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9月ベージュブック:楽観と悲観交じるも、不確実性への懸念根強い

by • September 7, 2020 • Finance, Latest NewsComments Off2267

Beige Book Points Out Continued Uncertainty And Volatility Related To The Pandemic.

米連邦準備制度理事会(FRB)が9月2日に公表したベージュブック(7月初めばから8月後半)によると、米経済活動をめぐる表現が前回7月の「経済活動は拡大したが、新型コロナウイルスのパンデミック以前の水準を大きく下回ったままだ」から、「経済活動は拡大したが、概して控え目なペースにとどまり、引き続き新型コロナウイルスのパンデミック以前の水準を大きく下回ったままだ」との表現に修正された。8月半ばに感染者数が6月後半以来の低水準まで落ち着いたものの、一部では期間中に1日の新型コロナウイルス感染者が最多を更新した事情から経済回復ペースが鈍化したため、調整したとみられる。

一部の州でレストランを始め対面サービス部門での営業活動が制限されるなか、見通しをめぐっては「回答者は控え目ながら楽観的」との言葉が加わり明るさを見せつつ「数地区連銀は幾分、悲観的だった」と評価した。また「パンデミックをめぐる不確実性とボラティリティが残存し、消費者と企業の活動に負の影響を与えているとの指摘が全米各地から聞かれた」という。前回の「引き続き高い不確実性がある」から「高い」と形容詞が削除されたとはいえ、慎重な見方が優勢であることを示す。

慎重な見方を裏打ちするかのように、新型コロナウイルスをめぐるキーワードの登場回数は50回と前回の52回から減少した半面、「不確実性」の登場回数は27回と前回の16回を超えた。製造業での回復を確認しつつ、感染第2波やそれに伴う景気回復への懸念の強まりが伺える。ミネアポリス地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。

<総括:経済全般、見通しのセクション>

経済活動はほとんどの地区で「拡大した(increased)」が、概して「控え目なペースにとどまり(gains were generally modest)」、新型コロナウイルスのパンデミック「以前の水準を大きく下回ったままだ(remained well below where it was)」。全体的な見通しをめぐり、回答者は「控え目ながら楽観的(modestly optimistic)」だったが、「数地区連銀は幾分、悲観的だった(a few Districts noted some pessimism)」。パンデミックをめぐる不確実性とボラティリティが残存し、消費者と企業の活動に負の影響を与えているとの指摘が全米各地から聞かれた。

前回:経済活動はほとんどの地区で「拡大した(increased)」が、新型コロナウイルスのパンデミック「以前の水準を大きく下回ったままだ(remained well below where it was)」。見通しをめぐっては、回答者がコロナ禍とその経済的な影響や規模などに取り組むように、引き続き高い不確実性がある。

<個人消費>

個人消費は力強い自動車の売上動向や観光、小売部門での幾分の改善を支えに「回復を続けた(continued to pick up)」。しかし、多くの地区連銀はこれらの分野での売上の伸びが「鈍化した(slowing pace)」と指摘、全体の支出額は未だにコロナ禍以前の水準を引き続き下回っていると報告した。

前回:小売売上高は全ての地区で「拡大し(rose)」、自動車販売が牽引したほか、引き続き食品・飲料やリフォーム関連が伸びた。娯楽・宿泊向けの支出は改善したが、前年比からはかけ離れた水準にとどまった。

チャート:新車販売台数は8月に1,520万台と2月以来の水準を回復

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(作成:My Big Apple NY)

<製造業、非製造業の活動>

製造業活動は、港湾業を始め輸送、配送業の活動が強まるに合わせ、ほとんどの地区連銀で「拡大した(rose)」

前回:製造業活動は、前年比でみて非常に低い水準から大部分の地区連銀で「上向いた(moved up)」程度となった。専門サービスの需要はほとんどの地区連銀で「拡大した(increased)」が、「依然として弱い(still weak)」。輸送活動は、トラックと空輸が支え全体的に「拡大した(rose)」。

<不動産市場>

商業建設活動は広く「落ち込み(down)」、商業不動産は「縮小したままだ(remained in contraction)」。逆に住宅不動産は好調で、多くの地域で成長と(コロナ禍に対する)耐性を示した。住宅不動産の販売動向は特に「上振れし(higher)」、価格も需要と在庫不足につれ上昇し続けた。

前回:建設活動は「抑制されたままだ(remained subdued)」が、複数の地区で「回復した(picked up)」。住宅販売は「ゆるやかに拡大(increased moderately)した」が、商業不動産活動は「依然として低水準にある(stayed at low level)」。

