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5月ベージュブック、米経済の鈍化を示唆し企業の楽観見通しも減退

by • June 1, 2017 • Finance, Latest NewsComments Off1617

U.S. Economy Slows Down According To Beige Book.

米連邦準備制度理事会(FRB)が5月31日に公表したベージュブック(4月初めから5月後半までカバー)によると、米経済は「拡大し続けた(continued to expand)」。拡大ペースは「緩慢あるいはゆるやかな(at modest or moderate)」で、前回4月分の「緩慢とゆるやかで均等に分かれた(equally split between modest and moderate)」から微修正、3月分の表現「緩慢からゆるやか(from modest to moderate)」へ収斂している。フィラデルフィア地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。

<経済全般のセクション>
(今回)
・経済活動は、「緩慢からゆるやか(at modest or moderate)」に拡大した。
・大半の企業は短期的に前向きな見通しを示したが、楽観度はいくつかの地区連銀で「減退した(waned somewhat)」
(4月分)
・経済活動は、「緩慢からゆるやか(from modest to moderate)」に拡大した。
・回復ペースはセクターによって異なり、製造業は緩慢あるいはゆるやかに拡大し続けた(continued to expand at a modest to moderate pace)が貨物輸送は「わずかに鈍化した(slightly slowed)」。

(今回)
個人消費は、多くの地区連銀で「軟化し(softened)」、非自動車の小売売上高では「ほとんど変わらず、あるいは変化なし(little or no change)」だったが、複数の地区連銀で自動車販売は過去最高を記録した前年から「わずかに減少(edge down)」した。
(4月分)
・個人消費は「まちまち(varied)」で、自動車は力強かったものの非自動車は「幾分、軟調度合いが強まった(somewhat softer)」。

(今回)
・観光と旅行は全般的に経済活動と「同じペースを維持し続けた(continued to keep pace with the general economy)」。
(4月分)
・観光と旅行は全般的に「回復した(picked up)」。

(今回)
・製造業と非製造業の活動をめぐり、大多数の地区連銀は「ゆるやかな伸び(moderate growth)」を報告した。ただ軽トラックの生産増加は、乗用車の生産の減少分を補えなかった。
(4月分)
・製造業の回復ペースはセクターによって異なり、「緩慢あるいはゆるやかに拡大し続けた(continued to expand at a modest to moderate pace)」が、貨物輸送は「わずかに鈍化した(slightly slowed)」。
・非金融サービスは全般的に「堅調に拡大した(generally continued to expand steadily)」。

(今回)
・新築住宅と非住宅の建設活動、並びに中古住宅の販売活動は「緩慢あるいはゆるやか(at modest to moderate rates)」な伸びを続けた。→住宅販売ペースが鈍化したものの、住宅建設の伸びは「幾分加速した(accelerated somewhat)」。
(4月分)商業施設など非住宅の建設は「力強さを維持した(remained strong)」が地域によって異なり、リースは「全般的に緩慢なペースで改善した(generally improved at a more modest pace)」。

(今回)
貸出の伸びは、経済活動全般の動きを「反映あるいは支援する傾向がある(tended to mirror (and support)」。
(4月分)
・地区連銀報告の半分以上で融資額の「増加(increased)」を確認一方、1行のみ「ゆるやかな鈍化(down modestly)」を報告した。

(今回)
・農業の状況は「まちまちであり続け(remained mixed)」、一部の地域は平年を上回る降雨量により「打撃を受けた(negatively affected)」。
・ほとんどのエネルギー関連は、「控え目ながら改善しつつある(tended to modestly improve)」。
(4月分)
・エネルギー関連のビジネス状況の「改善(improvement)」を指摘したが、農業は「まちまち(varied)」だった。

<地区連銀別、経済活動の形容詞>
・「緩慢」と表現した地区連銀、7行>前回は5行
→ボストン(前回の“緩慢からゆるやか”から下方修正)、フィラデルフィア(前回通り)、リッチモンド(前回の“わずかに加速”から下方修正)、アトランタ(前回通り)、シカゴ(前回の“ゆるやか”から下方修正)、セントルイス(前回通り)、ミネアポリス(前回通り)

・「ゆるやか」と表現した地区連銀、4行<前回は5行
→クリーブランド(前回通り)、カンザスシティ(前回通り)、ダラス(前回通り)、サンフランシスコ(前回通り)

・「横ばい」と表現した地区連銀、1行>前回は0
→NY(前回の“緩慢”から下方修正)

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(作成:My Big Apple NY)

<雇用と賃金>
・労働市場は「引き締まり続け(continued to tighten)」、ほとんどの地区連銀は幅広く人材不足を指摘した。
人材不足により企業にとって適格な人材を引きつけ、かつ維持することが困難となっているにも関わらず、雇用は「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」に増加し続けた
・ほとんどの地区連銀は、賃金の伸びが「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」と報告。
・シカゴの製造業は、より優れた人材を引きつけるため、並びに離職を防ぐため賃金を10%引き上げた。

