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米5月雇用統計:NFPは予想以下、雇用と需要に鈍化のサイン

by • June 4, 2021 • Finance, Latest NewsComments Off2199

Job Growth Less Than Expected Again, But That May Be A Good News For The U.S. Stock Market.

<本稿のサマリー>

米5月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、新規コロナウイルス感染者数が全米50州で減少し、ワクチン接種を完了した米国人が40%を超え経済活動の再開が進むなかでも、市場予想を下回る増加幅にとどまった。前月に続き、米5月ADP全国雇用者数で高まった期待を裏切る結果に。米5月チャレンジャー人員削減予定数と同時に発表される採用予定数がコロナ前の2019年を下回る通り、雇用の伸び悩みをみせ続けた。今回のポイントは、以下の通り。

(ポジティブ)

・失業率は5.8%へ低下、20年3月以来の低水準
・平均時給は前月比と前年比ともに予想を上回る伸び、賃上げ圧力を確認
・不完全失業率は10.2%と、20年3月以来の水準へ低下
・長期失業者の割合は40.9%と前月の43.0%から低下、引き続き高止まりも失業保険給付上乗せの前倒し撤廃で改善が進むか

(ネガティブ)

・NFPは前月比55.9万人増、市場予想以下に
・家計調査でフルタイムの雇用が増加したものの、パートタイムが3ヵ月ぶりに増加
・労働参加率は61.6%と、20年3月以来の水準へ改善した前月以下に
・週当たり労働時間は34.9時間と、前月も2006年以来の最長だった35時間から下方修正
・消費拡大が期待されるなか、小売の就労者数は2ヵ月連続で減少、娯楽/宿泊は前月の伸び以下

賃上げ圧力を確認した割に、労働参加率は伸び悩み、失業率の低下を促した。需要拡大が期待される半面、原材料価格の高騰で生産活動が滞るためか、平均労働時間も延びなかった点は気掛かりで、サプライチェーン障害が雇用と需要を抑えている可能性を残す。何より。追加経済対策成立で個人消費押し上げ期待が高まった半面、小売の就労者数は2ヵ月連続で減少、娯楽・宿泊の伸びも前月以下にとどまり失望を誘った。現金給付は一時的な需要増に寄与した程度で、米4月小売売上高が示した通り需要が頭打ちを迎えた可能性を示唆した。賃上げ圧力を確認したものの、今後鈍化していくか注目される。その他、長期失業率の割合が今回低下したとはいえ、引き続き高止まりしていた。コロナ禍を理由に職探ししなかった人々が減少したものの労働参加率の上昇につながっておらず、雇用の回復ペースは曲がり角に差し掛かってきた余地を残す。

一連の結果を受け、米株高・米債高(金利低下)で反応した。雇用の伸びが予想以下で労働参加率も改善しなかったため、Fedによる資産買入縮小の前倒し懸念が後退したとみられる。

米5月雇用統計の詳細は、以下の通り。

米5月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比55.9万人増となり、市場予想の67.4万人増を下回った。前月の27.8万人増(26.6万人増から上方修正)を超え、5ヵ月連続で増加した。6月にかけ米国人の最低1回のワクチン普及率が50%を超え、経済活動の再開が進む過程で、堅調な増加トレンドを維持したものの、その勢いには翳りがみられる。

3月分の1.5万人の上方修正(77.0万人増→78.5万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で2.7万人の上方修正となった。3~5月の3ヵ月平均は54.1万人増と、コロナ禍前の2019年平均である16.8万人増を大幅に上回った水準を維持した。

今回までで20年5月以降、1,473万人の雇用を取り戻した。ただ、同年3~4月の記録的な減少(2,236万人)を打ち消し同年2月の水準を回復するには、あと762.9万人必要となる。

チャート:コロナ禍で失った雇用を取り戻すには、あと762.9万人増加する必要あり

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(作成:My Big Apple NY)

