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ベージュブック、ドル高のほか懸念材料に中国の景気減速が加わる

by • September 2, 2015 • Finance, Latest NewsComments Off2252

Beige Book Shows Negative Effects From Strong Dollar And China.

米連邦準備制度理事会(FRB)が2日に公表したベージュブック(7月初めまで8月半ばまでカバー)は、夏本番に経済活動が堅調な成長軌道をたどっていることを確認しました。ボストン連銀がまとめた今回のベージュブックでは、「経済が拡大し続けた(continued to expanded)」と総括。概して前回とほぼ変わらず。2014年12月、2015年1月、3月、4月、6月、7月に公表した分の表現でほぼ据え置きつつ、ドル高の悪影響は前回より数多く確認できます。また、地区連銀からの報告では中国の景気減速をめぐる文言が増えました。

今回は6地区連銀(ボストン連銀、シカゴ連銀、セントルイス連銀、ミネアポリス連銀、リッチモンド連銀、サンフランシスコ連銀)が経済拡大ペースにつき「緩やか(moderate)」と表現した一方で、ニューヨーク連銀をはじめフィラデルフィア連銀、アトランタ連銀、カンザスシティ連銀、ダラス連銀の5地区連銀は「控え目(modest)」でした。前回の3地区連銀から増加しています。クリーブランド連銀は「わずかな(slight)」ペースにとどまり、前回の「安定的(steady)」から下方修正。概して、各地区連銀は7月の流れを受け継いでおり、大部分のセクターでも足元の動向を維持する見通しを示しました。ただしカンザスシティ連銀では、「まちまち(mixed)」です。

製造業活動は「全般的に前向き(mostly positive)」で、前回の「まだら模様(uneven)」から上方修正しています。10地区連銀が「安定的あるいは前向き(stable or positive)」と報告し、NY連銀とカンザスシティ連銀のみ「低下(decline)」を指摘しました。ただしクリーブランド連銀、セントルイス連銀、ミネアポリス連銀、ダラス連銀は「いく分まちまち(somewhat mixed)」な様相だったといいます。自動車、民間航空機を中心とした航空宇宙は力強さをみせ、建設活動で需要拡大を報告。一方で原油安を背景にクリーブランド連銀やリッチモンド連銀では機械、シカゴ連銀とセントルイス連銀からは金属の需要が低下したといいます。クリーブランド連銀、シカゴ連銀、セントルイス連銀の3地区連銀は、安価な輸入品の影響で鉄鋼需要が落ち込み稼働率の低下につながったと報告。ドル高に加え、アジア経済の減速を理由に挙げていました。またこの3地区連銀は、中国の景気減速を一因に挙げ、サンフランシスコ連銀は木材、ボストン連銀は化学、ダラス連銀はハイテク製品の需要低下を指摘しています。

ドル高をめぐるネガティブ要因として、7地区連銀から以下のような報告が上がっていました。前回の3地区連銀を大幅に上回っています。

・ボストン連銀「人材派遣の一部はドル高、中国経済、株価の影響に懸念」
・NY連銀「2社の一般小売がドル高の影響で売上が予想以下、カナダ観光客の支出を抑制したとも指摘」
・フィラデルフィア連銀「製造業の一部が、ドル高での業績圧迫を報告」
・クリーブランド連銀「ドル高、エネルギー部門の減速、農業機材の需要低下で生産縮小」、「鉄鋼はドル高で競争力低下」
・リッチモンド連銀「ドル高で輸出製造業者に困難」
・ミネアポリス連銀「カナダの観光客の支出がドル高で減少」
・ダラス連銀「ドル高で化学製品の輸入が増加、ドル高の影響で石油化学の輸出が減少」

中国というキーフレーズが登場した回数は前回はゼロだったところ、今回は11回で地区連銀別の内容は以下の通り。ボストン連銀に集中しています。

・ボストン連銀「多くの業者が中国動向に言及、ただ影響は現状で控え目」、「中国での建設活動が明らかに鈍化」、「中国需要のおかげで、バイオテクノロジーの一社は売上が予想以上になったと指摘」「中国における建築機器の需要低下が米国で操業に影響を与えコスト抑制を招く見通し」、「化学部門は中国の需要鈍化で仕入れ価格を縮小」、「ソフトウェアの一社は中国需要の弱まりとドル高を受けて前期比および前年比で売上減少を報告」
・ダラス連銀「原油安と中国動向を背景に、前回からローン需要見通しは慎重寄りに」

