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米12月雇用統計、労働参加率改善で平均時給の伸び減速

by • January 6, 2023 • Finance, Latest NewsComments Off2455

Jobs Growth Remained Solid, But Wage Growth Continued To Slow In December.

<本稿のサマリー>

米12月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は予想以上に力強い伸びだったものの、2021年1月からの増加トレンドで最も小幅なペースでした。また、前月に続きNFPの増加のうち約半分を娯楽・宿泊に含まれる食品サービスが占めています。その他に懸念材料として、労働市場の実体を表す先行指標とされる派遣が5カ月連続で減少していました。家計調査の就業者数は3カ月ぶりに増加。ただし、家計調査での雇用形態別ではパートタイムと複数の職を持つ者がけん引しており、フルタイムは若干ながら減少に転じました。

失業率は下方修正された前月の3.6%から、3.5%と2020年2月以来の低水準に並びました。労働参加率が62.3%と前月の62.2%から上昇したものの、失業者の減少が失業率の低下を促した格好です。自発的な離職者数は3カ月連続で減少。就業者が労働市場に戻ってくる過程で、平均時給は前年同月比で4.6%と前月の下方修正と合わせ減速、賃上げ圧力の減退を確認しました。

マーケットは平均時給の減速に反応。米10年債利回りは3.7%台から一時3.56%へ急低下し、ドル円も一時134円付近から132.30円台へ押し戻さされました。ちょうど、「複数の関係者によれば、日銀はイールド・カーブ・コントロールの再修正に急がず」との報道で22年12月29~30日に下落した部分を相殺した経緯もあって、下振れした格好です。米株相場はというと、ダウは一時400ドル以上の上げ幅を記録しました。

チャート:ドル円(ローソク足)、米10年債利回り(緑線)ともにいってこいの展開

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(出所:Tradeview)

米金利低下、ドル安、米株高が示すように、Fedの引き締め継続懸念は後退しています。FF先物市場によれば、1月31~2月1日開催のFOMCで25bp。3月21~22日開催のFOMCで追加で25bp引き上げ4.75~5.0%に設定した後で打ち止め予想が優勢に。11月には利下げ転換、12月には追加利下げが見込まれる状況に戻りました。

チャート:FF先物市場では、引き続きターミナル・レート見通しは5%。

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(作成:My Big Apple NY)

米12月雇用統計のポイントは、以下の通り。

(労働市場にポジティブ)

・NFPは堅調なペースで増加
・失業率は2020年2月以来の低水準に並ぶ
・労働参加率は改善
・就業率は2020年2月以来の高水準に並ぶ
・不完全就業率は過去最低を更新
・長期失業者の割合が低下

(労働市場にネガティブ/ニュートラル)

・NFPの増加、47%は娯楽・宿泊に含まれる食品サービスが占める
・過去2ヵ月分のNFPが下方修正
・労働市場の先行指標とされる派遣、5カ月連続で減少
・平均時給、前年同月比の伸びが減速(インフレ抑制の観点ではポジティブも、購買力の観点でネガティブ)
・フルタイムの労働者が若干ながら減少
・週当たり労働時間が短縮

米12月雇用統計の詳細は、以下の通り。

米12月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比22.3万人増となり、市場予想の20.0万人増を上回った。ただ、前月の25.6万人増(26.3万人増から上方修正)に届かず、2021年1月以降で同年3月に続き最も小幅な伸びに。とはいえ、2019年平均の16.4万人増を超え堅調なペースを維持した。

2022年10月分の2.1万人の下方修正(28.4万人増→26.3万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で2.8万人の下方修正となった。直近の3ヵ月平均は24.7万人増となった。経済正常化に合わせ雇用の伸びが落ち着き、2021年平均の56.2万人増を7ヵ月連続で下回った。

チャート:2022年は約450万人の雇用を創出

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(作成:My Big Apple NY)

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比22.0万人増と市場予想の18.0万人増を上回った。前月の20.2万人増(22.1万人増から下方修正)を含め、24ヵ月連続で増加した。民間サービス業は18.0万人増、前月の17.5万人増(18.4万人増から下方修正)を下回った。

チャート:NFPは堅調なペース維持も2021年以降で最も低い伸びに並び、失業率は3.5%へ低下

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(作成:My Big Apple NY)

サービス部門のセクター別動向は、11業種中で9業種が増加し前月の速報値ベースの7業種から増加した。今回最も雇用が増加した業種は前月2位だった教育/健康、2位は前月トップだった娯楽/宿泊、3位は3位は政府だった。一方で、22年10月までトップ3の常連だった専門サービスの雇用の伸びは下方修正された前月に続き2カ月連続で減少。専門サービスに含まれる派遣が、雇用の減速を示唆するかのように5カ月連続で減少していた。その他、情報が減少した。

