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米3月雇用統計:コロナ前の水準を回復した業種で、賃上げ鈍化の兆し

by • April 3, 2022 • Latest News, NY TipsComments Off2446

Wage Growth Has Slowed Slightly In The Past Two Months As The Labor Force Has Expanded.

米3月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、こちらで紹介した通り3月FOMCでパウエルFRB議長が自信を示すように力強い結果となりました。NFPは予想以下とはいえ堅調なペースを維持し、失業率は低下し、労働参加率は改善。さらに、賃上げ圧力は再燃しました。

では、業種別や性別や人種、学歴などではどうなったのか、詳細は以下の通りです。

〇業種別、生産労働者・非管理職部門の平均時給

生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.4%上昇の27.06ドル、前年比は6.7%の上昇と、3ヵ月連続で20年5月以来の高い伸びを維持した。

業種別を前月比でみると、同部門の平均時給の伸びが0.4%以上だったのは13業種中で6業種と、前月の速報値ベースと変わらず。今回の1位は娯楽・宿泊と金融(1.4%上昇)3位は鉱業・伐採(0.7%上昇)、製造業(0.6%上昇)、公益と専門サービス(0.4%上昇)だった。一方で、前月最も伸びが強かった輸送・倉庫は横ばいにとどまったほか、情報(0.1%下落)、その他サービス(0.8%の下落)はマイナスだった。

チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額

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(作成:My Big Apple NY)

〇労働参加率

労働参加率が62.4%と2020年3月以来の水準を回復した一方で、働き盛りの男性(25~54歳)はまちまち。白人男性が改善したが、全米では25~54歳が低下したほか、25~34歳は横ばいにとどまった。以下は全米男性が季節調整済みで、白人は季節調整前となる。

・25~54歳 88.7%<前月は88.8%と20年3月以来の高水準、20年2月は89.1%
・25~54歳(白人) 90.0%、20年3月(90.3%)以来の高水準>前月は89.7%、20年2月は90.6%
・25~34歳 88.9%、20年2月以来の高水準=前月は88.9%、20年2月は89.0%
・25~34歳(白人) 90.5%、20年2月(90.7%)以来の高水準>前月は89.6%

チャート:働き盛りの男性、前月と異なり白人男性で上昇

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(作成:My Big Apple NY)

働き盛りの女性の労働参加率は、それぞれ上昇した。

・25~54歳 76.5%、20年2月(76.8%)以来の高水準>前月は75.8%%
・25~34歳 77.6%、20年2月(78.2%)以来の高水準>前月は76.8%

65歳以上の高齢者の労働参加率は、そろって低下した。男性は23.9%と20年2月以来の水準を回復した前月の24.3%から低下した。女性は15.2%と前月の15.3%を下回り3ヵ月連続で低下し、2020年3月(16.1%)以来の水準を回復した21年12月の15.9%が遠ざかった。

〇縁辺労働者

縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は前月比で7.1%増の573.7万人(男性は257.1万人、女性は257.1万人)、5ヵ月ぶりに増加した。男性が前月比3.1%増と増加に転じたほか、女性も10.6%増と2ヵ月連続で増加した。

チャート:職を望む非労働力人口、男性が増加し女性が減少

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(作成:My Big Apple NY)

〇男女別の労働参加率

男女の失業率は、そろって20年2月以来(男性:3.5%、女性:3.4%)の低水準に。男性は前月の3.8%→3.6%、女性は前月の3.9%→3.6%へ下振れした。

男女別の労働参加率も、まちまち。男性が前月の68.3で変わらず20年3月(68.6%)以来の水準を維持したが、女性は前月の56.6%→56.8%と20年3月以来の水準を回復した。

チャート:男女別、労働参加率、直近は女性が上向き

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(作成:My Big Apple NY)

〇男女別の就業者、20年2月比

人種・男女別の就業者数を20年2月比でみると、3月も引き続き黒人男性とヒスパニック系男性はプラスを維持した。黒人男性は5.2%増(前月の5.3%増を下回ったが、3ヵ月連続)、ヒスパニック系男性は4.3%増(前月と変わらず、9ヵ月連続)ととなる。さらに今回ヒスパニック系女性が1.3%増と、プラスに転じた。一方で、白人男性(前月は1.4%減→0.7%減)、白人女性(前月は2.5%減→2.1%減)、黒人女性(前月は2.4%減→1.0%減)とそれぞれ下げ幅を縮小した。白人の間で就業者数の回復が鈍い理由は①娯楽・宿泊などコロナ禍で回復が進む業種の従事者が比較的少ない、②引退が多い――などが考えられる。

チャート:男女・人種別の就業者数、20年2月との比較

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(作成:My Big Apple NY)

〇人種別の労働参加率、失業率

人種別の動向を紐解く前に、人種別の大卒以上の割合を確認する。2010年と2016年の比較では、こちらの通りアジア系が突出するほか、白人が全米を上回る一方で、黒人とヒスパニック系は全米を大きく下回っていた。

人種別の労働参加率は、まちまち。白人が2020年3月以来の水準、アジア系が20年2月以来の水準を回復した(なおアジア系は、21年10~11月に65.3%と2012年12月以来の高水準を記録)。一方で、黒人とヒスパニック系はそれぞれ20年2月以来、20年3月以来の水準から低下した。

