5160142334_69a1c43d6e_z

ベージュブック、経済活動は拡大も金融市場への不透明性を指摘

by • March 3, 2016 • Finance, Latest NewsComments Off2279

Beige Book Cites Economic Expansion, But Mentions Financial Uncertainty.

米連邦準備制度理事会(FRB)が2日に公表したベージュブック(1月5日から2月22日までカバー)は、経済活動の拡大を確認した。カンザスシティ地区連銀がまとめた今回のベージュブックでは、総括としてほとんどの地区連銀が前回のベージュブックから「拡大し続けた(expanded)」と明記。2014年12月以降続けている「経済が拡大し続けた(continued to expanded)」にほぼ沿う表現を用いた。全般的に個人消費や労働市場は堅調だったものの、製造業は引き続き弱い。融資の需要には低下がみられるなど、全般的にはまちまちな様相を見せる。さらに、1月の世界同時株安を背景に1月分のベージュブックでは明記されていなかった金融市場の「不透明性」をめぐる文言が盛り込まれた。3月15〜16日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)はもちろん、上半期に追加利上げを支援する内容とは判断しづらい(以下、地区連銀名はカンザスシティなど地域名で統一)。

リッチモンドとサンフランシスコ(SF)は、「ゆるやかな(moderately)」な拡大となり、前回の2行と変わらず。クリーブランドやアトランタ、シカゴ、ミネアポリスの4行は「控え目(modest)」とし、前回の7行から減少した。フィラデルフィアは「わずか(slight)」とし、セントルイスとボストンは「まちまち(mixed)」。それぞれ、前回確認されなかった表現となる。ボストンでは、売上に増加がみられた。前回に続きニューヨーク(NY)、そしてダラスは「横ばい(flat)」で、カンザスシティは「小幅な低下(modest decline)」がみられた。全般的に、将来の経済成長には「楽観的(optimistic)」だったという。前回は6行が「概して前向き(mostly positive)」だった。

ドル高をめぐるネガティブな表記は、総括を含め6と前回の16回から減少。ドル実効相場が1月の101.45と2003年10月以来の101乗せから2月に100.46まで低下し、ドル高圧力が幾分後退していたためだろう。地区連銀からのドル高への言及は5行のみで、前回の6行以下となる。以下のように言及され、今回はアトランタが消え減少につながった。

・ボストン連銀「(製造業にとって)ドル高は需要とドルベースでの利益に引き続きネガティブ」、「(人材派遣にとって)株式市場の変動やドル高、米大統領選をめぐる不透明性が懸念材料」

・フィラデルフィア連銀「(製造業にとって)引き続き多くのセクターで需要が低下し、ドル高と商品相場の下落が要因」

・クリーブランド連銀「製造業における生産減少の主な要因は、ドル高をはじめ商品相場の下落、海外との競争性の低下、軟調なエネルギー関連、エマージング経済の減速」

・リッチモンド連銀「(港湾活動において)一部の輸出はドル高をはじめ、中国経済および中国による対米輸出品規制を理由に軟調

・ダラス連銀「農家は商品の下落とドル高の影響を受けた輸出の需要低下に直面」

中国というキーフレーズが登場した回数は3回で、前回の2回から小幅に増加した。ただ2015年7月に初めて中国が盛り込まれた当時の8回、以降2015年12月までの6回を下回り続けている。今回はドル高に関して前述したリッチモンドのほか、シカゴが金融・銀行セクターをめぐり「世界的な経済活動、特に中国への不安が報告され、株式市場の下落、資産担保証券のスプレッド拡大、金融市場のボラティリティ上昇につながっている」と指摘していた。

S&P500、年初から2月半ばにかけ10%以上も下落し調整相場入り。

spx
(出所:Stockcharts)

今回、総括部分で使用されたキーワードの登場回数(同じ単語の変化形を含む)は以下の通り。「uncertain」は、前述の通り金融市場に対して全て使用されていた。

「増加した(increase)」→28回、前回は14回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→11回、前回は10回
「緩やか(moderate)」→12回、前回は13回
「控え目(modest)」→10回、前回は5回
「弱い(weak)」→20回、前回は11回
「底堅い(solid)」→2回、前回は0回
「安定的(stable)」→3回、前回は2回
「不透明性(uncertain)」→3回、前回はゼロ

全体的に「増加した」、「強い」などの楽観的なトーンが増加したものの、 「弱い」や「控え目」が増加し前回に続きまちまちとなった。中国に関する言及がさほど増えなかったとはいえ、米株安などリスク・オフ相場を迎え「不透明性」が強まるなど懸念材料を残す。

