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7月ベージュブック、労働市場は一段とひっ迫し一部ボーナスが上昇

by • July 13, 2017 • Finance, Latest NewsComments Off1957

Labor Market Tightened Further, Valuable Pay Rises.

米連邦準備制度理事会(FRB)が7月12日に公表したベージュブック(5月後半から6月末までカバー)によると、米経済の拡大ペースは「ごく小幅からゆるやか(from slight to moderate)」にとどまった。前回の「緩慢あるいはゆるやかな(at modest or moderate)」から下方修正されている。一方で労働市場のさらなる逼迫が指摘されたにも関わらず、賃金の伸びは直近の雇用統計が示すように加速していない。カンザスシティ地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。

<経済全般のセクション>

(今回)
・経済活動は、「ごく小幅からゆるやか(from slight to moderate)」に拡大した。

(5月分)
・経済活動は、「緩慢からゆるやか(at modest or moderate)」に拡大した。
・大半の企業は短期的に前向きな見通しを示したが、楽観度はいくつかの地区連銀で「減退した(waned somewhat)」。

<個人消費>

(今回)
・個人消費は、非自動車部門と観光に支えられ大半の地区連銀で拡大。ただし自動車をめぐっては、多くの地区連銀で「軟化し(soften)」、半数の地区連銀は「減少(decline)」を報告した。
・観光と旅行は全般的に経済活動と「同じペースを維持し続けた(continued to keep pace with the general economy)」。

(5月分)
・個人消費は、多くの地区連銀で「軟化し(softened)」、非自動車の小売売上高では「ほとんど変わらず、あるいは変化なし(little or no change)」だったが、複数の地区連銀で自動車販売は過去最高を記録した前年から「わずかに減少(edge down)」した。

<製造業、非製造業の活動>

(今回)
製造業と非金融機関のサービス業は拡大し続け、ほとんどの地区連銀で伸びは「緩慢からゆるやか(from modest to moderate)」だった。

(5月分)
・製造業と非製造業の活動をめぐり、大多数の地区連銀は「ゆるやかな伸び(moderate growth)」を報告した。ただ軽トラックの生産増加は、乗用車の生産の減少分を補えなかった。

<住宅市場>

(今回)
住宅投資と非住宅の建設活動は、ほとんどの地区連銀で「横ばいから拡大(flat to )」な伸びを示した。大部分の地区連銀は、住宅の低水準にある販売用物件の問題が住宅販売の重石になっていると指摘した。

(5月分)
・新築住宅と非住宅の建設活動、並びに中古住宅の販売活動は「緩慢あるいはゆるやか(at modest to moderate rates)」な伸びを続けた。住宅販売ペースが鈍化したものの、住宅建設の伸びは「幾分加速した(accelerated somewhat)」。

<貸出需要>

(今回)
・ローン需要は、ほとんどの地区連銀で「安定的(stable)」と報告されている。

(5月分)
・貸出の伸びは、経済活動全般の動きを「反映あるいは支援する傾向がある(tended to mirror and support)」。

<農業、エネルギー>

(今回)
農業の状況は全般的に「まちまち(mixed)」で、湿度の状況がばらばらとなり一部の地区連銀では価格下落に伴う乳製品や複数の穀物の弱まりを挙げた。エネルギー活動は、全般的に前回のベージュブックから「改善(improved)」し、特に原油と天然ガスで目立った。石炭の生産は「活気に乏しい(sluggish)」ものの、前年比を上回る価格を保った。

(5月分)
・農業の状況は「まちまちであり続け(remained mixed)」、一部の地域は平年を上回る降雨量により「打撃を受けた(negatively affected)」。
・ほとんどのエネルギー関連は、「控え目ながら改善しつつある(tended to modestly improve)」。

<雇用と賃金>

(今回)
・雇用は全米のほとんどの地域で「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」なペースでの拡大を維持したが、アトランタとセントルイスは「横ばい(flat)」と報告した。高賃金並びに低賃金の職そろって労働市場は「一段と逼迫し(tightened further)」、特に建設とITで目立つ。特殊技能職での人材不足は、広範囲にわたって報告された。賃金は「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」なペース」で伸び続け、多くの企業は労働市場の逼迫を理由に挙げている。賃金の伸びは高賃金並びに低賃金の職で確認された。数地域(a few)では、福利厚生と従業員を引き留めるためのボーナスの一部(variable pay)が上昇した。

(5月分)
・労働市場は「引き締まり続け(continued to tighten)」、ほとんどの地区連銀は幅広く人材不足を指摘した。
・人材不足により企業にとって適格な人材を引きつけ、かつ維持することが困難となっているにも関わらず、雇用は「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」に増加し続けた。
・ほとんどの地区連銀は、賃金の伸びが「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」と報告。
・シカゴの製造業は、より優れた人材を引きつけるため、並びに離職を防ぐため賃金を10%引き上げた。

