ECB’s Draghi Unveils Asset Purchase Plan With No Targets.
欧州中央銀行(ECB)定例理事会では、予想通り政策金利を据え置きました。
注目のドラギ総裁による記者会見は、全体的に失望的な内容に。資産担保証券(ABS)とカバードボンドの買い入れ詳細に落胆しただけでなく、非伝統的政策=国債買い入れに踏み切る可能性を点灯させなかったんです。
おかげでユーロ STOXXは下落の一途をたどり2.77%安で引け、ユーロは買い戻し。
(出所:Yahoo!Finance)
本日の目玉となるABSとカバードボンドの買い入れ詳細は、以下の通り。
・カバードボンドの買い入れは10月後半に実施
・ABSの買い入れは10−12月期と明かす程度
・双方とも、買い入れ目標を設定せず
・買い入れ期間は、少なくとも2年
・ABSはギリシャ、キプロスなど格付け「BBB—」を含むも、「プログラムなしで買い入れなし」と強調
・ABSの買い入れは発行および流通市場で実施、シニアおよび保証付きメザニンのトランシェが対象
確かに9月時点で、ABSの買い入れ目標の設定には「規模の明示は非常に困難」と釘を刺してはいましたよ。ただ9月4日、ABSとカバードボンドの買い入れを発表した際に「バランスシートを2012年初めの規模に回復させる」と大風呂敷を広げ、現時点から1兆ユーロ拡大させる意向を示していただけに、規模に言及しなかった点は痛かった。
シュローダーのアザド・ザンガナ欧州エコノミストは、背景につき「非購入対象の低格付け債を含むABSの購入可能額は2500億ドル、カバードボンドは6500億ドル程度」と試算した上で、「ECBは実際に買い入れ可能な規模が限られている現状を踏まえ、購入額目標の発表を見送ったのだろう」と推測しています。
BNPパリバのユーロ圏担当チーフエコノミスト、ケン・ワトレット氏はターゲット設定を見送った背景に「2011年11月—12年10月に実施した買い入れ第2弾の目標として400億ユーロを掲げたものの160億ユーロにとどまった苦い経験がある」と振り返っていました。
ドラギ総裁は、今回の記者会見でABSとカバードボンド買い入れが2016年6月まで行う「的を絞った長期資金供給オペ(TLTRO)とともにバランスシートに大きな影響を及ぼす」と発言していました。そうは言いつつ第1弾となった期間4年の資金供給オペTLTROで、255行に対する供給額は826億200万ユーロと、市場予想の1330億ユーロに届かず。現状で足元2兆ユーロのバランスシートを3兆ユーロへ回復させる道のりは、遠いといえます。
経済動向のキーワードは、「緊密に注視していく(monitor closely)」。成長回復に対し使用しており、9月時点の楽観的な2015年の成長見通しを下回るリスクを意識し始めたといえるでしょう。もちろん、キーワードはインフレにも適用。ひとつの指標ではなく広範なインフレ指標を見守ると発言しています。また足元のコアインフレが低下した点を「意味がある」と述べ、統合消費者物価指数(HICP)を構成する複数の項目が押し下げたと言及していました。従来は、「エネルギー価格の下落」が主犯格でしたから、今回の変更は注目に値します。
ドラギ総裁は記者会見でABS・カバードボンド買い入れ詳細に始まり、国債買い入れへの具体的な可能性にコメントしませんでした。ただしBNPのワトレット氏は、インフレ見通しを判断する上で広範な指標を参考にするとドラギ総裁が述べたことを踏まえ「ECB理事会メンバーは(2%を下回る)5年先スタートの5年物インフレスワップ金利を意識せざるを得なくなる」と指摘。12月実施のTLTROと同月公表のECBスタッフ見通しが「次のステップにつながる重要なカギ」との認識を示し、国債を加えた全面的QEへの扉が開く可能性を否定しませんでした。
一連の買い入れ策の動向を精査するためにも、ECB理事会メンバーの意見を収束させるためにも、非伝統的手段に踏み切る前にドラギ総裁は時間稼ぎせざるを得ないようです。
ちなみに今回のECB定例理事会はECB本部があるフランクフルトではなく、ドラギ総裁の出身国イタリアはナポリで開催しました。普段は陽気で知られるナポリ市民、ドラギ総裁の凱旋を反ECBデモで手荒く歓迎したんです。
ナポリの伝統的な風刺劇の道化師プルチネラの出で立ちで参加する市民。
イタリア政府に構造改革と緊縮財政を強いたECBへの抗議活動に、約4000名が集まり警察と衝突。放水砲が使われる事態となりました。イタリア南部は特に経済の打撃が著しかっただけに、若者を中心としたECBへの強い不信感がうかがえます。ドラギ総裁は、デモに対し理解を示しつつ「ECBには経済混乱を引き起こした責任はない」と一蹴していました。
(カバー写真:AP)
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