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比49.2万人増と市場予想の61.0万人増を下回った。ただし、前月の21.9万人増(21.8万人増から上方修正)を含め、5ヵ月連続で増加した。民間サービス業は48.9万人増、前月の25.5万人増(23.4万人増から上方修正)を上回った。

チャート:NFPは5ヵ月連続で増加も小幅にとどまり、失業率は低下トレンドにブレーキ

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(作成:My Big Apple NY)

サービス部門のセクター別動向は、政府を含め11業種中8種が増加し、前月から6種を上回った。今回最も雇用が増加した業種は2~4月に続き娯楽・宿泊で4ヵ月連続で全体を支えたが、伸びは前月以下にとどまった。2位に教育・健康、前月2位だった政府が続いた一方で、小売は2ヵ月連続で減少し、金融も3ヵ月ぶりに減少した。

(サービスの主な内訳)

―増加した業種

・娯楽/宿泊 29.2万人増、4ヵ月連続で増加<前月は32.8万人増、6ヵ月平均は12.4万人増(そのうち食品サービスは18.6万人増、5ヵ月連続で増加>前月は16.8万人増、6ヵ月平均は7.8万人増)
・教育/健康 8.7万人増、4ヵ月連続で増加>前月は2.5万人増、6ヵ月平均は3.8万人増
(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は4.6万人増、4ヵ月連続で増加>前月は3.6万人増、6ヵ月平均は2.2万人増)
・政府 6.7万人増、3ヵ月連続で増加>前月は5.9万人増、6ヵ月平均3.0万人増

・専門サービス 3.5万人増>前月は8.1万人減と12ヵ月ぶりに減少、6ヵ月平均は6.2万人増(そのうち派遣は0.4万人増、3ヵ月ぶりに増加>前月は11.6万人減、6ヵ月平均は1.5万人増)
・情報 2.9万人増、6ヵ月連続で増加>前月は0.9万人増、6ヵ月平均は1.2万人増
・輸送/倉庫 2.3万人増>前月は5.3万人減、4ヵ月ぶりに減少、6ヵ月平均は0.2万人増

・卸売 2.0万人増、10ヵ月連続で増加>前月は0.6万人増、6ヵ月平均は1.4万人増
・その他サービス 1.0万人増、5ヵ月連続で増加<前月は3.5万人増、6ヵ月平均は1.7万人増

―横ばいの業種

・公益 横ばい<前月は0.1万人増と5ヵ月連続で増加、6ヵ月平均は横ばい

―減少した業種

・金融 0.1万人減、3ヵ月ぶりに減少<前月は1.6万人増、6ヵ月平均は0.8万人増
・小売 0.6万人減、2ヵ月連続で減少>前月は3.0万人減、6ヵ月平均は1.1万人増

財生産業は前月比0.3万人増と、前月の3.0万人増(修正値)を下回った。業種別をみると、製造業が3ヵ月ぶりに減少した前月から増加に転じ、財部門を支えた。しかし、鉱業・伐採は横ばいにとどまり、建設に至っては3ヵ月ぶり減少した。詳細は、以下の通り。

(財生産業の内訳)

・製造業 2.3万人増、年初来で3回目の増加>前月は3.2万人減、6ヵ月平均は1.6万人増
・鉱業/伐採 横ばい(石油・ガス採掘は1,500人増)<前月は0.1万人増と3ヵ月連続で増加、6ヵ月平均は0.3万人増
・建設 2.0万人減、2ヵ月連続で減少<前月は0.5万人減、6ヵ月平均は1.2万人増

チャート:5月のセクター別増減

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(作成:My Big Apple NY)

平均時給は前月比0.5%上昇の30.33ドル(約3,300円)と、市場予想の0.2%を上回った。前月の0.7%を含め2ヵ月連続で上昇した。前年比は2.0%上昇し、市場予想の1.6%や前月の0.4%(0.3%から上方修正)を超え、賃上げ圧力を映し出した。

チャート:平均時給は前年比、前月比でも賃上げ圧力を示唆

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(作成:My Big Apple NY)

