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Fedが「忍耐強くなれる」を維持するか否か、それが問題だ

by • March 16, 2015 • Finance, Latest NewsComments Off2162

To Be Patient Or Not, That Is The Question.

いよいよ今週の18日に、米連邦公開市場委員会(FOMC)声明文が公表されます。

マーケットの注目はもちろん、”忍耐強くなれる(patient)”のフォワード・ガイダンスが削除されるか否か。米2月雇用統計後、市場関係者の間ではこのキーワードを外し6月利上げへの準備を進めるとの予想に傾きました。FF金利先物動向では6月利上げ織り込み度が強まっただけでなく、年内1回ではなく複数回に及ぶ利上げシナリオを描き始めドル高・米金利上昇・米株安を招いたのはご周知の通りです。

あれから1週間以上が経過し、マーケットの風景は一変しています。米2月小売売上高をはじめ続々と発表された経済指標は軒並み弱含み、有力エコノミストの間では米1−3月期見通しの下方修正が相次ぎました。いま、エコノミストはFOMC声明文や経済・金利見通しをどのように予想しているのでしょうか。

JPモルガンのマイケル・フェローリ米主席エコノミスト

FOMC声明文では、フォワード・ガイダンス削除を議論していた1月FOMC議事録やイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長の議会証言で示唆したように、”(利上げに)忍耐強くなれる”との文言を削除するだろう。金融政策に柔軟性を与える狙いで外す代わりに、利上げの前提条件として経済指標次第とのスタンスを強調する見通し。インフレが目標値2%ヘ向かって上昇する見通しに”適度な安心感”を与えるまでは、利上げに踏み切らないといった文言を組み込むと考えられる。ドル高をめぐっては、純輸出が依然として変動が激しく方向性が現れていないため、前回同様「金融市場と海外の動向を考慮していく(readings on financial and international developments)」との表現を維持する見通しだ。

経済・金利見通しでは、ドル高を中心としたネガティブ要因から2015−17年のGDP予想をそれぞれ2014年12月時点から平均0.2%ポイントずつ引き下げてくるだろう。インフレ見通しも、下方修正されると見込む。FF金利見通しも、引き下げてくるだろう。前回時点で17人中6人が2015年のFF金利予想を1.5%以上に掲げていた分、修正が入ってもおかしくない。2016−17年もインフレ見通し引き下げに合わせ、小幅に下方修正されよう。失業率は、小幅な改善を見込む。自然失業率(NAIRU)と成長率のトレンド下方修正に伴う調整の域にとどまる見通しだ。

イエレンFRB議長は、記者会見で”忍耐強くなれる”との文言削除イコール6月利上げにつながらないと強調してくるだろう。また利上げ開始時期より、正常化のペースが重要との姿勢を打ち出すと考えられ、金融環境次第で緩やかになると説明してくるのではないか。利上げサイクルは2004−06年当時の”慎重なペース(measured pace)”と表現したような25bpずつの断続的な道筋ではなく、1994−95年当時のように小休止を挟みつつ場合によっては50bpの利上げに踏み切るシナリオが考えられる。

BNPパリバ

FOMC声明文では、金融政策が経済指標であるという立場を全面に押し出してくるだろう。ただし、”忍耐強くなれる”との文言維持を予想している。ドル高がインフレ見通しに不透明性を与えているためだ。また消費から製造業まで広範にわたる経済指標で減速を確認しており、米1−3月期GDPは1.4%増にとどまる見通し。FOMC声明文の現況判断では”経済活動は堅調なペースで拡大している”との表現を維持すると考えているが、下方修正するのは米1−3月期GDP速報値を発表(4月29日に予定)してからでも遅くはない。

経済・金利見通しで失業率は改善方向へ修正されるものの、成長・インフレについては引き下げを予想する。2014年8月以降、実質貿易加重平均でドルが10%以上も上昇し対ユーロでは2014年12月から約15%も上昇した結果、GDPは2015年に少なくとも0.5%ポイント、2016年には0.4%ポイント押し下げられる見通しで、ガソリン価格の下落を背景に拡大した消費の伸びを相殺しかねない。インフレ見通しも、2015年は約0.2%ポイント引き下げるのではないか。失業率見通しは、現状維持を見込む。米2月雇用統計で失業率は5.5%であり、数字の上では完全雇用に近い状態だ。ただし、現状ではNAIRUを達成した状態で起こりうるインフレあるいは賃金上昇の兆しが見えていない。シカゴ連銀のエバンズ総裁は自身のNAIRUを引き下げたと言及していたが、FOMCメンバーが短期的にNAIRUを大きく下方修正させるとは考えられず、失業率見通しは微調整にとどまるだろう。

FF金利見通しは、下方修正を見込む。注意すべきは、2016年と2017年の予想。利上げ時期を遅らせれば、利上げ幅の拡大もありうる。当方は、第1弾利上げが9月になるとの予想を維持する。

BNPパリバはドル高を重視し、文言維持を予想。
bnp
(出所:BNP Paribas)

モルガン・スタンレーのエレン・ゼントナー米エコノミスト

FOMC声明文では、”忍耐強くなれる”との文言削除を予想する。1月FOMC議事録やイエレンFRB議長の議会証言で文言削除が早期利上げを意味するものではないと注意を促していた。今回の声明文では、あくまで金融政策は経済指標次第との姿勢を強く反映させるだろう。フィッシャーFRB副議長が2月27日に「年内のある時点」に利上げする可能性に言及したこととも、整合的だ。我々は2016年初めの利上げを予想するが、こうした見通しはFedと同じく経済指標、すなわちコアPCEや賃金などの動向次第である。

経済・金利見通しのうち、GDP予想は前回とほぼ変えてこないだろう。FF金利見通しは、下方修正を予想する。タカ派の急先鋒だったフィラデルフィア連銀のプロッサー総裁が3月1日に退任し、同じくタカ派寄りで19日に退任するダラス連銀のフィッシャー総裁は出席を見送るためだ。見通しを発表するFOMCメンバーは、前回の17名から15名に減少する公算。プロッサー前総裁の後任であるパトリック・ハーカー新総裁は7月1日に就任予定だが、ダラス連銀の次期総裁は未だ決定していない。

——6月利上げを旗印とするJPモルガン、2016年初めの利上げを予想するモルガン・スタンレーと、奇しくもエコノミスト界のタカ派とハト派が”忍耐強くなれる”の文言削除を見込んでいます。9月利上げ派のBNPパリバは、維持を予想。2013年9月FOMCでは、コンセンサスと一線を画すテーパリング見送りシナリオを的中させたBNPパリバですが、今回はどちらに軍配が上がるのでしょうか?

(カバー写真:IMF/Flickr)

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