<物価のセクション>
・概して、物価は前回から「ほとんど変わらず(little changed)」、ほとんどの地区連銀が「緩慢(modest)」な上昇を報告。
・木材、鉄鋼、その他商品での急速な値上がりを受け、製造業の一部で仕入れコストが上昇しつつある。
・反対に食品や服飾、自動車など一部の最終財で値下げを確認した。
・エネルギー価格は、地区連銀と製品別で「まちまち(mixed)」。住宅の在庫不足により、多くの市場で価格が上昇した。

経済活動に対する形容詞の登場回数、比較チャート。
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(作成:My Big Apple NY)

<全体のキーワード評価>
総括並びに地区連銀のサマリーでみたキーワードの登場回数は、以下の通り。前回に続き「不透明性」の文言は、ゼロだった。なお「不透明」の登場回数は米大統領選挙前の2016年10月分に7回、2016年11月分は3回、2017年1月分は7回、2017年3月分は3回だった。

「増加した(increase)」→8回<前回は22回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→4回<前回は9回
「ゆるやか(moderate)」→15回<前回は18回
「緩慢、控え目など(modest)」→23回<前回は24回
「弱い(weak)」→1回=前回は1回
「底堅い(solid)」→1回=前回は1回
「安定的(stable)」→0回<前回は3回
「不透明性(uncertain)」→0回=前回は0回

「不透明性」をめぐる文言はサマリーで確認しなかったものの、地区連銀の詳細報告で「不透明」の登場回数は過去2回の7回から9回に増え、以下の通りとなる。12地区連銀中4行で指摘し前回と変わらなかったが、今回はフィラデルフィアとクリーブランドが消え、代わりにシカゴとセントルイスが入った。

・ボストン地区連銀 4回(前回は3回)
→2017年見通しで1回、製造業に関し金融関連の顧客で1回、政府の政策への見通しで2回、通商政策への不透明性を受けた製造業の見通しで1回・シカゴ地区連銀 1回(前回はゼロ)

→ミシガン州は霜の影響で、果実収穫量が不透明として1回。・セントルイス地区連銀 2回(前回はゼロ)→製造業に関し規制上の見通しで1回、医療保険制度改革(オバマケア)撤廃・代替案移行への道筋で1回。

・ダラス地区連銀 1回=1回
→通商政策の見通しで1回。

<ドル高をめぐる表記>
ドル高をめぐるネガティブな表記は、前回に続き総括はなし。地区連銀は個別で1行が指摘し、3~4月の2行から減少した。登場回数も、前回の3回から1回へ減少。前回に続きクリーブランドが指摘し、ドル高を批判し続けていたサンフランシスコが消えた。

・クリーブランド地区連銀 1回
→鉱工業生産が軟調な理由として1回

<中国>
中国というキーフレーズが登場した回数は前回4月分まで6回連続でゼロとなったが、今回は2回登場した。ボストン、ミネアポリスがそれぞれ1回ずつ指摘した。なお2015年9月に初めて中国が盛り込まれた当時は11回で、その後は徐々に減少し1年経過した2016年9月分でゼロへ戻し2017年4月までその流れを続けていた。

・ボストン地区連銀 1回>前回はゼロ
→化学メーカー1社が、中国の大量輸出を受け重要な化学製品の値下げを余儀なくされ海外ビジネスに悪影響が及んだ。

・ミネアポリス地区連銀 1回>前回はゼロ
→中国からの観光客が全米に流入し、モンタナ州にある国立公園で過去最高の入場者数を記録した。

――今回のベージュブックでは、各地区連銀からの成長拡大のペースで「緩慢」が増えていました。個人消費の「軟化」が指摘され、物価でも最終財の下落を報告。大半の企業は短期的に前向きな見通しを示したが、楽観度はいくつかの地区連銀で「減退した(waned somewhat)」と示されるなど、全般的に勢いに翳りが見えています。「不透明性」に係る文言が消えたものの、4~6月期入りの米経済は力強さに乏しい。とはいえ、米経済が拡大中であることは事実で、6月13~14日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げ織り込み度が90%台後半を維持しています。

問題はその後で、米経済の環境が7月以降にあと1回の利上げに耐えられるのかが焦点となってくるでしょう。1)賃金動向を含めたインフレ、2)個人消費、3)労働市場――でさらなるスローダウンを確認すれば、年内利上げはおろか年末に有力視されているバランスシート縮小も後ろ倒しされかねません。

6月FOMCではイエレン議長の記者会見あるいは議事録でバランスシート縮小に関するヒントを提示する見通しながら、ハト派のブレイナードFRB理事がヘッジを掛け始めた点に留意したい。5月30日に、ブレイナードFRB理事は利上げについて「間もなく適切(likely appropriate soon)」、バランスシート縮小も「近いうちに(before too long)」と発言しました。その一方で「雇用が進展したとしてもインフレ動向が振るわない状況が続けば、私は(金融政策を)再評価しうる」と言葉を口にしていたのです。ブレイナードFRB理事は民主党のクリントン候補が大統領選で敗北したため、FRB理事を辞任すると言われてきました。しかし、タルーロ前FRB理事に続く気配は見せず。ハト派として存在感を放つブレイナードFRB理事が、今の時点でヘッジを掛け始めた点は見逃すべきではないでしょう。

(カバー写真:David Cosand /Flickr)

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