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米12月雇用統計、雇用回復を主導してきたヒスパニック系の失業率が上昇

by • January 9, 2023 • Finance, Latest NewsComments Off2190

U.S. Unemployment Rate Fell In December, But Rose For Hispanics.

米12月雇用統計・NFPはこちらで紹介しましたように市場予想を上回った一方で、労働参加率が上昇し失業率が2020年2月以来の水準へ低下するなか、平均時給が減速しました。

家計調査での就業者数は大幅増でしたが、パートタイムと複数の職を持つ者がけん引し、フルタイムは若干ながら減少。肝心のNFPの増加分をみても、娯楽・宿泊に含まれる食品サービスが47%だった上、労働市場の実体を表す先行指標とされる派遣は5カ月連続で減少していました。

チャート:派遣が5カ月連続で減少

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(作成:My Big Apple NY)

では、業種別や性別や人種、学歴などではどうなったのか、詳細は以下の通りです。

〇業種別、生産労働者・非管理職部門の平均時給

生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比0.2%上昇し、前月の0.4%(0.7%から下方修正)を下回った。前年同月比は5.0%と、前月の5.5%(5.8%から下方修正)に届かず、2021年6月以来の5%割れが迫った。

業種別を前月比でみると、同部門の平均時給の伸び0.2%以上だったのは13業種中で9業種と、前月の速報値時点の5業種を上回った。今回の1位は鉱業・伐採(2.2%上昇)、続いて卸売と娯楽・宿泊(0.7%上昇)、金融と建設(0.5%上昇)、公益、製造業、それからNFPで雇用が減少した専門サービス(0.3%上昇)と情報(0.2%上昇)だった。一方で、輸送・倉庫は0.8%下落し全体を押し下げた。

チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額

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(作成:My Big Apple NY)

なお、前回指摘したように平均時給は解雇手当を含むため、雇用が減少する業種で賃金を押し上げる場合がある。

〇労働参加率

労働参加率は62.3%と、前月の62.2%を上回り3カ月ぶりの水準を回復。2020年3月以来の水準となる62.4%へ一歩近づいた。働き盛りの男性(25~54歳)も全米と白人男性そろって改善した。以下は全米男性が季節調整済みで、白人は季節調整前となる。

・25~54歳 88.5%>前月は88.4%と4カ月ぶりの低水準に並ぶ、20年2月は89.1%
・25~54歳(白人) 89.7%>前月は89.4%と3月ぶりの低水準、22年3月は90.0%と20年3月(90.3%)以来の高水準、20年2月は90.6%
・25~34歳 88.5%>前月は88.2%と11カ月ぶりの低水準、22年4月は89.5%と19年11月以来の高水準
・25~34歳(白人) 89.5%>前月は89.2%、22年10月は90.4%と22年3月の90.5%に次ぐ高水準、20年2月は90.7%

チャート:働き盛りの男性、25~34歳は4ヵ月連続で低下

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(作成:My Big Apple NY)

働き盛りの女性(25~54歳)は、25~54歳が上昇も25~34歳は低下した。

・25~54歳 76.4%>前月は76.3%、22年8月は77.2%と2004年4月(76.8%)以来の高水準
・25~34歳 77.1%<前月は77.8%、22年8月は78.6%と過去最高

65歳以上の高齢者の労働参加率は、男性が上昇も女性は横ばいだった。

・男性 23.6%>前月は23.5%と4カ月ぶりの低水準、22年10月は24.3%と2月と並び20年2月(25.2%)以来の水準を回復
・女性 15.7%=前月は15.7%、22年10月は16.1%と2020年3月と同水準

〇縁辺労働者

縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は、労働参加率が上昇したように前月比6.4%減の517.6万人(男性は234.9万人、女性は282.7万人)と、男女含め3カ月連続で減少した。男性が同8.6%減と著しく落ち込み、女性は4.4%減だった。

チャート:職を望む非労働力人口、男性が減少し女性が増加

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(作成:My Big Apple NY)

〇病気が理由で働けなかった人々

22年11月は病気が理由で働けなかった人々が前月比26.5万人増の1,596万人だったが、今回は同8.7万人減と小幅に減少しつつ1,509万人とコロナ禍以降の平均を保った。

チャート:病気が理由で働けなかった人々は高水準を維持したが、労働参加率は改善

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(作成:My Big Apple NY)

