連銀は最低賃金引き上げの問題を指摘しており、例えばボストン連銀はレストランで労働コストの上昇が指摘された。

物価は全般的に「安定的(steady)」で詳細は「まちまち(mixed)」ながら、前回の「抑制的(contained)」から上方修正された。リッチモンド連銀で原材料などの価格上昇が報告された半面、ボストン連銀のほかアトランタ連銀、セントルイス連銀、カンザスシティ連銀からは仕入れ価格において「わずかな下落(slightly lower)」との声が聞かれた。ドル高、商品先物、エネルギー商品の下落が挙げられている。クリーブランド連銀は、ドル高を受けて複数の製造業企業が海外商品に対する競争力を高めるため値下げに踏み切ったという。NY連銀、フィラデルフィア連銀、リッチモンド連銀、セントルイス連銀、カンザスシティ連銀、サンフランシスコ連銀の6地区連銀は、非製造業部門で値上げ圧力を報告した。

(エネルギー、農業関連)

エネルギー関連は、数地区連銀で「小幅に低下した(mildly decline)」とあり、前回の「一段と低下(declined further)」から上方修正された。リッチモンド連銀では「まちまち(mixed)」な状況だったものの、天然ガスで「穏やかな増加(modest growth)」が確認されている。しかしながら、供給過剰により掘削活動は停止したままだ。アトランタ連銀では原油・ガスの採掘活動は「減速し(fell)」、理由として海外需要の弱さと供給過剰が挙がった。テキサス州を含むダラス連銀では「穏やかに低下(modest decline)」した。農業は、前回と変わらず全般的に「まちまち(mixed)」だった。アトランタ連銀では豪雨が干ばつを緩和させ、大豆や綿、ピーナッツなど収穫量は5年平均を超えた。ダラス連銀では家畜が底堅さを示しつつ、輸出の需要が弱含んだ。

(カバー写真:FRB/Flickr)

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