・白人 62.3%、2020年3月(62.6%)以来の水準を回復>前月は62.2%、20年2月は63.2%
・黒人 62.1%<前月は62.2%と20年2月(63.2%)以来の高水準
・ヒスパニック系 66.4%<前月は66.6%と20年3月(67%)以来の高水準、20年2月は68.0%
・アジア系 64.0%、20年2月(64.2%)以来の水準を回復>前月は62.9%
・全米 62.4%、2020年3月(62.7%)以来の水準を回復>前月は62.3%、20年2月は63.3%

チャート:人種別の労働参加率、白人とアジア系が上昇

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(作成:My Big Apple NY)

人種別の失業率は、全て前月比で改善しそろって少なくとも20年2月以来の水準へ低下した。特にヒスパニック系は、19年10月以来の水準に低下したが、黒人と合わせ労働参加率の低下が失業率を押し下げた。

・白人 3.2%、20年2月(3.0%)以来の低水準<前月は3.3%
・黒人 6.2%、20年2月(6.0%)以来の低水準<前月は6.6%
・ヒスパニック系 4.2%、19年10月(4.0%)の水準に並ぶ<前月は4.4%
・アジア系 2.8%、20年2月(2.5%)以来の低水準<前月は3.1%
・全米 3.6%、20年2月(3.5%)以来の低水準<前月は3.8%

チャート:人種別の失業率、

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(作成:My Big Apple NY)

白人と黒人の失業率格差は黒人の失業率が労働参加率に押し下げられ低下が著しかったため、前月の3.3ポイントから3.0ポイントへ縮小した。ただし、21年11月につけた20年4月以来の低水準となる2.8ポイントを上回り続けた。引き続き、トランプ前政権で記録した19年8月の1.9ポイント超えの水準を保つ。

〇学歴別の労働参加率、失業率

学歴別の労働参加率は、中卒以外で全て上昇した。

・中卒以下 45.6%<前月は46.8%と20年2月(47.8%)以来の高水準
・高卒 56.9%>前月は56.2%、1月は57.2%と20年2月(58.3%)以来の水準を回復
・大卒以上 72.8%、20年8月以来の水準を回復>前月は72.6%、20年2月は73.2%
・全米 62.4%、20年3月(62.7%)以来の高水準>前月は62.3%、20年2月は63.3%

学歴別の失業率は、中卒以外が全て低下した。中卒は労働参加率が低下したにも関わらず、失業率は上昇した。一方で、高卒以上は労働参加率が上昇しつつも、失業率が少なくとも20年2月以来の水準に低下した。ただ、大学院卒は00年5月以来の水準へ急低下した21年11月(1.2%)を上回ったままだ。前月に続き労働参加率の上昇と合わせ正常化しつつある。

・中卒以下 5.2%>前月は4.3%と1992年1月の統計開始以来で最低、20年2月は5.7%
・高卒 4.0%、20年2月(3.7%)以来の低水準<前月は4.5%
・大卒 2.0%、20年2月(1.9%)以来の低水準<前月は2.2%
・大学院卒以上 1.7%、20年2月(1.7%)以来の水準に並ぶ<前月は1.9%
・全米 3.6%、20年2月(3.5%)以来の低水準<前月は3.8%

--米3月雇用統計の詳細を見ると、①平均時給の前月比は伸び鈍化(コロナ禍で賃金の上昇をけん引した輸送・倉庫は横ばい)、②労働参加率は改善継続、③人種別では白人とアジア系の労働参加率が改善、④学歴別では中卒以外の労働参加率が改善――などの実態が浮かび上がりました。

平均時給の前月比をみると、輸送・倉庫はこちらで指摘するようにコロナ前の水準を既に回復するセクターであり、今後の賃金動向の先行指標と捉えられます、その輸送・倉庫は3月に横ばいに転じたほか年初に入って振るわず(1月:0.1%下落、2月:0.6%上昇)、21年平均の0.8%に遠く及びません。その輸送・倉庫は黒人とヒスパニック系の比率が比較的高く、それぞれ2021年時点で21.3%、21.5%です。その他コロナ前の水準を回復した業種をみると、小売は3月に鈍化(1月:0.6%、2月:0.7%、3月:0.2%、21年平均:0.5%上昇)したほか、情報に至っては3月に0.1%下落(21年平均:0.2%上昇)に至っては下落しています。専門サービスは3月に0.4%上昇しましたが、21年平均の0.6%の伸びを下回っており、労働参加率の改善に伴う賃上げ圧力低下が気掛かりです。なお、金融は3月に雇用の回復が進みながら力強い伸びとなりましたが、離職を抑えるべく金融機関が賃上げに動いたためです。

チャート:20年2月比でプラスを回復した5業種の3月平均時給・前月比の伸び vs 21年の前月比の伸び平均

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(作成;My Big Apple NY)

その他3月の特徴としては、黒人とヒスパニック系や、中卒以下の労働参加率の低下が挙げられます。NFPは娯楽・宿泊が引き続き牽引したとはいえ、前述したように輸送・倉庫や小売などは既にコロナ以前の水準を回復済み。今後のNFPの回復牽引役が低賃金職から比較的賃金の高い職へバトンタッチしても、おかしくありません。

(カバー写真:Metropolitan Transportation Authority of the State of New York/Flickr)

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