Beige Book Indicates Concerns Over “Uncertainty“ Fade Among Districts.
米連邦準備制度理事会(FRB)が10月18日に公表したベージュブック(8月末から10月前半までカバー)によると、米経済の拡大ペースは前回に続き「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」で据え置いた。ハリケーンの影響については、一部の地区連銀での大きな被害があったと報告した程度で、目立った変化はみられず。“不確実性”に関わる懸念は、前回から後退した。労働市場は「緩慢(modestly)」な拡大を続けるなか、賃上げ圧力は限定的にとどまった。しかし輸送や建設など、一部のセクターでは「力強い賃上げ圧力(stronger wage pressures)」がみられている。ミネアポリス地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。各地区連銀の名称で表記している。
<経済全般のセクション>
(今回)
・経済活動は拡大したが、「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」なペースに分かれた。リッチモンドやアトランタ、ダラスは地域のほか輸送やエネルギー、農業などのセクターでハリケーン “ハービー”と“イルマ”による甚大な被害を報告した。
(前回)
・経済活動は、「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」なペースで拡大した。
<個人消費>
(今回)
・個人支出は「鈍く拡大(rose slowly)」し、自動車売上高と観光支出は増加した。
(前回)
・個人消費は殆どの地区で「拡大(increased)」し、自動車以外の小売売上高と観光は「増加(gains)」したが、自動車の売上は「まちまち(mixed)」だった。
<製造業、非製造業の活動>
(今回)
・製造業活動と非金融サービスは、ほとんどの地域で「緩慢からゆるやかに(modestly to moderately)」拡大した。
(前回)
・製造業活動は、概して「緩慢ながら拡大した(expanded modestly)」。自動車生産は「まちまち(mixed)」で、多くの地区の企業からは長期にわたる同産業の鈍化を懸念する声が聞かれた。
<住宅市場>
(今回)
・住宅建設は「拡大し続け(continued to increase)」、商業施設の建設は概して「わずかに拡大(up slightly)」した。販売向けの住宅在庫が低水準にある状況が続き、多くの地域で住宅販売を押し下げているが、非住宅不動産活動は全体的に「わずかに拡大した(increase d slightly)」
(前回)
・住宅並びに商業施設の建設活動は「わずかに拡大(increased slightly)」した。販売向けの住宅在庫が低水準にあるため、住宅販売活動を押し下げているが、商業不動産活動は「わずかに拡大(increased slightly)」した。
<貸出需要>
(今回)
・全体的にローン需要は概して「安定(stable)からゆるやかに上昇(moderately higher)」した。
(前回)
・企業と個人の融資需要は全般的に「緩慢なペースで拡大(grew at a modest pace)」し、多くの銀行は非銀行系との競争激化を報告した。
<農業、エネルギー>
(今回)
・エネルギーセクターでの伸びは、全体的に「わずかにゆるんだ(eased slightly)」。農業の状況は「まちまち(mixed)」で、一部の地域で収穫が予想を上回ったものの、商品先物価格が農家の所得を抑制し続けた。
(前回)
・エネルギーと天然資源での活動はハリケーン“ハービー”で閉鎖される前までは全般的に「前向き(positive)」だった。農業活動は全体的に「まちまち(mixed)」で、複数の地区連銀から干ばつの報告が上がった。
<雇用と賃金>
(今回)
・雇用の伸びは概して「緩慢(modest)」で、ほとんどの地区連銀で「横ばいからゆるやか(flat to moderate)」に拡大した。多くの地区連銀は、企業にとって適切な人材確保が困難になっていると報告、特に建設や輸送、製造業での特殊技能職、一部のヘルスケアとサービスで顕著となっている。人材不足は、業績の伸びを抑える一因だった。一部地区連銀の企業は人材不足を挙げ、特に建設関連での人手不足はハリケーンの復興需要に伴うものだ。労働市場の逼迫にも関わらず、大部分の地区連銀における賃金圧力は「ごく緩慢からゆるやか(only modest to moderate)」にとどまった。しかし、複数の地区連銀は輸送や建設など一定のセクターでの「力強い賃上げ圧力(stronger wage pressures)」を挙げた。契約金や残業、その他賃金以外の支払いで従業員を引き留める努力が強まった。
(前回)
・雇用の伸びは概して「幾分鈍化し(slowed some)」、「わずかから緩慢(from a slight to modest rate)」なペースとなっている。多くの産業で人手不足が報告され、特に製造業と建設業で顕著。アトランタ、セントルイス、ミネアポリスではビジネス機会を断念したとの報告が上がったが、必要な人材が確保できなかったためだ。多くの地区連銀は、あらゆるスキルで求人を埋められない状況と報告。労働市場が逼迫しているにも関わらず、地区連銀の殆どは賃上げ圧力が「限定的(limited)」と指摘している。ただし、ダラスやサンフランシスコは、人材不足により賃上げ圧力が発生していると報告した。
<物価のセクション>
(今回)
・物価は、前回のレポートから「緩慢に(modestly)」上昇した。複数の地区連銀は製造業の仕入れ価格での「上昇(increased)」を指摘したが、ほとんどの場合は販売価格に反映されなかった。小売価格は全般的に「わずかに上昇(increased slightly)」した。輸送やエネルギー、建設の素材価格はより「急速に(rapidly)」上昇し、複数の地区連銀ではハリケーン効果を挙げた。
