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財政の崖、真っ逆さまに落ちるデザイアはありません

by • November 10, 2012 • Latest NewsComments (0)1984

Will US Economy Find A Cliffhanger?

「Fiscal Cliff=財政の崖」、ヤフー・ニュースでも取り上げられ日本でも話題になりつつあるようですね。

アメリカでは米大統領選のずっと前、年初からずっとメディアで取り上げ続けられておりました。春くらいには米大統領選挙よりも、熱いトピックになっていましたっけ。

財政の崖とは、1)ブッシュ減税の終了、2)2011年の債務上限引き上げに伴う自動的予算の削減--が2013年1月1日に同時に実施され、ダブルパンチによろめく米経済が崖から真っ逆さまに急降下するように景気後退に陥るリスクを表す言葉です。ウォールストリート・ジャーナル紙の試算では、2013年度に支出削減と実質増税と合わせて6680億ドル(53兆1060億円)、国内総生産(GDP)にして4%相当の経済下押しになるといいます。全米世帯の約80%に対し、年間3500ドル(28万円)もの増税効果を与える計算になります。

WSJ紙の試算。2013年度にこれだけの緊縮財政で米経済は急降下の恐怖が迫る。

米議会予算局(CBO)も、危機を前に経済見通しを変更させてきました。仮に「財政の崖」で予算削減と減税措置が全面的に実施された最悪のケースでは、今年5月時点で2013年の経済成長をプラス0.5%としていたんです。しかし8月には2013年にマイナス0.5%へ落ち込み失業率は9.0%へ跳ね上がるとし、リセッションに陥ると警告しました。オバマ再選後の8日引け後には、あらためてマイナス0.5%、失業率は9.1%の景気後退シナリオを突きつけています。

では、民主党と共和党が歩み寄ればどうなるのか。CBOは11月の段階で、潜在成長率である2%以下(1.75%)という予想を描いております。BNPパリバは2.5%、JPモルガン・チェースは2%を幅に上回る水準ですから、CBOの見方はエコノミストより慎重なんですね。ちなみに7-9月期国内総生産(GDP)が2.0%、10月の失業率は7.9%であることを踏まえると、マイナス0.5%、失業率9.1%という負の効果の大きさは計り知れません。金融危機後、2009年4-6月の0.3%減を下回るマイナス成長ですよ。

米成長率の変遷をみると、マイナス0.5%のインパクトが想像できるでしょうか。

ところで「財政の崖」という言葉は、どこからやってきたのでしょう?きっかけは、2月29日、米下院の金融サービス委員会を前にして行ったバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長による議会証言とされています。バーナンキFRB議長は当時、

「Under current law, on January 1st, 2013, there is going to be a massive fiscal cliff of large spending cuts and tax increases. I hope that Congress will look at that and figure out ways to achieve the same long run fiscal improvement without having it all happen at — at one date.」

と述べ、「財政の崖」懸念の口火を切ったといいます。ただこのキーワードは、約2週間前である2月17日にガイトナー米財務長官が

「”Big tax and budget decisions will not confront U.S. lawmakers for months now that Congress has extended the payroll tax cuts, but a reckoning will be at hand in late 2012 and early 2013. It is being called the ‘fiscal cliff by some on Capitol Hill, and it will likely arrive after the Nov. 6 presidential and congressional elections. The elections are likely to involve intense debate about what should be done.」

と使用済み。歴史を紐解いてみると、CNNはニューヨーク・タイムズ紙で1957年当時から普及していたと指摘し、2008年にも米上院議員のジム・デミント氏(共和党・ノースカロライナ州)が口にしていたと報じてました。歴史のある用語だったことが分かります。

 

では、「財政の崖」の中身をみてみましょう。

まずはブッシュ減税を切り開くと、こちらは2001年にさかのぼります。ブッシュ政権がITバブルの崩壊と同時多発テロ事件にあえぐ米経済建て直しを目指し、2001年に「経済成長とと税控除の調整案(Economic Growth and Tax Relief Reconciliation Act/EGTRRA)」、2003年に「雇用と成長のための税控除調整案(Jobs and Growth Tax Relief Reconciliation Act)」 を成立させました。時限立法で2010年に終了するはずでしたが、リーマン・ショックから立ち直りつつあった脆弱な米経済を支えようと、オバマ政権は2年延長したんです。

ブッシュ減税の柱は

1)所得税
2)配当課税、キャピタルゲイン税
3)相続税

が上げられます。

1)所得税

2012年のブッシュ減税終了では、主な中間所得者層で25%→28%、28%→31%、33→36%とそれぞれ3%程度引き上げられるに対し、富裕層は35%→39.6%と4.6%も跳ね上げられ、ここがポイントとなっています。オバマ政権は2010年のブッシュ減税終了に合わせ、富裕層である夫婦合わせて25万ドル(1988万円)、個人で20万ドル(1590万円)の世帯にラインを引き、ブッシュ減税の打ち切りを提案。しかし共和党に阻止され、中間所得者層と合わせて富裕層の減税も継続させるにいたりました。