中国の景気減速、ボストン連銀が統括する地区(マサチューセッツ州コネチカット州の一部、ニュー・ハンプシャー州、ロード・アイランド州、バーモント州)を直撃。
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(出所:Achim Fischer/Flickr)

消費動向をめぐっては、ダイジェスト版ではほとんどの地区連銀で販売と売上が「拡大し続けた(continued to expand)」とまとめました。ただし項目別の詳述では「まちまち(varied)」の表現に変わり、リッチモンド連銀で「急激に増加(sharply rose)だった半面、フィラデルフィア連銀、シカゴ連銀、カンザスシティ連銀、サンフランシスコ連銀では「緩やか(moderate)」にとどまったといいます。セントルイス連銀は、「前年比通りあるいは小幅増加(were at or above 2014 levels)だったものの、多くで予想以下だったとの声も上がっていました。ボストン連銀とアトランタ連銀は「まちまち(mixed)」で、クリーブランド連銀は「横ばい、および前年比以下(flat over the survey period and lower compared to a year ago)」、ダラス連銀は「前年比で減少(decreased year-over-year sales)」。ドル高を受けダラス連銀はメキシコ国境付近で、ニューヨーク連銀とミネアポリス連銀はカナダ国境付近での利上げに悪影響を与えたといいます。フィラデルフィア連銀、クリーブランド連銀、アトランタ連銀、セントルイス連銀、カンザスシティ連銀は小売売上高の見通しに「楽観的(optimistic)」で、数ヵ月先の動向は「横ばい、あるいは改善(stay on pace or improve)」を予想。ダラス連銀はまちまちで、7−9月期の売上予想を小幅あるいは横ばいにとどめていました。

ほとんどの地区連銀は、労働市場での需要をめぐり「控え目から緩やか(modest to moderate)」な伸びを報告しました。もっともボストン連銀、クリーブランド連銀、ダラス連銀は「わずか(slight)」にとどまっています。労働市場のひっ迫を受け、賃金動向はほとんどの地区連銀で「わずかながら上昇(up slightly)」し、特にNY連銀をはじめクリーブランド連銀、セントルイス連銀、サンフランシスコ連銀で顕著に。足元で最も改善を示します。販売価格は全般的に「安定的、あるいはわずかに上昇(stable or up only slightly)」した程度でした。

エネルギー産業の環境は「安定的から低下(stable to decline)」を示し、石炭生産はリッチモンド連銀とセントルイス連銀で「減少(down)」しています。前回に続きクリーブランド連銀やダラス連銀のほか、セントルイス連銀やクリーブランド連銀では活動が「低下(decline)」。前回と変わらず、4地区連銀で石油生産活動に後退がみられました。

農業は、全般に「まちまち(mixed)」。コーンと大豆の収穫量こそ増加が期待できるものの、セントルイス連銀やカンザスシティ連銀では「悪化(deteriorated)」したといいます。サンフランシスコ連銀では引き続き干ばつが懸念材料で、アトランタ連銀やミネアポリス連銀でも影響が意識されていました。

今回、サマリー部分で使用されたキーワードの登場回数(同じ単語の変化形を含む)は以下の通り。

「増加した(increase)」 →35回、前回は31回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→13回、前回は13回
「緩やか(moderate)」 →12回、前回は7回
「穏やか(modest)」→12回、前回は9回
「弱い(weak)」→4回、前回は5回
「底堅い(solid)」→1回、前回は3回
「安定的(stable)」→8回、前回は4回

BNPパリバのデレク・リンゼー米エコノミストは、住宅市場の活況ぶりや賃金の表現の上方修正を評価しました。ただ今回の内容が8月24日までとあって「マーケットのボラティリティを反映していない」との指摘も忘れません。ドル高、原油安再燃に加え世界同時株安という衝撃が加わっただけに、今回のベージュブックだけをみると9月16−17日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを決断するには情報不足な点は否めず。12月利上げ派や9月利上げ警戒派に安心感を与えたことでしょう。米株がベージュブック後に上げ幅を拡大し、3指数そろって調整入りから脱却したはずですね。

(カバー写真:Charley/Flickr)

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