Stocks Soar After Fed Drops ‘Patient’ From Its Statement, Dollar Tumbles.
3月17−18日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明文では、大方の予想通り”忍耐強くなれる(patient)”のフォワード・ガイダンスを削除してきました。一方で、経済活動全般に対する表現を下方修正しています。経済・金利見通しも全般的に引き下げた結果、マーケットの6月利上げ観測を後退させました。
声明文の主な変更点とポイント
【景況判断】
前回:「経済活動は堅調なペースで拡大」
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今回:「経済活動の伸びは、いく分緩やかになった」
※米10−12月期国内総生産(GDP)改定値が2.2%増と速報値から下方修正されたほか米1−3月期GDPも大寒波・積雪で大幅に減速する可能性に配慮し、景況判断を下方修正。
前回:なし
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今回:「輸出の伸びは弱まった」
※10−12月期GDPのうち純輸出の寄与度はマイナス1.15%。2014年4−6月期を除き2014年で3期目のマイナスを示し、ドル高の悪影響を示唆。
前回:「マーケット・ベースのインフレ期待はここ数ヵ月で大いに低下し、調査ベースの長期インフレ見通しは安定したままだ」
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今回:「マーケット・ベースのインフレ期待は低迷を続け、調査ベースの長期インフレ見通しは安定したままだ」
※足元で5年先5年物ブレーク・イーブン・インフレ率は1.37%と月初の1.67%から低下、イエレン議長は記者会見でマーケット・ベースが過去最低に近づいていると言及。
【統治目標の遵守について】
前回:「インフレは短期的に一段と低下する見通し」
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今回:「インフレは足元の低水準で推移する見通し」
※米2月生産者物価指数や燃料を除く米2月輸入物価指数が下振れするほか、欧州中央銀行が量的緩和に着手した影響もありドルが対ユーロで約12年ぶりの高値を示現しディスインフレ圧力高まる。
【政策金利について】
前回:「委員会は金融政策の正常化を開始するにあたって、忍耐強くなれる(patient)と判断する。しかしながら経済指標が委員会の予想より早く雇用とインフレ目標を達成できる道筋を示せば、現時点で予想するより迅速に金利を引き上げていくだろう。反対に、進展具合が予想より遅くなれば、利上げは現時点で予想するより後ろ倒しさせると見込む。」
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今回:「委員会は、FF金利誘導目標レンジ引き上げを4月に実施する可能性は低いと判断する。委員会は、労働市場が一段の改善を示し、インフレが中期的に2%の目標にたどり着くと確証を得れば、利上げが適切になると予想している。フォワード・ガイダンスの変更は、委員会が利上げ時期を決定したことを示していない。」
※2014年12月に挿入した”忍耐強くなれる”を削除させ、代わりに労働市場とインフレ動向の回復次第との姿勢を強調。わざわざ4月利上げの可能性を打ち消すとともに、利上げ時期について合意したわけではないと注意を促し6月利上げ観測をけん制。
【票決結果】
反対票は1月に続きゼロ。2015年の地区連銀FOMC投票メンバーはアトランタ連銀のロックハート総裁、シカゴ連銀のエバンス総裁、リッチモンド連銀のラッカー総裁、サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁となる。2014年は7月以降、9月、10月、12月と4回連続で反対票が投じられていた。
経済見通し改訂版は、成長見通しを2015−16年にわたって下方修正しました。利上げの逆風を見込んでいるためか、今年を含む向こう3年間は3%成長がお預けとなる見通しです。インフレ見通しも、ドル高・原油安を背景にPCEインフレおよびコアを下方修正。一方で失業率は米2月失業率が5.5%に到達したこともあって一段の改善を予想しており、引き続き二大統治目標の進展にかい離がみられます。
第1弾の利上げ時期の予想時期については、年内を予想するメンバーが前回に続き17人でした。フィラデルフィア連銀のプロッサー前総裁、本日のFOMC翌日退任を控えるダラス連銀のフィッシャー総裁の代わりに見通しを提出した参加者がいたようです。全体的に前回より利上げ見通しを巻き戻しており、年内に2回以上の利上げを織り込むメンバーは7人と前回の13名から減少しました。
FF金利誘導目標は、2015年の平均値が0.772%となり前回の1.125%を大きく下回りました。2016年の平均値も2.022%と、前回の2.537%から低下したように全体的に下方修正されています。2015年の中央値は、前回の1.125%から0.625%へ低下。2016年の中央値も従来の2.50%を大きく下回り、1.875%でした。FF金利見通しを下振れさせたため、目盛り上限は前回の6%から5%へ引き下げられています。
3月分のFF金利ドット見通しは、こちら。
2014年12月分は、こちら。
イエレンFRB議長の記者会見で、ポイントは以下の通り。
1)4月に利上げは実施しないが、それ以降の可能性は6月を含め排除しない
2)「忍耐強くなれる」の削除は「忍耐強くない」という意味ではない
3)ドル高は輸出競争力を削ぎインフレを押し下げる一方、2015年GDPは潜在成長率を上回るペースを達成へ
4)バブル懸念をめぐり、セクター動向について発言を控える
6月利上げの可能性を残しつつ、「忍耐強くなれる」を削除した後にすぐ利上げに着手するわけではないとの認識を強調していました。翻ってFF金利見通しのドットをみると、0.625%以下つまり1回の利上げを見込むメンバーが10名と多数派だったということは、6月に利上げを見送る可能性を示唆しています。2014年7月の旧ハンフリー・ホーキンス証言と打って変わってバブル懸念をめぐってソーシャルメディアやバイオテクノロジー関連の言及を回避させた点は、米株一段高に大いに貢献したことでしょう。
モルガン・スタンレーのエレン・ゼントナー米エコノミストは、ハト派寄りだった声明文公表直後に「マーケットは6月利上げ織り込み度を10%まで低下させた」と指摘。声明文で経済活動の文言を”堅調なペース”から”いく分、緩やかになった”へ下方修正した理由として、西海岸の港湾労働者ストライキといった一時的要因のほか「エネルギー投資の削減、上昇する貯蓄率、ドル高」を挙げました。特にドルは名目貿易加重平均で主要通貨に対し「2014年半ばから22%上昇しており、シカゴ連銀の国内金融動向指数を2.3%押し上げ金融引き締め効果を与えた」といいます。2014年12月以降、20カ国・地域の中央銀行が緩和策を決定しドル高を煽ったため、Fedとしてもドル高の余波を無視できなくなったのでしょう。さらにドルはインフレ下方圧力を加えることもあり、同エコノミストは「年内の利上げを見送る予想で据え置く」とまとめていました。
FOMC声明文、経済・金利見通し、イエレンFRB議長の記者会見が米株に強気要因だったため、ダウ平均は200ドルを超える上昇幅を遂げ約2週間ぶりに18000ドル台へ乗せて引けました。米10年債利回りも低下しています。ロイターによると、10月織り込み度が67%へ上昇。声明文の発表前には傾いていた9月から、利上げ観測の後ろ倒しを示唆していました。おかげでドル全面安の展開を迎え、ユーロドルは1.10ドル台を回復。ドル円も120円を割り込んでしまい、ドル強気派だけが涙を飲む結果に終わりました。
(文中、カバー写真:FRB)
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