(サービスの主な内訳)

―増加した業種

・教育/健康 7.8万人増、32ヵ月連続で増加<前月は8.9万人増、6ヵ月平均は9.0万人増(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は7.4万人増、18ヵ月連続で増加<前月は7.7万人増、6ヵ月平均は7.3万人増)
・娯楽/宿泊 6.7万人増、24ヵ月連続で増加<前月は6.8万人増、6ヵ月平均は7.9万人増(そのうち食品サービスは11.0万人増>前月は10.3万人増、6ヵ月平均は9.3万人増)
・その他サービス 1.4万人増、6ヵ月連続で増加<前月は1.6万人増、6ヵ月平均は2.2万人増

・卸売 1.2万人増>前月は1.0万人増、6ヵ月平均は0.1万人減
・小売 0.9万人増、4カ月ぶりに増加>前月は0.1万人減、6ヵ月平均は1.7万人減
・金融 0.5万人増、18ヵ月連続で増加<前月は0.8万人増、6ヵ月平均は1.1万人増

・輸送/倉庫 0.5万人増、5カ月ぶりに増加>前月は0.4万人減、6ヵ月平均は2.2万人減
・政府 0.3万人増、6カ月連続で増加<前月は4.4万人増、6ヵ月平均は5.4万人増
・公益 0.2万人増>前月は0.1万人増、6ヵ月平均は0.1万人減

―横ばいの業種

なし

―減少した業種

・情報 0.5万人減、20年7月以来の減少<前月は0.9万人増、6ヵ月平均は2.2万人増
・専門サービス 0.6万人減、20ヵ月ぶりに減少<前月は2.3万人増、6ヵ月平均は0.8万人減(そのうち派遣は3.5万人減、5カ月連続で減少<前月は1.6万人減、6ヵ月平均は3.0万人減)

財生産業は前月比4.0万人増と前月の4.0万人増(修正値)を上回り、20ヵ月連続で増加した。業種別をみると、製造業が20ヵ月連続で増加したほか、建設は8ヵ月連続で増加。油価が景気後退懸念で80ドル割れを迎えつつ、鉱業・伐採は4カ月連続で増加した。詳細は、以下の通り。

(財生産業の内訳)

・建設 2.0万人増、7ヵ月連続で増加>前月は0.9万人増、6ヵ月平均は1.5万人増
・製造業 1.4万人増、19ヵ月連続で増加<前月は3.6万人増、6ヵ月平均は2.8万人増
・鉱業/伐採 0.3万人増(石油・ガス採掘は100人増)>前月は0.2万人増、6ヵ月平均は0.3万人増

チャート:セクター別、就労者の増減

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:20年2月との比較、民間サービス部門は前月の1.1%増→1.3%増と7ヵ月連続でプラス圏をたどると共に上げ幅を広げた。11業種中、7業種が当時の水準を超えた。今回、22年9月に初めて増加に転じた教育・健康が1.1%増と前月の0.7%増を上回った。そのほか、22年8月にプラスに転じた卸売(0.6%増、5カ月連続)、輸送・倉庫(11.9%増、27ヵ月連続)、専門サービス(4.8%増、15ヵ月連続)、情報(5.4%増、13ヵ月連続)、小売(1.2%増、12ヵ月連続)、金融(1.4%増、11ヵ月連続)となる。ただし、7業種中で専門サービス、情報が前月比で伸びが鈍化し、輸送・倉庫は前月と同じ伸びだった。

財部門は前月の1.2%増と、前月の1.0%増を超え6ヵ月連続でプラス圏を守った。建設(2.0%増)が8ヵ月連続でプラスとなっただけでなく、製造業(1.2%増)も7ヵ月連続で増加。建設と製造業そろってプラス圏を回復してから最も力強い伸びとなった。鉱業・伐採は6.1%減、20年2月以降で最も小幅な下げだった。

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(作成:My Big Apple NY)

平均時給は前月比0.3%上昇の32.82ド ル(約4,380円)と、市場予想の0.4%を下回った。前月の0.4%(0.6%から下方修正)を超え、23ヵ月連続で上昇している。前年同月比は4.6%上昇し、市場予想の5.0%を下回った。前月の4.8%(5.1%から下方修正)以下となり、2021年8月以来の低い伸びにとどまった。生産労働者・非管理職の前年同月比は5.0%上昇、前月の5.5%(修正値)を下回り、2021年6月以来の5%割れが迫った。労働参加率の改善や景気減速に合わせ、賃上げ圧力が後退した可能性を示唆した。

チャート:平均時給は、生産労働者・非管理職の前年同月比でピークアウト感が漂う

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(作成:My Big Apple NY)

