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米7月CPI、年内据え置き期待を高める結果に

by • August 10, 2023 • Finance, Latest NewsComments Off4540

 Fed May Stay On Sideline In This Year As Inflation Data Shows Signs Of Stabilization.

米7月消費者物価指数(CPI)は前月比0.2%上昇し、市場予想並びに前月と一致した。12カ月連続で上昇した。エネルギーがプラスを保ち、帰属家賃など住宅関連も高止まりしたが、航空運賃や宿泊、中古車などがマイナスとなり市場予想以下の結果につながった。

CPIコアも前月比0.2%上昇し、市場予想並びに前月と変わらず。2020年6月以降続く上昇トレンドを保った。

FF先物市場は、米7月CPIがコアとそろって前年同月比で市場予想以下だったため、引き続き2024年の3月利下げ転換見通しが優勢となった。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙のFeⅾ番記者、ニック・ティミラオス記者は「6月と7月のインフレ指標は、6月FOMCで参加者が予想したような年内の追加利上げを行う必要を疑問視する内容で、9月利上げの可能性を低下させた」とツイートしていた。

チャート:引き続き、2024年3月利上げ転換を予想

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(出所:CME)

CPIの内訳を前月比でみると、原油価格が7月に80ドル台へ戻す過程で、エネルギー(全体の6.8%を占める)が0.1%上昇し、前月の0.8%に続きプラスを維持した。ガソリンも0.2%と2カ月連続で上昇。エネルギー・サービス(公益)は逆に前月の0.1%低下し、前月の0.4%の上昇からマイナスに転じた。電力は0.7%低下し、過去5カ月間で4回目のマイナスに。ガスは2.0%上昇しと6カ月ぶりにプラスに転じた。

食品(全体の13.4%を占める)は6月と同じく前月比0.2%だった(詳細は後述)。

CPIコアは市場予想通り前月比0.2%上昇、市場予想の0.3%と前月の0.4%を下回った。これまで伸びが著しかった住宅関連が鈍化をサポートした。

チャート:CPIの費目別寄与、それぞれ伸びが鈍化

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(作成:My Big Apple NY)

食品とエネルギー以外を前月比でみると、航空運賃が4カ月連続で低下したほか、宿泊も2カ月連続で低下すなど、モノからサービスへ需要シフトが指摘される費目が鈍化をリードした。中古車も2カ月連続でマイナスとなり、新車は前月の若干の下落を含めれば4ヵ月連続で低下した。医療サービスも弱い。一方で、自動車保険の伸びが再加速したほか、自動車メンテンス/修繕が上昇トレンドを維持した。コアCPIを押し上げてきた住宅関連は高止まりし、帰属家賃は前月を上回った。家賃は前月と変わらず高止まり。新規契約でマイナスが続くなか、通常1~2年契約という事情もあってサンプルに足元の動向は反映されづらかったが、未だ明確な減速は確認されていない。エネルギー関連と食品・飲料以外で主要な項目の前月比は、以下の通り。

(上昇費目)

・自動車保険 2.0%上昇し19カ月連続で上昇、前月は1.7%上昇
・自動車メンテナンス/修繕 1.0%上昇し16カ月連続で上昇、前月は1.3%
・帰属家賃 0.5%上昇しプラス圏を維持、前月は0.4%上昇
・家賃 0.4%上昇しプラス圏を維持、前月は0.5%上昇
・住宅 0.4%上昇しプラス圏を維持、前月は0.4%上昇
・教育サービス 0.3%上昇し3カ月ぶりにプラス、前月は0.3%の低下
・娯楽 0.1%の上昇し2カ月連続でプラス、前月は0.1%上昇

(横ばい、低下項目)

・航空運賃 8.1%低下し3カ月連続でマイナスで22年7月以来で最大の落ち込み、前月は3.0%低下
・中古車 1.3%低下し2ヵ月連続でマイナス、前月は0.5%の低下
・医療サービス 0.4%の低下、前月は横ばい
・宿泊 0.3%低下し2カ月連続でマイナス、前月は2.0%上昇
・新車 0.1%低下、前月の微減を含めれば4ヵ月連続でマイナス

・服飾 横ばい、前月は0.3%と8カ月連続で上昇

CPIは前年同月比3.2%と市場予想の3.3%以下となった。ただし、エネルギーの押し上げにより2021年3月以来の低い伸びだった前月の3.0%を上回ったCPIコアは同4.7%と市場予想と前月の4.8%を下回り、2021年8月以来の水準に鈍化した。

チャート:CPIの前年比はエネルギーが押し下げも、住宅を軸にその他が大きい

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(作成:My Big Apple NY)

――経済正常化の初期に著しい上昇を遂げた費目の前年同月比を振り返ると、鈍化が優勢でした。宿泊(前月:4.6%→6.1%)のみ前月を上回りましたが、自動車保険(前月:17.1%→16.9%)や新車(前月:4.1%→3.5%)は伸びを縮めました。その他、航空運賃(前月:18.9%の低下→18.6%の低下)は3カ月連続でマイナスとなり、中古車(前月:5.2%低下→5.6%低下)と9カ月連続で低下しています。