<貸出需要>

銀行部門は全体的に融資需要が低水準のなか、住宅不動産をけん引し「わずかに強まった(increased slightly)」。

前回:融資需要は、住宅ローンで「強まった(increased)」ほか、給与保証プログラム(PPP)以外は「横ばい(flat)」。PPPと民間の貸し手による債務猶予は、多くの企業は短期的に十分な流動性を与えた。

<農業、エネルギー>

農業部門の動向は、価格の下落を背景に「すべての作物で困難な状況が続き(continued to suffer)」、エネルギー活動は「低水準で抑制され(subdued at low levels)」、どの部門でも短期的な改善を予想しなかった。

前回:農業部門の金融環境は「引き続き資金不足(continued to be poor)」の状況だった一方で、エネルギー部門の活動は限定的な需要と供給過剰を受けて「一段と低下した(fell further)」。

<雇用と賃金>

雇用は全ての地区連銀で「増加し(increased)」、特に製造業で頻繁に言及があった。しかしながら、複数の地区連銀は雇用の伸びが鈍化し、特にサービス産業を中心として採用活動に「波が出てきた(hiring volatility)」と指摘、例えば需要が軟調な状況で一時帰休となった労働者が、恒久的な解雇を余儀なくされた。企業は必要な人材を確保する上で引き続き困難に直面し、理由として託児所の空き状況を始め、不透明な新学期の開始時期、失業保険などが挙がった。賃金は「横ばいからわずかに上昇(flat to slight higher)」し、低賃金職で賃上げ圧力が高まった。複数の企業は、賃下げの取り下げを決定。その他の企業は対人サービス関連職向けの危険手当について引き下げを検討したが、一部の企業は職員の士気低下や採用難を目的に見送った。

前回:雇用は、多くの部門で業務が再開し活動を拡大させるなか、ほぼ全ての地区連銀で「純増した(increased on net)」。しかし、全ての地区で雇用はパンデミック以前を大幅に下回った。転職率は高水準を維持し、地区全体の回答者は「新規の一時解雇(new layoffs)」を報告した。健康と安全への懸念、託児所問題、寛大な失業保険を受けて、従業員を戻すことが困難との回答が全ての地区ごとに確認された。PPPの支援を受け労働者を確保できた多くの回答者は今後について、一時解雇を回避できるかを否かは需要の強さ次第と指摘した。

チャート:米8月雇用統計の平均時給(生産労働者・非管理職)は、2ヵ月連続で上昇

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(作成:My Big Apple NY)

<物価>

物価は全体的に「上昇した(increased)」が、「緩慢なままだった(remained modest)」。仕入れ価格が販売価格より「加速してきた(rose faster)」が、全体的に「ゆるやか(moderate)」にとどまった。仕入れ価格は一部の例外で上振れし、需要が急速に高まったもの、あるいはサプライチェーン問題に直面したものが対象となり、例えば材木は価格が急騰した。一部の地区連銀は、個人防護具(PPE)とその仕入れ価格の「高止まり(elevated))」を報告した。空輸の価格は、需要の回復を追い風に一部の地区連銀で上昇した。対照的に、小売の売上鈍化などを背景に、多くの地区連銀は需要の弱さや価格決定力不足を指摘した。

前回:物価は全体的に「ほとんど変わらず(a little changed)」。地区全体を通じ、回答者は概して仕入れ価格と販売格が「横ばい(flat)」と回答した。仕入れ価格は実際に変化したが、増加した項目が下落した分をわずかに上回った程度だった。一部の地区連銀の回答者は、サプライチェーン問題により、新型コロナウイルスの感染を抑制する健康と安全に関わる製品の価格を「押し上げた(pushed up)」と指摘。食料や飲料の価格が「上昇した(rising)」との報告も上がっており、特に牛肉で目立った。販売価格の変動をみると、下落した項目がわずかながら上昇分を上回り、一部の回答者は「弱い需要と限定的な価格決定力(weak demand and limited pricing power)」を挙げた。複数の地区連銀が挙げた例外は新車と中古車で、それぞれ在庫の取り崩しに合わせ「押し上げられた(boosted)」。

<地区連銀別、経済活動の形容詞>

サンフランシスコを除く全ての地区連銀で、前回の「縮小」や「低下」から上方修正。

●「回復(rebound、pick up)」と表現した地区連銀→1行<前回は5行
ボストン(引き続き回復)

●「拡大(expand、increase、grow)」と表現した地区連銀→6行>前回は3行
クリーブランド(緩慢に)、リッチモンド(引き続き拡大)、シカゴ(+力強く、ただし前回以下)、セントルイス(緩慢に)、ミネアポリス(わずかに)、サンフランシスコ(わずかに)