(前回)
・物価は、前回から「緩慢なまま(remained modest)」だった。原材料の仕入れ価格は、全般的に「上昇し(increased)」、特に運送料、木材、鉄鋼で目立つ。反対に、エネルギーと農業商品作物価格は「まちまち(mixed)」だった。多くの地区連銀は、下流への物価上昇の波及について「限定的(limited)」と報告、仕入れ科価格の上昇ペースは販売価格を上回るという。住宅価格は全般的に「上昇した(moved up)」が、多くの地域で住宅在庫の逼迫により価格が押し上げられた。
経済活動に対する形容詞の登場回数、比較チャート。
<地区連銀別、経済活動の形容詞>
・「緩慢」と表現した地区連銀、6行<前回は8 行
フィラデルフィア(前回は“緩慢”→今回据え置き)
アトランタ(前回は“緩慢”→今回据え置き)
シカゴ(前回“緩慢”→今回据え置き)
セントルイス(前回は“緩慢”→今回据え置き)
ミネアポリス(前回は“緩慢”→今回据え置き)
カンザスシティ(前回は“緩慢”→今回据え置き)
・「ゆるやか」と表現した地区連銀、4行>前回は5行
NY連銀(前回は“ゆるやか”→今回据え置き)
リッチモンド(前回は“緩慢”→今回は“ゆるやか”へ上方修正)
クリーブランド(前回”ゆるやか“→今回は据え置き)
ダラス(前回の“緩慢”→今回は“ゆるやか”へ上方修正)
サンフランシスコ(前回は”ゆるやか“→今回据え置き)
・「緩慢からゆるやか」と表現した地区連銀 1行=前回も1行
ボストン(前回は“緩慢からゆるやか”→今回据え置き)
<全体のキーワード評価>
総括並びに地区連銀のサマリーでみたキーワードの登場回数は、以下の通り。5月、7月、9月に続き4回連続で「不確実性」の文言はゼロだった。なお「不確実」の登場回数は米大統領選挙前の2016年10月分に7回、2016年11月分は3回、2017年1月分は7回、2017年3月分は3回だった。
「増加した(increase)」→16回>前回は13回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→7 回>前回は3回
「ゆるやか(moderate)」→13回=前回は13回
「緩慢、控え目など(modest)」→21回<前回は26回
「弱い(weak)」→1回=前回は1回
「底堅い(solid)」→0回=前回は0回
「安定的(stable)」→1回=前回は1回
「不透明性(uncertain)」→0回=前回は0回
「不確実性」をめぐる文言はサマリーで確認しなかったものの、地区連銀の詳細報告で「不確実」の登場回数は6回となり、前回の5回から増加した。指摘した地区連銀は、以下の通りとなる。12地区連銀別では前回の4行から5行へ増加。ただし、「不確実性」の除外や後退を挙げる文言を含むため、懸念を意味する上で“不確実性”と言及した回数は4回へ減少する。今回は、前回の4行(ボストン、セントルイス、ダラス、サンフランシスコ)にクリーブランドが加わり、サンフランシスコが消えた。
・ボストン 1回<前回は2回
→医療保険制度改革(オバマケア)代替案への“不確実性”を指摘。
・クリーブランド 2回>前回は1回
→服飾小売は国境調整の導入に関わる “不確実性”を除外、銀行のうち数行で政治的な“不確実性”を受け融資需要が軟化した。
・リッチモンド 1回>前回はゼロ
→ノースカロライナ州の自動車ディーラーは消費者向けの販売でわずかな増加を確認したが、自動車市場のハリケーン効果は“不確実”と言及した。
・セントルイス 1回=前回も1回
→雇用者は“不確実性”を考慮し業務の効率化を図り、大手の一企業は低い利益幅の雇用から利益幅の大きい方へ移行させた。
・ダラス 1回<前回は2回
→エネルギー市場において、“不確実性”が後退したため前回の2018年上半期見通しより楽観的となった。
<ドル高をめぐる表記>
ドル高をめぐるネガティブな表記は、5月分、7月、9月分に続き総括ではゼロ。地区連銀別では、5月分、7月分の1行(クリーブランド)を経て、9月と合わせゼロだった。
<中国>
中国というキーワードが登場した回数はサマリー部分でゼロとなり、前回の3行(ボストン、クリーブランド、セントルイス)、登場回数3回から減少した。地区連銀別でも、前回のボストン、クリーブランド、セントルイスの3行からゼロに転じた。なお中国の言葉が登場した回数につき過去を振り返ると、4月分まで6回連続でゼロとなった後、5月分で2回登場(ボストンとミネアポリスがそれぞれ1回ずつ指摘)していた。なお2015年9月に初めて中国が盛り込まれた当時は11回で、その後は徐々に減少。1年経過した2016年9月分でゼロへ戻し、2017年4月までその流れを続けていた。
――今回のベージュブック、ハービー効果を反映した上で経済活動の拡大ペースを「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」で据え置きました。ただし、米9月新車販売台数や米9月小売売上高でみせたハリケーン後の反動や米9月鉱工業生産の改善にみられるとおり、ベージュブックの内容は全般的に上方修正が目立ちます。地区連銀別の経済活動に関する文言は、今回「ゆるやか」が2行増えましたね。キーワード評価でも、「増加した」や「強い」など楽観的な表現が優勢となりました。「不確実性」を挙げたなかでは、ダラス地区連銀のようにリスク後退を意味する内容を含み、実質的に「不確実性」の後退を表しています。イエレンFRB議長が発言する通り現状のペースで経済が拡大していけば、ゆるやかな利上げ即ち12月利上げは正当化されるでしょう。
(カバー写真:Chapendra/Flickr)
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