週当たりの平均労働時間は3ヵ月連続で34.9時間と、市場予想と前月値(35.0時間から下方修正)と一致した。需要拡大と人手不足が報じられる半面、2006年以来の最長を記録した1月の35時間を3ヵ月連続で下回った。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は2ヵ月連続で40.1時間、新型コロナウイルス感染拡大直前の20年2月以来の水準に延びた3月の40.2時間(修正値)に届かず。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは33.8時間と、2006年以降で最長を記録した1月に並んだ前月の33.9時間を下回った。

失業率は5.8%と、市場予想の5.9%や前月の6.1%を下回り、2020年3月以来の低水準となる。失業者が49.6万人減少していた。労働統計局によれば、引き続き一時解雇された労働者が「雇用されているが休職中」として扱われるなど正確に反映されていない場合があり、これを考慮すると失業率は6.1%だったという。

失業率の低下の一因は、労働参加率が挙げられる。労働参加率は61.6%と市場予想の61.8%はもちろん、20年3月以来の高水準となる前月の61.7%を下回った。ワクチン普及が進んだ半面、労働参加率は20年6月以降、61.4~61.7%の狭いレンジにとどまる。

就業率は58.0%と20年3月以来の水準へ改善、過去最低だった20年4月の51.3%から上昇を続けた。

在宅勤務を行ったとする労働者の割合は16.6%と、前月の18.3%を下回りコロナ禍での最低を更新した。

チャート:在宅勤務を行う労働者の割合

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(作成:My Big Apple NY)

コロナ禍が理由で過去4週間に職探しをしなかった労働者は5月に253万人と、コロナ禍以降で最低となった。ただ減少ペースは鈍化し、労働参加率の上昇一服と整合性をもつ。

チャート:職探しをしなかった非労働人口が減少も小幅で、労働参加率を押し上げず

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(作成:My Big Apple NY)

フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比0.2%増の1億2,638万人、前月から22.3万人増加した。一方で、パートタイムは同0.7%増の2,520万人と前月から17.8万人増加、3ヵ月ぶりに増加した。

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数が前月を上回る伸びだったため、平均労働時間が同じだったものの、前月比0.4%増と3ヵ月連続で増加した。平均時給は2ヵ月連続で上昇した結果、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比0.9%増だった。

かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全失業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。

1)不完全失業率 採点-△
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者や働く意思を持つ者などを含む不完全失業率は10.2%と、前月の10.4%を下回り20年3月以来の低水準だった。経済的理由でパートタイムを余儀なくされている労働者は、前月比0.5%増の527.1万人と3ヵ月ぶりに増加した。

チャート:不完全失業率と労働参加率はゆるやかに改善続く

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(作成:My Big Apple NY)

2)長期失業者 採点-△
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の平均値は29.9週と前月の28.8週を超え、2015年5月以来の30週に接近した。失業期間の中央値は19.3週と、2012年1月以来の水準へ延びた前月の19.8週から短縮した。27週以上にわたる失業者の割合は40.9%と、前月の43.0%から低下した。2011年以来の高水準だった3月の43.4%以下が続く。全体的に長期失業率は高止まりしており、追加経済対策で失業保険の上乗せ300ドルが9月6日まで延長されたことが影響した可能性を残す。

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は5月に低下も、依然として高止まり

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(作成:My Big Apple NY)

3)労働参加率 採点-×
労働参加率は61.6%と、20年3月以来の高水準だった前月の61.7%を下回った。1973年1月以来の低水準だった20年4月の60.2%を上回った水準を保つが、20年6月以降、61.4~61.7%のレンジを保つ。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。

4)賃金 採点-〇
今回は前月比0.5%上昇し、2ヵ月連続で上昇した。前年比は2.0%と、20年4月に急伸した反動で0.4%の上昇にとどまった前月を上回った。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.5%上昇の25.60ドル前年比は2.4%の上昇、同じく統計上の問題で小幅上昇にとどまった前月の1.2%から加速した。

(カバー写真:Nenad Stojkovic/Flickr)

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