主な各項目の詳細は、以下の通り。

(個人消費)
消費動向をめぐっては、ほぼ全ての地区連銀が「増加した(increased)」とし、前回の「幾分増加した(some growth)」から上方修正した。ただしカンザスシティとダラスの2行は「幾分の弱含み(some weakness)」がみられたという。そのほかフィラデルフィア、リッチモンド、アトランタ、SFの4行は「ゆるやか(moderately)」で、シカゴは「控え目(modest)」。NYは前年比で「小幅増加(slightly higher)」だった。寒波と豪雪の影響で、フィラデルフィアとリッチモンドの2行で影響がみられたが、盛り返したという。セントルイスは「横ばい(flat)」で、ミネアポリスは「まちまち(mixed)」だった。シカゴでは消費者の間で支出へのためらいを確認しており、債務拡大への懸念、金融市場のボラティリティ上昇、経済の活動に対する不透明性を理由に挙げたガソリン価格の下落に対する反応は、「まちまち(mixed)」だった。

(製造業)
製造業活動は前回に続き「まちまち(mixed)」で、前回の「様々(varied)」から変更した。ただしNYをはじめフィラデルフィア、リッチモンド、カンザスシティ、ダラス5行が「わずかな、あるいはゆるやかな低下(decline)」を報告しており、前回と変わっていない。ボストンのほかクリーブランド、アトランタ、シカゴ、セントルイス、SFの6行は「横ばい(flat)」だった。そのうちボストンやフィラデルフィア、クリーブランド、シカゴ、セントルイス、カンザスシティ。ダラス、SFはエネルギー関連からの「大いなる向かい風(significant headwind)」を報告したという。ドル高と世界経済見通しの弱まりが輸出に悪影響を与えたと報告した地区連銀は、ボストンのほかフィラデルフィア、クリーブランド、ダラス、SFの5だった。明るい見通しを報告した地区連銀はフィラデルフィア、アトランタ、カンザスシティ、ボストンの4で、ボストンは自動車と航空産業以外での製造業を挙げていた。クリーブランドとダラスの2行は、「まちまち(mixed)」だった。

(労働市場、賃金、物価)
労働市場は、ほとんどの地区連銀が「強まり続けた(continued to strengthen)」とし、前回の「改善し続けた(continued to improve)」から上方修正された。ただし、アトランタとダラスの2行は「まちまち(mixed)」で、2行をはじめSFではエネルギー関連の雇用減少を確認したという。NYをはじめリッチモンド、アトランタ、シカゴ、セントルイス、ミネアポリス、カンザスシティの7行は特殊技能職での雇用が困難と報告し、特にITやエンジニア、特殊医療、建設、製造業、輸送で目立つ。クリーブランドとリッチモンドの2行は、低スキルの職でも増員が困難になっていると報告したが、アトランタでは容易だった。ダラスでは小売売上の落ち込みから雇用削減がみられ、カンザスシティは逆に販売員不足が挙がっていた。

賃上げ圧力は、ほとんどの地区連銀で「わずかから強いペースで増加(slight to strong wage growth)」した。セントルイスでは、報告側の56%から強い賃上げを確認しており過去2年間で最高を示す。しかしカンザスシティとリッチモンド、アトランタは「横ばい(flat)」だったという。クリーブランドのほかリッチモンド、アトランタ、シカゴ、セントルイス、ミネアポリス、SFの7行では高スキル職で賃上げを確認したが、そのうちクリーブランド、リッチモンド、アトランタ、シカゴ、カンザスシティの5行で低スキル職でも報告が上がった。シカゴによると、最低賃金引き上げが要因だったという。

物価上昇は全般的に「横ばい(flat)」で、前回の「最小限(minimal)」から下方修正された。SFは医薬品や建設セクターでの物価上昇を確認しつつ、ダラスは全般的に横ばいだったにも関わらずデフレ圧力の強まりを報告した。ダラスについては、カンザスシティとともに小売店で激しい平均値を上回るペースでの値下げを経験したという。

(エネルギー、農業関連)
エネルギー関連は調査期間終了前に原油とガス価格の下落一服をみたものの前回から「一段と低下した(contracted further)」とし、前回の「さらなる困難に直面した(struggled further)」から下方修正された。石炭の生産はクリーブランドのほか、リッチモンド、セントルイス、ミネアポリスの4行で低下を確認。クリーブランドをはじめ、ミネアポリス、カンザスシティ、ダラスの4行では石油・天然ガスの掘削作業が低下していた。またミネアポリスやカンザスシティ、ダラスでは設備投資の削減がみられた。

農業は全般的に「横ばいからゆるやかに低下(flat to moderately down)」し、前回の「横ばいから低下した(flat to decline)」とほぼ変わらず。引き続き商品先物の下落や外需の低下が農家の所得を押し下げており、ミネアポリスでは七面鳥以外が全て値下がりに直面した。シカゴは商品価格の下落に対し安価な種子の有効利用や機器の売却で対応したとの声が聞かれた。

(カバー写真:ctj71081/Flickr)

Comments

comments

Pin It

Related Posts

Comments are closed.