チャート:経済活動の再開で上振れが目立った費目、自動車保険以外は鈍化が鮮明に

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(作成:My Big Apple NY)

ちなみに、モノからサービスへの消費シフトが叫ばれて久しいながら、前月比で航空運賃をみると、6月に続き7月も8.1%低下し2022年7月以来の落ち込みを保ちました。宿泊も0.3%低下と過去4ヵ月間で3回目のマイナスに。米独立記念日の航空機利用者数はコロナ禍前を超えたと報道されつつ、夏季休暇の需要がピークを迎えたとみられますが、サービスのディスインフレを示唆するのか、単なる季節的な要因なのか見極めが必要です。

チャート:航空運賃と宿泊、需要が高いと報じられながら前月比で大きくマイナス

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(作成:My Big Apple NY 作成)

CPIの13.4%を占める食品の前年同月比は、鳥インフルエンザによって急騰した卵が元の価格に戻る過程で、肉類・魚・卵(前月:0.1%低下→0.2%の低下)が2カ月連続でマイナスだったほかシリアル・パン類(前月:8.8%→7.0%)や食費(前月:4.7%→3.6%)などがそろって鈍化しました。加えて、外食は賃金上昇圧力が高止まりするなか、前月の7.7%→7.1%と4カ月連続で前月の伸びを下回り、漸く鈍化トレンドに入ったと言えそうです。

チャート:外食を含め、鈍化が鮮明に

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(作成:My Big Apple NY)

6.8%を占めるエネルギーは前年同月比で12.3%低下し5カ月連続でマイナスでしたが、2020年5月以来の下落率となった前月の16.5%からは下げ幅を縮小しました。ガソリンも同19.9%低下し、2020年5月以来の下げ幅だった前月の26.5%ほど下がらず。公益(電力・ガス)も同1.2%の低下と、2カ月連続でマイナスだった。

チャート:ガソリンと光熱費はそろってマイナス、食品と家賃も伸び鈍化

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(作成:My Big Apple NY)

アトランタ連銀が発表する粘着CPI(帰属家賃や外食、医療サービスなど、変動の鈍い品目に絞って算出したCPI)は前年同月比5.6%の上昇と、前月の5.8%を下回り2022年6月以来の低い伸びでした。さらに、住宅を除いた場合に至っては3.8%と前月の4.0%を下回り、2021年12月以来の4%割れパウエルFRB議長を始めFedは住宅を除くコアサービスに注目するなか、住宅以外は着実に落ち着きつつあります。足元で高止まりする家賃ですが、ここが鈍化してくれば、粘着CPIも続くことでしょう。

チャート:粘着CPI、住宅を除けば減速が鮮明

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:住宅関連のCPIは、前年同月比でゆるやかながら鈍化トレンドを確認

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(作成:My Big Apple NY)

CPIのヘッドラインの前年同月比が6月を上回ったため、実質の平均時給はプラス圏を確保しつつ伸びを縮めました。7月の実質平均時給は全体で前年同月比1.1%上昇し3カ月連続でプラスとなるも、2021年3月以来の高い伸びだった前月の1.3%以下に。生産労働者・非管理職は1.9%上昇し、5カ月連続でプラス圏を維持し2021年2月以来の高い伸びとなった前月の2.2%を下回りました。

チャート:実質賃金の下落を続けたものの、下げ幅は縮小

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(作成:My Big Apple NY)

米7月CPIはコアの前年同月比が鈍化し、Fedが2024年3月に利下げ転換に傾く期待を広げました。今後の焦点は、労使交渉です。米物流大手UPSは、約34万人を抱える全米トラック運転手組合(チームスターズ)と7月25日、①パートタイム従業員の時給を最低21ドルに引き上げ、②フルタイム従業員の時給は平均49ドルに(今年は2.75ドル、それ以降は契約期間の残り4年の間に7.5ドル引き上げ)、③新車両にエアコンを設置ーーなどで暫定合意しました。

結果、UPSの決算資料を基にブルームバーグが報じたところ、フルタイムのドライバーは5年間の契約が終了するまでに、年間給与と諸手当を含め年収は約17万ドル(約2440万円)に及ぶといいます。その他、ユナイテッド航空のパイロット組合も7月、パイロットの給与を4年間で最大40%引き上げる契約で合意に達したと発表していました。

足元では自動車大手3社、GMやフォード、ステランティス(旧クライスラー)の従業員15万人を抱える全米自動車労働組合(UAW)が7月に労使交渉を開始しており、9月14日の午後11時59分までの締め切りに合意が到達しなければ、ストライキに突入するリスクがあります。そのUAWは、40%の賃上げを求める状況で、現時点で妥協点は見出されていません。

ベビーブーマー世代の引退を受けて人手不足が深刻化するなか、企業が労組側の要請を呑むケースが増えるだけに、賃上げがインフレ高止まりに繋がるリスクが意識されます。その一方で、労組の組織率は2022年に10.1%と過去最低を更新しており、全米に与える影響は限定的との見方も。どちらかが正しいかは、CPI動向が教えてくれるでしょう。

(カバー写真:Federalreserve/Flickr)

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