Labor Force Participation Rate Improves, Thanks To Women And Workers Age 65 Years Older.
米5月雇用統計は、こちらで紹介した通りNFPは堅調なペースを維持し、失業率は3ヵ月連続で20年2月以来の低水準でした。一方で、労働参加率は小幅ながら上昇し、平均時給は前年同月比を2ヵ月連続で下回るなど、潜在労働者が市場にカムバックする過程で賃上げ圧力が後退しつつある状況を確認しました。
では、業種別や性別や人種、学歴などではどうなったのか、詳細は以下の通りです。
〇業種別、生産労働者・非管理職部門の平均時給
生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は平均時給は前月比で0.6%上昇、前月の0.4%から加速し5ヵ月ぶりの高い伸び。ただし前年比は6.5%の上昇と、逆に5ヵ月ぶりの低い伸びだった。
業種別を前月比でみると、同部門の平均時給の伸びが0.6%以上だったのは13業種中で前月と同じく7業種だった。今回の1位は建設(1.4%上昇)、2位は情報(1.0%上昇)、3位は娯楽・宿泊を始め輸送・倉庫、金融(0.9%上昇)、6位は卸売(0.8%上昇)、7位は公益(0.6%上昇)だった。一方で、前月マイナスだった鉱業・伐採のみ横ばいだった。
チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額
〇労働参加率
労働参加率が62.3%と前月の62.2%から上昇、2020年3月以来の水準を回復した前月(64.4%)に近づいた。働き盛りの男性(25~54歳)では若い世代で低下、25~34歳は全米と白人そろって前月以下にとどまった。一方で、25~54歳は全米で横ばい、白人は上昇した。以下は全米男性が季節調整済みで、白人は季節調整前となる。
・25~54歳 88.7%、3ヵ月連続=前月は88.7%、2月は88.8%と20年3月以来の高水準、20年2月は89.1%
・25~54歳(白人) 89.6%>前月は89.5%、3月は90.0%と20年3月(90.3%)以来の高水準、20年2月は90.6%
・25~34歳 89.2%<前月は89.5%、19年11月以来の高水準
・25~34歳(白人) 90.1%<前月は90.2%、3月は90.5%と20年2月(90.7%)以来の高水準
チャート:働き盛りの男性、25~34歳で低下
男性と逆に、働き盛りの女性の労働参加率はそれぞれ大幅に上昇した。
・25~54歳 76.5%、20年2月(76.8%)以来の高水準>前月は76.2%
・25~34歳 78.4%、20年1月以来の高水準=前月は77.6%
65歳以上の高齢者の労働参加率は、そろって低水準から回復した。
・男性 23.7%>前月は23.4%と21年7月以来の水準へ低下、2月は24.3%と20年2月(25.2%)以来の水準を回復
・女性 15.3%>前月は15.1%と21年8月以来の水準へ低下、21年12月は15.9%と20年3月(16.1%)以来の水準を回復
〇縁辺労働者
縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は前月比で3.0%減の568.1万人(男性は299.6万人、女性は268.5万人)、3ヵ月ぶりに減少した。男性が前月比7.6%増と3ヵ月連続で増加した半面、女性は12.7%減と2ヵ月連続で減少し縁辺労働者を押し下げた。
チャート:職を望む非労働力人口、男性が増加し女性が減少
〇男女別の労働参加率と失業率
男女別の労働参加率は、まちまち。男性は前月の68.0%で横ばいと20年3月(68.6%)の回復が遠い半面、女性は前月の56.7%→57.0%と20年3月(57.1%)以来の水準を回復した。
チャート:男女別、労働参加率、直近は女性が上向き
男女の失業率はまちまちで、男性は20年2月以来の低水準だったが女性は上昇した。なお、20年2月に男性は3.5%、女性は3.4%だった。男性は前月の3.8%→3.6%、女性は逆に20年2月以来の高水準だった前月の3.5%から3.6%へ上昇した。女性の失業率上昇は、男性と比較し労働参加率の改善が目立ったことが一因とみられる。
チャート:男女別の失業率は、働き盛り世代で労働参加率が改善した女性で上昇
〇男女別の就業者、20年2月比
人種・男女別の就業者数を20年2月比でみると、5月も引き続き黒人男性を始めヒスパニック系男性、ヒスパニック系女性がプラスだった(黒人男性:9.0%増と5ヵ月連続、ヒスパニック系男性:5.7%増と11ヵ月連続、ヒスパニック系女性:0.7%増と3ヵ月連続)。ただし、ヒスパニック系女性のみ伸びを縮小した。前月にプラス転換を果たした黒人女性は、再びマイナスに転じた(前月は0.1%増→0.5%減)。一方で、白人男性(前月は1.2%減→1.1%減)、白人女性(前月は2.5%減→2.3%減)と、白人は男女それぞれ就業者はマイナスをたどりつつ、下げ幅を縮めた。白人の間で就業者数の回復が鈍い理由は①娯楽・宿泊などコロナ禍で回復が進む業種の従事者が比較的少ない、②引退が多い――などが考えられる。
チャート:男女・人種別の就業者数、20年2月との比較
〇人種別の労働参加率、失業率
人種別の動向を紐解く前に、人種別の大卒以上の割合を確認する。2010年と2016年の比較では、こちらの通りアジア系が突出するほか、白人が全米を上回る一方で、黒人とヒスパニック系は全米を大きく下回っていた。
