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9月FOMCは追加利上げ見送りも、年1回の利上げを強調

by • September 22, 2016 • Finance, Latest NewsComments Off2412

Fed Holds Rates Amid Widespread Dissent.

9月20〜21日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、予想通りFF誘導金利目標の据え置きを決定した。ただし、今回の声明文では経済見通しのリスクに対し「概して均衡に見える」との文言を採用し、前回の「後退した」から差し替え利上げの地ならしを行っている。さらに政策金利に係る3段落目に「委員会は利上げへの論拠が強まったと判断するものの、当面は(最大限の雇用とインフレ2%という二大)目標への進展が継続しているというさらなる証拠を待つことを決定した」との文言を追加。年内利上げへの意欲を強調するのを忘れない。反対票は7月時点のカンザスシティ連銀のジョージ総裁に加え、今回はタカ派で知られるクリーブランド連銀のメスター総裁、さらにハト派と目されながら9月に利上げの必要性を主張したボストン連銀のローゼングレン総裁が加わり3人に増えた。

声明文の主な変更点とポイントは、以下の通り。

【景況判断】
前回:「労働市場は強まり、経済活動はゆるやかに拡大している」

今回:「労働市場は強まり続け、経済活動は今年の上半期にみられた緩慢なペースから回復した」
米1〜3月期国内総生産(GDP)米4〜6月期GDPはそれぞれ1%付近ながら、米7〜9月期GDPは3%台への回復が見込まれる。また米8月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)こそ鈍化したが、8月までの3ヵ月平均は2015年平均を上回った。

前回:「雇用の増加は、5月に弱い伸びを示した後で6月に力強さをみせた。全体的に就業者数とそのほか労働市場の指標は、ここ数ヵ月で労働力の活用が増加したことを示す」

今回:「失業率は足元数ヵ月はほぼ変わらないが、雇用の伸びは概して堅調だ」
※失業率は3ヵ月連続で4.9%だが、前述したように6〜8月の雇用統計・NFPは2015年の平均を超え順調そのもの。

前回:「家計支出の伸びは力強くなっているが、企業の固定投資は軟調だ」

今回:「家計支出の伸びは力強いままだが、企業の固定投資は引き続き軟調だ」
※上半期のGDPの結果のほか各連銀の製造業景況指数やISM製造業景況指数の結果を受け、米7月鉱工業生産の上向きに対応せず企業投資には慎重な認識を維持。

【統治目標の遵守について】
前回:「ゆるやかな調整という金融政策の運営姿勢により、委員会は足元で経済活動がゆるやかに拡大し労働市場の指標は力強さを増すと予想する」

今回:「ゆるやかな調整という金融政策の運営姿勢により、委員会は経済活動がゆるやかに拡大し労働市場の状況は一段と力強さを増すと予想する」
※労働市場の「指標(indicators)」から「状況(conditions)」に修正し、労働市場の力強さが「一段と」増すと表明した背景はイエレンFRB議長ほか複数のFOMC参加者が発言した通り最大限の雇用に近づいたとする自信の現れと解釈できる。

前回:「短期的な経済見通しリスクは後退した」

今回:「短期的な経済見通しリスクは概して均衡に見える
※短期的な経済見通しリスクに「均衡」との認識を示し、年内利上げへの意欲を表明。利上げを開始した2015年12月直前にあたる同年10月のFOMC声明文でも、経済活動と労働市場におけるリスクは「概して均衡」との判断を下していた。

【政策金利について】
前回:なし

今回:「委員会は利上げへの論拠が強まったと判断するものの、当面は(最大限の雇用とインフレ2%という二大)目標への進展が継続しているというさらなる証拠を待つことを決定した」
※イエレンFRB議長によるジャクソン・ホール会合での講演内容を踏襲、年内利上げへの地均しを繰り返す。

【票決結果】
票決は、カンザスシティ連銀のジョージ総裁のほかクリーブランド連銀のメスター総裁、ボストン連銀のローゼングレン総裁が利上げを目指し反対票を投じた。年内で3月、4月、7月に続き全会一致でなかったのは4回目、カンザスシティ連銀総裁以外が加わったのは初めてとなる。1月と6月のみ、全会一致だった。輪番制である地区連銀の総裁は、カンザスシティ連銀のジョージ総裁、セントルイス連銀のブラード総裁、クリーブランド連銀のメスタ―総裁、ボストン連銀のエバンス総裁へ交代した。なお2015年は1月、3月、4月、6月、7月と5回連続でゼロ、リッチモンド連銀のラッカー総裁が利上げを目指し反対票を投じた9月と10月を経て、12月はゼロに戻った。