●その他の表現を使用した地区連銀→5行>前回は4行
NY(失速)、フィラデルフィア(ほぼ変わらず)、アトランタ(まちまち)、カンザスシティ(引き続き強まった)、ダラス(感染者増加で回復が中断)

チャート:地区連銀ごとの景況判断に関わる文言

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(作成:My Big Apple NY)

<キーワード評価>

総括並びに地区連銀のサマリーでみたキーワードの登場回数は、経済活動の再開に合わせ「拡大(increased)」の登場回数が前回より大幅に増加した。併せて「低下(decline)」、「減退(decrease)」、「縮小(contract)」の文言は、前回から縮小している。一方で、「不確実性」の登場回数は前回通り4回だった。詳細は、以下の通り。

「拡大(increase)」→20回>前回は16回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→6回>前回は2回
「ポジティブ(positive)」→1回>0回
「ゆるやか(moderate)」→7回>前回は4回
「緩慢、控え目など(modest)」→11回>前回は4回
「弱い(weak)」→4回<前回は7回
「底堅い(solid)」→1回>前回は0回
「安定的(stable)」→0回<前回は0回
「低下(decline)」→2回<3回
「減退(decrease)」→0回<前回は2回
「縮小(contract)」→1回<前回は4回
「不確実性(uncertain)」→4回=前回は4回

地区連銀ごとの詳細報告では「不確実性」の登場回数は23回と、前回の11回を上回り感染者の増加を受けた経済指標の鈍化が意識されたとみられる。前回はボストン(3回)、NY(1回)、フィラデルフィア(1回)、クリーブランド(1回)、アトランタ(1回)、シカゴ(1回)、セントルイス(1回)、ダラス(1回)、サンフランシスコ(1回)だった。

・ボストン 3回=前回は3 回
→(総括)商業部門は小売とオフィス市場が依然として非常に弱いが、倉庫と研究施設の需要は力強さをみせた。見通しは引き続き非常に不確実性が高いものの、損失拡大を予想するより少なくともゆるやかな改善を見込む声が多かった。
→(人材派遣)全体的に、回答者は新型コロナウイルスを巡る不確実性と米大統領選に対する慎重姿勢を維持した。ただ、大半の回答者は3ヵ月前より幾分楽観的だった。
→(商業不動産)商業不動産活動をめぐり、回答者は年内、横ばいあるいは低下を予想、2021年見通しについては不確実性が高いと報告した。

・フィラデルフィア 1回=前回は1回
→(総括)企業は控えめながら向こう半年の成長に対し引き続き前向きだったが、不確実性が非常に高く、景気支援策の期限切れ、レイオフの保留、立ち退きの増加、差し押さえ、破産などに懸念を示した

・クリーブランド 5回>前回は1回
→(総括)回答者は、顧客の需要が今後ゆるやかに回復すると見込むが、新型コロナウイルスをめぐる不確実性の高さから、前回より前向きな見通しが後退した
→(個人消費)個人消費をめぐり回答者は不確実性を指摘、新型コロナウイルスの進展に加え、景気支援策や学校の再開など不明な点が多いと言及した。
→(製造業)広範囲にわたる製造業者の多くは、顧客が経済見通しの不確実性から、発注を減少あるいは先送りしたと報告した。
→(不動産)民間セクターの開発計画は横ばいで、回答者は経済の道筋を巡る不確実性を受け、ほとんど改善を予想していなかった。
→(金融サービス)連邦政府の景気支援策が実現するかどうか、また新型コロナウイルスの行方が不透明で、銀行は将来について不確実性があると指摘した

・リッチモンド 5回>前回はゼロ
→(製造業)一部の回答者は、新型コロナウイルスや米大統領選をめぐる行方に不確実性が高まるなか、顧客の需要は当てにならないと指摘した。
→(製造業)食品や家財の製造業者は力強い売上動向を報告したが、一部の製造業者はサプライチェーンの問題をめぐる不確実性を受けて顧客が慎重となり、発注を抑えたと報告した。
→(港湾・輸送)力強い売上を達成しているものの、その他のトラック輸送業者はパンデミックと選挙イヤーを受けた不確実性のほか、経済の不確実性に懸念を表明した。
→(銀行・金融)新型コロナウイルスのパンデミックが長期化した結果、設備投資をめぐる不確実性が尾を引き、回答者は伝統的な商業融資が緩慢ながら減少したことを示した。

・アトランタ 1回=前回は1回
→(エネルギー)エネルギー市場は、非常に大きな不確実性に直面している。生産者は供給過剰と需要低迷に直面し、新型コロナウイルス感染拡大により商業施設や工場などが一部閉鎖した結果、電力使用料が減少し、天然ガスの需要も低下した。