<物価のセクション>

(今回)
・物価は「ゆるやかに(moderately)」上昇し続けたが、数地区連銀(a few)は上昇圧力が「非常に小幅ながら緩和した(eased slightly)」と報告した。一部(several)の地区連銀は建設財や航空輸送料の上昇を指摘した一方、ガソリン価格は下落した。小売価格は「安定的あるいはごくわずかに上昇(held steady or slightly increased)」し、製造業セクターは「着実から緩慢(steady to modestly)」に伸びたという。農業品の価格下落は農家で問題視されているが、食料品小売は商品先物価格の下落を手掛かりに利ザヤが「改善(improved)」した。住宅価格はほとんどの地域で「上昇(increase)」した。

(5月分)
・概して、物価は前回から「ほとんど変わらず(little changed)」、ほとんどの地区連銀が「緩慢(modest)」な上昇を報告。
・木材、鉄鋼、その他商品での急速な値上がりを受け、製造業の一部で仕入れコストが上昇しつつある。
・反対に食品や服飾、自動車など一部の最終財で値下げを確認した。
・エネルギー価格は、地区連銀と製品別で「まちまち(mixed)」。住宅の在庫不足により、多くの市場で価格が上昇した。

経済活動に対する形容詞の登場回数、比較チャート。

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(作成:My Big Apple NY)

<地区連銀別、経済活動の形容詞>

・「緩慢」を含む表現を示した地区連銀、7行=前回は7 行
→ボストン(前回通り)、NY連銀(前回は“横ばい”→今回は“回復から緩慢”へ上方修正)、フィラデルフィア(前回は“緩慢”→今回は“鈍化から緩慢”へ下方修正)、クリーブランド(前回通り)、リッチモンド(従来は緩慢→今回は緩慢も前回より加速へ上方修正)、アトランタ(前回通り)、ミネアポリス(前回通り)

・「ゆるやか」と表現した地区連銀、4行=前回は4行
→シカゴ(前回通り)、カンザスシティ(前回通り)、ダラス(前回通り)、サンフランシスコ(前回通り)

・「ごく小幅に改善」と表現した地区連銀、1行=前回は1行
→NY(前回の“緩慢”→今回は”ごく小幅に改善”へ上方修正)

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(作成:My Big Apple NY)

<全体のキーワード評価>
総括並びに地区連銀のサマリーでみたキーワードの登場回数は、以下の通り。前回に続き「不確実性」の文言は、ゼロだった。なお「不確実」の登場回数は米大統領選挙前の2016年10月分に7回、2016年11月分は3回、2017年1月分は7回、2017年3月分は3回だった。

「増加した(increase)」→13回>前回は8回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→3 回<前回は4回
「ゆるやか(moderate)」→15回<前回は18回
「緩慢、控え目など(modest)」→21回<前回は23回
「弱い(weak)」→4回>前回は1回
「底堅い(solid)」→1回=前回は1回
「安定的(stable)」→1回>前回は0回
「不透明性(uncertain)」→0回=前回は0回

「不確実性」をめぐる文言はサマリーで確認しなかったものの、地区連銀の詳細報告で「不確実」の登場回数は7回だった。前回の9回からは減少し、以下の通りとなる。12地区連銀中3行と過去2回の4行から減少。今回はシカゴとセントルイスが消え、代わりにサンフランシスコが入った。

・ボストン地区連銀 2回(前回は4回)
→製薬会社がオバマケア代替案の行方に対し1回、同じ分野でIT企業が1回指摘。

・ダラス地区連銀 3回>前回も1回
→通商政策とヘルスケア関連の政策の見通しで1回、製造業の力強さが維持できるかどうかに1回、輸送業者が経済と政治的への懸念材料として1回。

・サンフランシスコ地区連銀 2回>前回は0
→製造業が規制について1回、観光と移民政策について1回。

<ドル高をめぐる表記>
ドル高をめぐるネガティブな表記は、前回に続き総括はなし。地区連銀は個別で前回に続き1行のみ指摘し、登場回数も、前回通り1回だった。前回に続きクリーブランドが指摘し、ドル高を批判し続けていたサンフランシスコが消えた。

・クリーブランド地区連銀 1回
→海外売上が縮小した理由として1回

<中国>
中国というキーフレーズが登場した回数は前回4月分まで6回連続でゼロとなった後、今回もゼロに戻した。前回5月分は2回登場し、ボストンとミネアポリスがそれぞれ1回ずつ指摘していた。なお2015年9月に初めて中国が盛り込まれた当時は11回で、その後は徐々に減少し1年経過した2016年9月分でゼロへ戻し2017年4月までその流れを続けていた。

――今回のベージュブックでは、経済成長の拡大ペースで全体の総括が「緩慢からゆるやか」から「ごく小幅からゆるやか」へ下方修正され、「緩慢に」鈍い表現が加えられた地区連銀を2行確認しました。しかし従業員を引き留めるための一部ボーナスや福利厚生の引き上げを報告し、労働市場が一段とひっ迫した様子が伺えます。また総括部分で“不確実性”の言及が引き続きゼロだったほかドル高圧力に関する指摘が減少、中国をめぐるネガティブな表現もゼロに戻しました。利上げやバランスシート縮小への障害になる内容ではなく、イエレンFRB議長が議会証言で言及したように9月19~20日開催のFOMCでバランスシートの縮小を発表する可能性を残します。あとは金融市場が落ち着いて推移してくれれば、イエレンFRB議長も安心でしょう。

(カバー写真:Wally Gobetz/Flickr)

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