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10月FOMC、ハト派から一転し12月利上げの余地を確保

by • October 29, 2015 • Finance, Latest NewsComments Off4481

Fed Fends Off Doubt Over 2015 Lift-off.

10月27〜28日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、FF金利誘導目標を予想通り据え置いた。一方で、利上げ開始について「次回会合で利上げが適切かを決定する上で査定する」との文言を挿入したほか、「足元の世界経済および金融市場の動向は経済活動を幾分押し下げ、短期的な見通しを下方修正する可能性がある」との文言を削除。前回9月FOMCではハト派色を強めていたが、一転して12月利上げに望みをつないだ。

声明文の主な変更点とポイントは、以下の通り。

【景況判断】

前回:「経済活動は足元、緩やかに拡大している(is expanding)」

今回:「経済活動は足元、緩やかに拡大してきている(has been expanding)」

米4−6期国内総生産(GDP)確報値が強含み、米1−3月期GDPもプラス成長へひきあげられたため上半期は潜在成長率とされる2%付近となった。

前回:「家計支出と企業の固定投資は緩やかに拡大してきているが、純輸出は軟調なままだ」

今回:「家計支出と企業の固定投資は足元で堅調に拡大してきているが、・・・純輸出は軟調なままだ」

※米4−6月期GDP確報値で民間投資が軒並み上方修正された半面、米小売売上高は8~9月が低迷したものの表現をやや楽観的なトーンへ変更した。ただ純輸出をめぐっては、米8月貿易赤字で輸出の減速を確認したためドル高の影響を意識したトーンを維持。

前回:「労働市場は改善を続け、雇用の伸びは堅調で失業率は低下しており、」

今回:「雇用の伸びは鈍化し、失業率は安定的に推移した。」
※米雇用統計で8~9月分が足元で失業率を低下させる水準として意識されていた20万人増どころか、15万人増にも届かなかった結果に配慮した。

前回:「概して、労働指標は労働資源の活用不足が年初から減退してきたことを示す」

今回:「それにも関わらず(上記の労働市場の文言変更を指す)、労働指標は概して労働資源の活用不足が年初から減退してきたことを示す」
※米雇用統計は8~9月の非農業部門就労者数こそ大幅に減速したものの、不完全失業率や長期失業率の割合で改善がみられたほか、失業率も2008年4月以来の低水準を維持したため、労働市場における改善アピールを継続。

【統治目標の遵守について】
前回:「足元の世界経済および金融市場の動向は、米経済活動をいく分抑制する可能性を残し、短期的にインフレへ下方圧力を加えうる」

今回:削除
※S&P500をはじめ米株相場が中国株安を発火点とした世界同時株安・世界景気減速への懸念が台頭した8月後半からの下げ幅を相殺し、警戒感を払拭させた。また中国人民銀行が2014年11月から6回目の追加利下げを行い、欧州中央銀行(ECB)も追加緩和のシグナルを点灯。世界的な緩和策の波が米国にも届き、需要を促進すると判断したようだ。同文言は前回9月に挿入されたばかりだったものの、完全に削除させている。

S&P500の切り返しに、Fedも安堵した様子。
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(出所:Stockcharts)

前回:「マーケット・ベースでのインフレ動向は低下した」

今回:「マーケット・ベースでのインフレ動向はわずかに低下した」
モルガン・スタンレーによると、5年先5年物ブレークイーブン・インフレ率(BEI)は6月FOMC当時の2.1%台、9月FOMC当時の1.84%から低下し、1.7%台まで低下していた。

前回:「委員会は経済活動と労働市場におけるリスクと見通しは概して均衡しているとみなすが、海外動向を注視していく。」

今回:「委員会は経済活動と労働市場におけるリスクと見通しは概して均衡しているとみなすが、世界経済と金融市場の動向を注視していく。」
※世界景気と金融市場への警戒感を示した文言を削除しつつ、海外動向の部分を差し換え。

【政策金利について】
今回:「委員会は、労働市場が一段の改善を示し、インフレが中期的に2%の目標にたどり着くと確証を得れば、利上げが適切になると予想している。」とし、前回の文言で変更なし。

前回:「低金利のレンジをどの程度維持していくかを決定する上で、委員会は最大限の雇用とインフレ2%という目標へ向け、実際値と予想値の動向を精査していく。」

今回:「次回の会合で利上げを行うことが適切かどうか、委員会は最大限の雇用とインフレ2%という目標へ向けて実際値と予想値の動向を精査していく」
※12月15~16日開催の次回会合で、利上げ開始を検討するか明示。イエレンFRB議長が5月22日の講演から提唱してきた「年内利上げ」に向け、Fedのクレディビリティ確保に動いたか。FF先物動向は、12月利上げ織り込み度が27日の34.7%から46.2%へ急伸した。

【票決結果】

反対票は1月、3月、4月、6月、7月と5回連続でゼロを経て、9月に続きリッチモンド連銀のラッカー総裁が今回も利上げを狙い反対票を投じた。2015年の地区連銀FOMC投票メンバーはアトランタ連銀のロックハート総裁、シカゴ連銀のエバンス総裁、リッチモンド連銀のラッカー総裁、サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁となる。2014年は7月以降、9月、10月、12月と4回連続で反対票が投じられていた。