・セントルイス 2回>前回は1回
→(個人消費)自動車ディーラーは低金利を受け売上増につながったと言及したが、数カ月先の見通しは経済見通しの不確実性を受けてまちまちだった。
→(商業不動産)回答者はオフィスや小売向けの投機的な計画はほとんど聞かれていないと指摘、またパンデミックを巡る不確実性が将来の計画に向けた取引に水を差したとコメントした。

・カンザスシティ 1回>前回はゼロ
→(エネルギー)地元のエネルギー関連企業のほとんどが給与保証プログラム(PPP)の融資を引き出したものの、掘削など将来に向けたビジネス活動の見通しは限定的だった。不確実性が残存するなか、将来の設備投資見通しは抑えられたままだ

・ダラス 5回>前回は1回
→(総括)見通しをめぐり不確実性が高く、多くの回答者は新型コロナウイルス感染者の増加がビジネスを阻害すると指摘した。
→(小売売上高)小売業者の約75%が7月の売上は通常の状態を下回り、平均で22%以下だったという。半数以上の小売業者は、弱い需要に加えサプライチェーンの途絶により売上が抑えられた。売上見通しは著しく落ち込み、不確実性が急速に高まった
→(非金融サービス)7月に見通しは悪化してから8月に改善したとはいえ、新型コロナウイルスや米大統領選など不確実性が高まり続けた
→(金融サービス)銀行は、PPPの返済免除に関する手続きに対し不確実性があると懸念を表明、極めて困難になりうると指摘した。
→(雇用・賃金)賃金は全体的に横ばいで、ほとんどの雇用主はコスト抑制や不確実性への対応として、調査期間中に据え置きを決定した。

<ドル高をめぐる表記>

ドル高をめぐるネガティブな表記は2017年5月分、7月、9月、10月、11月分、2018年全体、2019年の1月、3月、4月、6月、7月、9月、10月、11月、20年1月、3月、4月、5月、7月に続き総括ではゼロだった。地区連銀別では今回もゼロ、2019年9月にサンフランシスコが指摘してから、ゼロが続く。なお、過去3年間でドル高を挙げた地区連銀は、2017年5月分(クリーブランド)、2018年1月分(サンフランシスコ)、2019年9月分(サンフランシスコ)など。

<中国>

中国というキーワードが登場した回数は、3月、4月、5月、7月に続き総括部分でゼロとなった。1月は1回、3月の3回からゼロに転じたままだ。これまでは2017年に続き2018年全て、2019年1月、3月、4月、6月、7月、9月、10月、11月にわたりゼロだった。

地区連銀別では、新型コロナウイルス感染者が再び増加するものの、前回の3回から1回に減少した。前回はミネアポリス(1回)、サンフランシスコ(2回)だった。なお、中国というキーワードは2017年5月、9月、2018年1月、4月、7月、9月、10月、12月、2019年3月、4月、6月、7月、9月、10 月、11月、20年1月、3月、4月、5月、6月に続き言及された。

・セントルイス 1回>前回はゼロ
→(農業、エネルギー、天然資源)作物の状態は良好ながら、穀物価格の下落を受けて減益が見込まれる上、中国との貿易協議や商品先物価格への影響が懸念された。

――新型コロナウイルスの登場回数は全体で52回(総括6回、地区連銀別46回)と、前回の50回(総括7回、地区連銀別43回)を下回りました。今回、ベージュブックの総括部分と地区連銀を合わせたキーワードの数は以下の通り。

チャート:ベージュブックのキーワード数

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(作成:My Big Apple NY)

米国の感染者数は、ようやく8月12日時点で6月後半以来の低水準まで収まってきました。状況悪化に歯止めが掛かり、キーワードでは「拡大(increase)」、「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)、「ポジティブ(positive)」の言葉の登場回数が増えると同時に、「低下」、「減退」、「縮小」は減少しました。

ただし、未だ不確実性を懸念する声は根強い。個人的には、ダラス地区連銀からの「銀行は、給与保証プログラム(PPP)の返済免除に関する手続きに対し不確実性があると懸念を表明、極めて困難になりうると指摘した」との報告が気掛かり。6月に条件が緩和された事情もあり、銀行側が返済免除に相当するかを確認する作業が極めて煩雑で、消費者銀行協会(CBA)など地方銀行団体は15万ドル以下のPPPの融資分を自動的に返済免除とするよう要請するほど。銀行側が会計士を始め審査に必要な人材が必要となりコストが掛かる上、返済免除をクリアできない場合の不透明性を残します。大手銀の貸倒引当は6月末時点で金融危機の水準でしたが、PPPに参加した地銀などの耐性も懸念材料としてくすぶります。

(カバー写真:muppetspanker/Flickr)

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