人種別の労働参加率は、白人を除き全て上昇。白人は前月と変わらず。黒人は20年2月以来、ヒスパニック系は20年3月以来の水準を回復した。アジア系は再び19年10月以来の水準へ戻した(なおアジア系は、21年10~11月に65.3%と2012年12月以来の高水準を記録)。
・白人 61.9%=前月は61.9%、3月は62.3%と2020年3月(62.6%)以来の水準を回復、20年2月は63.2%
・黒人 63.0%、20年2月(63.2%)以来の高水準>前月は62.3%
・ヒスパニック系 66.5%、20年3月(67%)以来の高水準>前月は66.1%、20年2月は68.0%
・アジア系 64.9%、19年10月水準の高水準>前月は64.4%
・全米 62.3%<前月は62.2%、3月は62.4%と2020年3月(62.7%)以来の水準を回復、20年2月は63.3%
チャート:人種別の労働参加率、黒人とアジア系が上昇
人種別の失業率は、まちまち。白人は労働参加率に合わせ、3ヵ月連続で横ばいだった。黒人とヒスパニック系は、労働参加率の改善に合わせ上昇。アジア系のみ、労働参加率が上昇したにも関わらず失業率は19年4月以来の水準に低下した。
・白人 3.2%、20年2月(3.0%)以来の低水準=前月は3.2%
・黒人 6.2%>前月は5.9%、19年11月以来の低水準
・ヒスパニック系 4.3%>前月は4.1%、19年10月(4.0%)
・アジア系 2.4%、19年4月以来の低水準<前月は2.8%
・全米 3.6%、20年2月(3.5%)以来の低水準=前月は3.6%
白人と黒人の失業率格差は黒人の労働参加率の改善を受け失業率が上昇し、白人の失業率が横ばいだった結果、20年4月以来の水準へ縮小した前月の2.7ポイントから3.0ポイントへ戻した。引き続き、トランプ前政権で記録した19年8月の1.9ポイント超えの水準を保つ。
チャート:黒人と白人の失業率格差、20年4月以来の水準へ縮小
〇学歴別の労働参加率、失業率
学歴別の労働参加率は、大卒のみ上昇しコロナ前の21年1月の水準を回復した。
・中卒以下 44.0%、209月以来の低水準<前月は44.4%、2月は46.8%と20年2月(47.8%)以来の高水準
・高卒 56.8%=前月は56.8%、1月は57.2%と20年2月(58.3%)以来の水準を回復
・大卒以上 73.3%、20年1月以来の高水準>前月は72.9%
・全米 62.3%、20年3月(62.7%)以来の高水準>前月は62.2%、20年2月は63.3%
チャート:学歴別では、大卒が20年3月以来の水準に並び最も改善が進む
学歴別の失業率は、中卒のみ低下。中卒は、2ヵ月連続で労働参加率につれて失業率が低下した。高卒は労働参加率に合わせ、失業率は横ばい。大卒は大学院卒も含め、労働参加率が上昇しながら失業率は横ばいにとどまった。
・中卒以下 5.2%、3ヵ月ぶりの低水準<前月は5.4%、2月は4.4%と1992年の統計開始以来で最低
・高卒 3.8%、20年2月(3.7%)以来の低水準=前月は3.8%
・大卒 2.0%、20年2月(1.9%)以来の低水準>前月は2.0%
・大学院卒以上 1.8%、20年2月(1.7%)以来の低水準を維持=前月は1.8%、21年12月は1.2%と1992年1月の統計開始以来で最低
・全米 3.6%、20年2月(3.5%)以来の低水準=前月は3.6%
--米5月雇用統計の詳細を見ると、①労働参加率の改善は女性がけん引、②労働参加率に合わせ女性の失業率は上昇、③65歳以上の労働参加率は男女そろって上昇、④人種別の労働参加率は非白人で上昇も白人は横ばい、⑤学歴別では高学歴ほど労働参加率が改善しつつ、失業率は横ばい――といった動向を確認できました。
5月FOMC議事要旨で「高インフレによる実質所得の下落が労働市場への復帰につながっている」と言及されたように、女性や高齢者の労働参加率の改善は、長引くインフレ高止まりを受けた世帯支出増加への対応と考えられます。ガソリンや食料品など生活必需品が高止まりし、ガソリン価格に至ってはメモリアル・デーの5月30日に再び4.62ドルと最高値を更新しただけに、低所得層を中心に働く必要に迫られたのでしょう。
ただ気掛かりなことに、女性を始め黒人、ヒスパニック系などは労働参加率に合わせ失業率が上昇していました。求人数が過去最多の水準にありながらこうした結果となったのは、輸送・倉庫など一部の雇用は20年2月以来の水準を回復した動きと合わせ、売り手市場から買い手市場に少しずつシフトしている可能性を示唆します。労働市場への再参入者の失業率が2019年の水準を上回るほか、再参入者の失業者の割合が5月に32.5%と2019年4月以来の高水準だったこともその証左の一つと言えるでしょう。
チャート:労働市場再参入者に占める失業者の割合は上向き続け、5月の再参入者の失業率はジワリ上昇
さらに、クノロジー関連など4業種の人員削減予定数は5月に急増し、経済活動の正常化の反動に加え金利上昇や相場変動の影響を受けた企業は採用停止や採用抑制を決定しています。小売の就業者数が3月に続き、5月に減少した点も懸念材料。力強い労働市場は、インフレ高進や供給制約、そしてFedの積極的な金融引き締めの影響で、勢いを失いつつあるようです。パウエルFRB議長がいう「痛み」こそインフレ減速につながるのであれば、Fedには朗報かもしれません。もちろん、これらの数字が継続するかを確認する必要がありますが・・。
(カバー写真:yooperann/Flickr)
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