〇男女別の労働参加率と失業率

男女別の労働参加率は、まちまち。男性は4カ月連続で68.1%と20年3月(68.5%)以来の高水準を保った。女性は56.8%と2021年12月以来の水準へ低下した前月の56.5%から回復、ただし20年3月の水準に並んだ22年8月の57.1%以下が続いた。

チャート:男女別、労働参加率、直近は女性の低下が顕著に

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(作成:My Big Apple NY)

男女の失業率は、まちまち。労働参加率が横ばいだった男性は22年10~11月の3.7%から3.4%へ低下し1970年1月以来の低水準だった。一方で、女性は労働参加率の上昇を一因に前月と変わらず3.6%だった。なお、女性は9月に3.4%と20年2月の水準に並んでいた。

〇男女別の就業者、20年2月比

人種・男女別の就業者数を20年2月比でみると、引き続き黒人男性を始めヒスパニック系男性、ヒスパニック系女性がプラスだった。黒人男性は前月の7.2%増→8.0%増と再び上げ幅を拡大した。ヒスパニック系女性も前月の4.5%増→5.2%増とプラス圏を回復して以来最大の伸びに。一方で、22年11月に続き、ヒスパニック系男性は前月の4.4%→4.3%と伸びを縮めた。

一方で、マイナス圏をたどるカテゴリーのうち、白人男性(前月は0.7%減→0.5%減)は5カ月連続でマイナスだったが下げ幅を縮小、白人女性(前月は3.0%減→2.7%減)も、マイナス幅を狭めた。ただし、黒人女性のみ前月の1.2%減→1.3%減と弱まり、8カ月連続でマイナスだった。。

チャート:男女・人種別の就業者数、20年2月との比較

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(作成:My Big Apple NY)

〇人種別の労働参加率、失業率

人種別の動向を紐解く前に、人種別の大卒以上の割合を確認する。2010年と2016年の比較では、こちらの通りアジア系が突出するほか、白人が全米を上回る一方で、黒人とヒスパニック系は全米を大きく下回っていた。

人種別の労働参加率は、アジア系以外は上昇した。特に白人は前月比0.3%ポイント、ヒスパニック系は0.6%ポイントもの大幅上昇となった。

・白人 62.1%>前月は61.8%、22年3月は62.3%と2020年3月(62.6%)以来の水準を回復、20年2月は63.2%
・黒人 62.4%、20年2月(63.2%)以来の高水準>前月は62.3%
・ヒスパニック系 66.3%、4カ月ぶりの水準を回復>前月は65.7%、20年3月は67%、20年2月は68.0%
・アジア系 64.2%<64.8%、22年8月は65.3%と19年10月以来の高水準に並ぶ
・全米 62.3%>前月は62.2%、22年3月は62.4%と2020年3月(62.7%)以来の水準を回復、20年2月は63.3%

チャート:人種別の労働参加率、アジア系以外は上昇し特にヒスパニック系が上振れ

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(作成:My Big Apple NY)

人種別の失業率は、白人とアジア系で低下するなどまちまちだった。白人は労働参加率が改善するなかで20年3月以来の水準に低下したほか、アジア系は労働参加率の低下につれ19年6月以来の低水準に。労働参加率が上昇した黒人は横ばい、ヒスパニック系は上昇した。

・白人 3.0%、20年2月(3.0%)以来の低水準<前月は3.3%
・黒人 5.7%、19年11月以来の低水準に並ぶ=前月は5.7%
・ヒスパニック系 4.1%>前月は4.0%、22年9月は3.9%とデータが公表された1973年以来の低水準
・アジア系 2.4%、19年6月以来の低水準に並ぶ<前月は2.7%
・全米 3.5%、20年2月の水準に並ぶ<前月は3.6%

チャート:人種別の失業率、全米と白人以外は低下

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(作成:My Big Apple NY)

白人と黒人の失業率格差は拡大。白人の失業率が低下したものの黒人が横ばいだったため、失業率格差は20年4月以来の低水準に並んだ前月の2.5ポイントから2.7ポイントへ切り返した。引き続き、トランプ前政権で記録した19年8月の1.9ポイント超えの水準を保つ。