JPモルガンのマイケル・フェローリ米主席エコノミストは、結果を受け「12月利上げの選択肢が戻ってきた」と振り返る。今回新たに追加された‘次回の会合で利上げを行うことが適切か決定する’をめぐっては、「明らかにタカ派寄りで12月の利上げ開始との当方の予想をサポートする」と判断しつつ、「決定打ではない」との慎重姿勢を維持。フェローリ氏によると、「次回」の会合とする文言が最後に使用されたのは、1999年まで遡る必要がある。それだけ珍しい文言を追加したとはいえ、経済指標が逆風を撥ね付ける結果を出して初めて、12月の利上げ開始を正当化すると結んだ。

バークレイズのマイケル・ゲイピン米主席エコノミストは、2016年3月とする利上げ開始予想を据え置いた。理由として「足元、FOMC参加者は利上げ派と緩和維持派政策で二分している状況」と分析。年末にかけ「インフレが軟化する」と見込むほか、12月利上げに傾いているのであれば「一段と強力なシグナルを送っていただろう」と認識する。その上で、Fedは12月FOMCまで労働指標とインフレ指標を見極めていくと結んだ。

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、Fed番であるジョン・ヒルゼンラス記者による「Fed、12月利上げのカードを残す(Fed Keeps December Rate Hike in Play)」と題した記事を配信した。米株相場や外部環境がFedに有利に動いたと評価しつつ、インフレを始め米経済指標次第では困難になるとも付け加えた。

28日のS&P500セクター別動向、利ざや拡大が見込まれ金融株の跳躍が目覚ましい(赤字は下落)。

1位 金融 2.41%     5位 ヘルスケア 0.97%
2位 エネルギー 2.22%    7位 裁量消費財 0.95%
3位 素材 1.55%        8位 産業財 0.69%
4位 IT 1.54%         9位 生活消費財 0.47%
5位 通信 0.97%       10位 公益 1.13%

(所感)

・利上げ開始で重要視するのはインフレ率や労働市場の動向より、世界景気と金融市場の動向といった印象を与える。
・インフレ動向は5年先5年物BEIが6月時点を大幅に下回るほか、Fedが注目する米9月個人消費支出(PCE)はコアで前年同月比1.3%程度と目標値の2%から乖離したままだ。2004年に利上げを開始した時点でも、コアPCEは1.6%。仮にインフレが改善しないまま利上げを開始すれば、インフレを軽視するFedという印象が残る。
・米雇用統計で8~9月分が減速したため第1パラグラフでの景況判断にかかる労働市場の表現こそ下方修正したが、利上げ開始の条件とする「幾分の改善」は維持。不完全失業率や長期失業者の割合が改善しているため、ホリデー商戦で雇用が前年のように25万人増~35万人増に急増する見通しに基づいて「幾分の改善」を据え置いた可能性がある。

・12月利上げをゲームプランとして残した理由として、1)バブル阻止、2)Fedの信認度獲得、3)債務上限引き上げ及び予算案の交渉決裂の懸念後退――が挙げられよう。

・1)については、過剰流動性への懸念を再三明らかにしている。2)をめぐっては、CNBCがFOMC直前に実施するFedサーベイでイエレンFRB議長への評価が低下し(5点満点で4月時点の3.17点から今回2.49点、指導力も4月時点の3.89点から3.26点)、政策自体も緩和寄り(9月時点で54%、今回は64%)と変化していた。
・3)については、2013年12月にテーパリングを開始した当時のように、財政不安が経済を圧迫する不安が払拭されたことで対応したとみられる。

・問題点として、1)個人消費、2)雇用、3)製造業活動、企業の設備投資――が挙げられよう。
・1)の個人消費をめぐっては、2014年から鈍化する見通し。小売業者における年間の売上のうち5分の1を占めるホリデー商戦の予想値が3.7%増と、4年ぶりの高水準だった前年の4.1%増から減速が見込まれる。米10月消費者信頼感指数が高水準を保つとはいえ、前月から下振れした点も留意しておきたい。
・2)の雇用では、ホリデー商戦での起爆剤に期待が寄せられる半面、3Mが7-9月期決算で総従業員の1.7%に相当する1500人の人員削減を発表したように、ドル高と世界景気減速の余波でリストラが再開しかねない。
・3)では、各連銀製造業景況指数(ニューヨーク、フィラデルフィア、リッチモンド、カンザスシティ、ダラス)は改善がみられるものの全て分岐点割れを継続。米9月耐久財受注も、コア資本財(民間航空機を除く非防衛財)は2ヵ月連続で減少し、企業の設備投資に下振れ余地を示す。

結論として、筆者は問題を抱えつつ「やるやる詐欺」疑惑を回避するため12月利上げを行うと考える。仮に見送った場合は、1月に決算発表の時期がぶつかる上に米株相場がクリスマス・ラリー明けの調整局面に入る傾向が高いため、3月にずれ込むのではないか。

(カバー写真:Federalreserve/Flickr)

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