週当たりの平均労働時間は34.3 時間、前月の34.4時間を下回りコロナ禍で経済活動が停止した2020年4月以来の低水準だった。複数の職を持つ者が増加したことが一因とみられる(後述)。2006年以来の最長を記録した2021年1月の35時間を下回り続けた格好だ。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は39.7時間と、コロナ禍で最長となった2月の40.4時間以下が続いただけでなく、前月の40時間を下回り、2020年7月以来の低水準が続いた。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは2カ月連続で33.3時間と、前月の33.4時間を下回り2020年3月の低水準に並んだ。雇用主が従業員の確保を狙い、就業時間の柔軟性を与えていることが一因と考えられよう。2006年以降で最長を記録した21年5月の33.9時間以下が続く。

チャート:週当たり平均労働時間は、短縮傾向が続く

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(作成:My Big Apple NY)

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数の伸びが前月以下だったほか、週当たり労働時間が小幅ながら短縮したため、前月比0.1%減と2カ月連続でマイナスだった。平均時給の伸びが鈍化したが、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比0.2%増と増加トレンドを維持した。

失業率は3.5%と、市場予想の3,7%及び前月の3.6%(3.7%から下方修正)を下回り2020年2月以来の低水準に並んだ。失業者が27.8万人減と2カ月連続で減少。自発的離職者数も3カ月連続で減少した(ただし、失業者の割合は失業者の減少を受けて上昇)。

チャート:自発的離職者数は前月比0.5%減の82.5万人と、3カ月連続で減少した。ただし、失業者が減少したため失業者に占める自発的離職者数の割合は14.4%と、前月の13.9%から低下した。

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(作成:My Big Apple NY)

労働参加率は62.3%、前月の62.2%(62.1%から上方修正)を上回った。なお、コロナ感染拡大直前の20年2月は63.4%である。労働力人口は前月比43.9万人増と、前月の減少を打ち消した。

就業率は60.1%と前月の59.9%を上回り、2020年2月以来の高水準に並んだ。ただし、コロナ感染拡大直前にあたる20年2月の61.2%に距離を残す。

足元、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就労者数の乖離が続くが、今回はNFPが22.3万人増に対し、家計調査の就労者数は71.7万人増だった。過去2カ月に反し、NFPを大幅に上回った。

チャート:家計調査の就労者数はNFPを大幅に上回る

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(作成:My Big Apple NY)

家計調査の就労者数を雇用形態別でみると、パートタイムが増加を牽引したほか、複数の職を持つ者も引き続き寄与した。一方で、フルタイムも若干ながら減少した。複数の職を持つ者は過去7カ月間で5回目の増加、フルタイムは過去6カ月間で3回目の減少に。パートタイムは過去6カ月間で4回目の増加となる。

チャート:パートタイムと複数の職を持つ者が増加、肝心のフルタイムは減少傾向続く

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:複数の職を持つ労働者、コロナ以前の20年2月以来の高水準

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(作成:My Big Apple NY)

なぜ、パートタイムの雇用が増加したにも関わらず、NFPでは家計調査の就業者と比較して伸びが限定的だったのか。その理由は、回答率の差に表れている。米労働統計局によれば、コロナ禍の影響もあってCESつまりNFPや平均時給を含む調査の回答率は10月時点で44.8%とコロナ感染拡大直前の60%から急低下した一方で、家計調査のCPSは72.2%とコロナ前の82%を下回ったものの、CESほど落ち込んでいなかった。回答率の差を踏まえると、CESの調査対象においてパートタイムの雇用増加が小幅だったと考えられよう。

チャート:各調査ごとの回答率は低下の一途をたどり、JOLTS(求人件数を含む)は30.4%まで低下

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(作成:My Big Apple NY)

かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全就業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。

1)不完全就業率 採点-〇
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全就業率は6.5%と、1994年の統計開始以来で最低を更新した。22年6~7、9、11月の6.7%から一段と低下した。

2)労働参加率 採点-〇
労働参加率は62.3%と、前月の62.2%から上昇し3カ月ぶりの水準を回復。20年3月以来の高水準だった22年8月の62.4%に接近した。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。

チャート:不完全就業率は過去最低水準から上昇、労働参加率と就業率は改善

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(作成:My Big Apple NY)

3)長期失業者 採点-△
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は8.9週と前月の8.8週から延びた。一方で、27週以上にわたる失業者の割合は18.5%と、前月の20.3%を下回り2020年8月以来の低水準だった。

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は、2020年8月以来の低水準

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(作成:My Big Apple NY)

4)賃金 採点-×(インフレ抑制の観点では〇)
今回は前月比0.3%上昇し、前月の0.4%を下回った。前年比は4.6%と2021年8月以来の低い伸びだった。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.2%。前年比は5.0%上昇し、21年6月以来の5%割れが迫った。

(カバー写真:astrid westvang/Flickr)

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