〇学歴別の労働参加率、失業率

学歴別の労働参加率は、中卒以外で上昇した。

・中卒以下 45.6%、5カ月ぶりの低水準を維持=前月は45.6%、2月(46.8%)は20年2月(47.8%)以来の高水準
・高卒 56.2%、4カ月ぶりの水準を回復>前月は55.7%と11カ月ぶりの低水準、22年1月は57.2%と20年2月(58.3%)以来の水準を回復
・大卒以上 72.7%>前月は72.5%と10カ月ぶりの低水準、22年5月は73.3%と20年1月以来の高水準
・全米 62.3%、3カ月ぶりの水準を回復>前月は62.2%、22年3月は62.4%と2020年3月(62.7%)以来の水準を回復、20年2月は63.3%

学歴別の失業率は、中卒以外で低下。労働参加率が横ばいだった中卒のみ上昇した一方、高卒、大卒、大学院卒は労働参加率が上昇したにも関わらず、失業率は低下した。

・中卒以下 5.0%>前月は4.4%と1992年のデータ公表開始以来で最低
・高卒 3.6%、19年9月の低水準に並ぶ<前月は3.9%
・大卒 1.9%<前月は2.0%、22年9月は1.8%と07年3月以来の低水準に並ぶ
・大学院卒以上 1.3%、21年12月以来の低水準(当時は1.2%と1992年1月の統計開始以来で最低)<前月は1.7%、
・全米 3.5%、20年2月の低水準に並ぶ<前月は3.6%

チャート:失業率は中卒以下を始め、全て上昇

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(作成:My Big Apple NY)

--今回の雇用統計の詳細のポイントは、以下の通り。

生産労働者・非管理部門の平均時給の上昇ペースは鈍化、労働参加率の上昇と米景気減速を一因に売り手市場から買い手市場へのシフトを示唆か。NFPで減少した専門サービスと情報は解雇手当を含むため前月比で増加した可能性を残す。

②働き盛りとされる25~54歳の労働参加率は男性で上昇も女性はまちまち。ただし、男女別でみると労働参加率は男性で横ばいも女性が上昇失業率は労働参加率が横ばいだった男性で低下も女性は変わらず。22年12月時点で、企業は女性より男性を採用するケースが多かったもよう。

病気で働けなかった人々はコロナ禍以降の平均を維持したが、労働参加率は前月と打って変わって改善。貯蓄率が2005年以来の水準まで低下しており、病気の家族を抱える世帯などが働く必要が生じたケースが増加か。

人種別では労働参加率の上昇が著しいヒスパニック系で失業率が上昇したほか、黒人も労働参加率が上昇するなかで失業率は横ばい。しかし、白人は労働参加率が改善も失業率は低下した。コロナ禍で娯楽・宿泊など対面のサービス業を中心に雇用が回復する過程でヒスパニック系は20年2月比で最初にプラス圏を回復したが、その反動で雇用の伸び鈍化でも先陣を切りつつあるようだ。なお、米景気減速局面において就業率の低下幅は非白人が大きい傾向が見て取れる。2000年以降、白人の就業率がヒスパニック系を下回るのは、ベビーブーマー世代の引退が背景。

チャート:人種別の就業率、景気後退局面で最も大きな打撃を受けるのは黒人、続いてヒスパニック系

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(作成:My Big Apple NY)

学歴別では、中卒以外の労働参加率が上昇し失業率も改善。NFPでは娯楽・宿泊に含まれる食品サービスが増加分の約半分を占めたが、家計調査ではパートタイムや複数の職を持つ者が増加を牽引するなかで、ある程度のスキルを持つ労働者が職を得た様子が伺える。

米12月雇用統計をめぐり、J.P.モルガン・チェースのマイケル・フェローリ米国担当首席エコノミストは「1月31~2月1日のFOMCで利上げ幅を25bpに引き下げる上で十分な労働需要の鈍化を示した」と分析していました。逆に、バンク・オブ・アメリカのマイケル・ゲイピン米国担当首席エコノミストは「25bpへの縮小を決断するには十分ではなく、次回も50bp利上げを見込む」とコメントし、見方が分かれる状況。ただし、FF先物市場はこちらでお伝えしたように、次回FOMCでの25bp利上げを77.2%、3月21~22日FOMCでも25bpの利上げを66.2%とし、同水準でのピークアウトを織り込みます。

個人的には、労働参加率が改善したヒスパニック系で失業率が上昇し、黒人も失業率が横ばいにとどまった点が気掛かり。Fedは2020年8月に人種格差などの是正を盛り込む”広範にわたる包摂的”な雇用の最大化を掲げましたが、インフレ減速を継続的に確認した後で、ここに立ち返るのでしょうか。

(カバー写真:seligmanwaite/Flickr)

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