2)配当課税とキャピタルゲイン税
それぞれ15%だったところ、キャピタルゲイン税は20%、配当課税は所得税率へ引き上げられます。

3)相続税
ブッシュ減税でゼロ%へ引き下げたところ、2010年末のブッシュ減税終了後には55%という減税前の水準へ大幅引き上げられるとあって、当時はかなり話題となりました。結局オバマ政権は2010年に共和党との妥協案で最高税率を35%、非課税枠は500万ドル以下に設定。2012年末に失効すれば、非課税枠は100万ドルへ引き下げられ税率は55%に引き上げられます。

他にも

・被雇用者が負担する給与税減税および、緊急失業保険の失効
・富裕層向け代替ミニマム税(AMT)の中間所得への適用を回避する措置、いわゆるAMTパッチの失効
・ブッシュ減税とは別枠で富裕層である夫婦世帯25万ドル、個人20万ドルの世帯にはオバマ政権の医療制度改革を通じ新たに3.8%の課税

などが含まれ、米大統領選に増して民主党と共和党の攻防が熾烈を極める様相を呈しております。

特に焦点となっているのは、1)の所得税。

2012年の失効後は、所得ごとの税率は以下の通り変更されます。

民主党と共和党、中間所得層のブッシュ減税延長では合意しています。問題は、富裕者層。ただでさえ医療保険改革を通じて20万ドル以上の世帯には増税が待っているというのに、所得税率も他より格段に引き上げられるとあって、富裕者層を支持基盤にもつ共和党は憤懣やるかたなしというワケ。これを支持してしまうと共和党の議員は次の選挙に響くため、安易な妥協ができないんですよ。

とはいえ、米大統領選と同時に行われた米上下院の選挙結果を振り返ってみると強行姿勢を貫けない事情があります。

予想通りの結果ながら、共和党が米上下院でそれぞれ当選者数を2人ずつ減らしているんです。

おまけに米大統領選の結果を切り取ってみると、

▽男女格差

・オバマの支持率→56%が女性、44%が男性で男女格差は12%ポイント
・ロムニーの支持率→54%が男性、46%が女性で男女格差は8%ポイント

ギャラップ調査によると、男女格差合計20ポイントは調査が開始した1952年以来で最大

▽ヒスパニック層

・オバマの支持率→71%
・ロムニーの支持率 →27%

▽白人黒人、ヒスパニック、アジアの全人口に占める割合と2050年見通し

2012年の米大統領選の結果を 踏まえると、白人男性が選挙戦の決定権を握るという昔ながらの構図が変わってきたことを示しています。ピューリサーチ・センターが調査したヒスパニック層の支持率をはじめ、人口に占める人種の割合、その見通しを踏まえると、共和党が白人層の取り込みを踏まえた強硬姿勢を貫くのは賢明ではないように映ります。

米下院のベイナー議長(共和党、オハイオ州)は7日、オバマ再選を受け「財政の崖」について記者会見を開きました。そこでは、オバマ米大統領と実質的な「正しい条件にて増収を受け入れる」と発言。譲歩の可能性を点灯させたんです。

オバマ米大統領は9日、ダウ平均が再選後の過去2日間で400ドル以上の急落をみせた後に声明を発表しました。そこであらためて、富裕者層に対するブッシュ減税の終了を求めています。

では富裕者層の減税の妥協点は、どこにあるのか。

第1に、ベイナー発言を踏まえた増税につながらない方法が挙げられます。例えば富裕者層向けの人的控除の撤廃。現在1人当たりの配偶者/扶養控除として3800ドルを終了させる案があります。

第2に、富裕者層の定義の引き上げ。ペロシ米下院院内総務と米上院のシューマー議員(民主党・ニューヨーク州)、富裕者層の減税終了の枠を100万ドルへ引き上げる案を提示しています。

第1、第2の案それぞれ大幅な増収につながらず、オバマ政権から妥協を引き出せるかは微妙な情勢。ひとまず、オバマ米大統領が提案して16日に米下院のベーナー議長、米上院のマコーネル院内総務(共和党、ケンタッキー州)、米上院のリード院内総務(民主党、ネバダ州)、米下院のペロシ院内総務が集まり協議しますが、妥協点を導き出せるか注目ですね。

16日の協議は、極めて重要です。だって米議会は選挙を経て13日に再開、さらにサンクス・ギビングデーの休会(米下院は11月17日-26日、米上院は22日-25日)を経て米上院は26日、米下院は27日に会期に入りますから。12月には第3週から再びクリスマス・年末休会に突入する予定。「財政の崖」を目前が迫るなか、時間は限られています。

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