【経済・金利見通し】
成長見通しは、2016年と長期見通しをそれぞれ下方修正した。インフレ見通しは、PCEにつき2016年分のみ下方修正。コアPCEは2017年のみ引き下げている。失業率は2016年を引き上げたが、2018年は下方修正した。

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(作成:My Big Apple NY)

注目のFF金利見通しのドット・チャートでは、声明文で年内利上げを強く示唆しながら軒並み下方修正された。2016年の中央値は6月時点の0.875%から0.625%となり、据え置き派は3人に増加年1回の利上げを見込む参加者は前回の6人から10人へ増加した。2017年の中央値は前回の1.625%→1.125%とし、2017年の年内利上げ示唆は6月の年3回から年2回へ引き下げた。2018年も従来の2.375%→1.875%へ引き下げつつ、年3回で据え置き。2019年は2.625%とし、利上げが同年においても続く見通しを示す。長期的なFF金利見通しは、従来の3.0%から2.875%へ下方修正した。

左が今回9月、右が前回6月分のドット・チャート。

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(出所: FRB)

【イエレンFRB議長、記者会見】
イエレンFRB議長は、記者会見にて「ほとんどの参加者は年内1回の利上げを予想している」と発言した。景気過熱を抑制しつつ、インフレが急伸しないよう利上げが必要になるとの認識も表明。ジャクソン・ホール会合での見解並びに今回採用した文言である「利上げの根拠は強まった」と述べながら、二大目標に向けた進展への証拠を見極める必要性を付け加え据え置きを決定したと説明した。失業率が3ヵ月連続で4.9%、年初来の雇用統計・NFPが平均18万人増である状況については、潜在的な労働者が引き続き労働市場へ回帰していないとの見方を示し「経済には、若干の成長余地がある」と付け加えた。米大統領選が与える金融政策の影響について何度も質問を受けたものの、イエレンFRB議長は金融政策と政治は別物との見方を貫いた。

FOMC声明文の変更を受けて、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙はFed番であるジョン・ヒルゼンラス記者とデビッド・ハリソン記者による「Fedは利上げの選択肢残す、早ければ9月(Fed Stands Pat, but Says Case for Rate Increase Has Strengthened)」と題した記事を配信。カンザスシティ、クリーブランド、ボストンと3行の地区連銀総裁が反旗を翻すなか、イエレンFRB議長が記者会見で強気な経済見通しを明らかにした通り年内利上げの公算が大きいと報じた。

JPモルガンのマイケル・フェローリ米主席エコノミストは、声明文を受け「予想以上にタカ派寄りなトーンだった」と振り返る。声明文でジャクソン・ホール会合でのイエレンFRB議長の見解に合わせ”利上げの論拠が強まった”を盛り込んだだけでなく、3人の地区連銀総裁が利上げ票を投じたと指摘した上で「2011年8月以来であり、FOMCが引き金を引く時期が差し迫りつつある可能性を示す」という。今回、経済・金利見通しでは3人の据え置き派が確認されたものの「ブレイナード理事、タルーロ理事、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁といった面々が考えられ、FOMCの指導者(イエレン議長やフィッシャー副議長、NY連銀のダドリー総裁)ではない」点に注目。年内利上げの障害にならないと判断し、「(米大統領選を11月8日に控え)11月1〜2日開催の利上げも視野に入るが、年内は12月13〜14日開催のFOMCでの1回、2017年は2回の利上げとの予想を維持する」と結んだ。

FF先物が示す12月利上げ織り込み度は、一連の結果を受け59%となった。

米株相場は今回の決定を受け上昇で反応。米10年債利回りは低下、ドルは下落、金先物と原油先物は上昇した。

――やはり、FOMCは据え置きを決定しました。3人の地区連銀総裁が利上げ票を投じるなかで、年内利上げを強調することで妥協を図ったのでしょう。11月1〜2日開催のFOMCはさすがに同月8日の米大統領選まであと1週間なだけに見送るでしょうが、12月13〜14日開催のFOMCで追加利上げに踏み切る公算が一段と強まりました。

(カバー写真:FRB

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