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6月FOMC、バランスシート縮小の詳細を説明しタカ派寄り

by • June 15, 2017 • Finance, Latest NewsComments Off4452

Fed Reveals Balance Sheet Reduction Program, Shows Confidence.

6月13日〜14日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、予想通りFF誘導金利目標を25bp引き上げ1.00~0.75%に設定した。声明文の主な変更点とポイントは、以下の通り。

【景況判断】
前回:「経済活動が鈍化したにも関わらず、労働市場は強まり続けている」

今回:「労働市場は強まり続け、経済活動は年初来からゆるやかに拡大している」
米5月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比13.8万人増と市場予想以下だったが、失業率は4.3%と約16年ぶりの低水準。成長率は4~6月期に2~3%増へ回復する見通し。

前回:「足元数ヵ月での平均で雇用の増加は堅調で、失業率は低下した」

今回:「雇用の増加はゆるやかになったが、年初来から概して堅調で、失業率は低下している」
※同上

前回:「家計支出は緩慢に伸びた程度だがファンダメンタルズは消費の伸びが堅調であり続けることに根拠を与えている。企業の固定投資は安定してきた」

今回:「家計支出はここ数ヵ月で改善し、企業の固定投資は拡大し続けている」
米1~3月期国内総生産(GDP)改定値こそ1年ぶり低水準だったが、米4~6月期GDPは6月14日時点でアトランタ地区連銀の予測値で3.2%増、一部のエコノミストは2.3%増と大幅回復が見込まれる状況。しかし、米5月小売売上高は個人消費の鈍化を示し文言の上方修正に違和感残る。

前回:「インフレは前年比ベースで委員会の長期目標値2%に接近している食品とエネルギーを除く消費者物価指数は3月に低下し、インフレは幾分(目標値の)2%を下回る」

今回:「インフレは足元、食品とエネルギーを除いた場合で示されたように前年比ベースで低下し、幾分(目標値の)2%を下回る」
※個人消費支出(PCE)デフレーターは2月に2012年4月以来の2%乗せを達成したものの、4月は2ヵ月連続で2%を割り込み1.7%の上昇に。コアPCEデフレーターも1.5%の上昇、2015年12月以来の低水準米5月消費者物価指数(CPI)も前年比で1.9%と6ヵ月ぶりに2%割れ、CPIコアも1.7%と2015年2月以来の水準へ減速

【統治目標の遵守について】
前回:「委員会は1~3月期の成長鈍化が一時的とみなし、金融政策の漸進的な調整に伴い経済成長がゆるやかに拡大し、労働市場の状況がさらに一層強まり、インフレは中期的に2%へ向かって安定していくと予想する」

今回:「委員会は、金融政策の漸進的な調整に伴い経済成長がゆるやかに拡大し、労働市場の状況がさらに一層強まると予想する」
米1~3月期GDP改定値が上方修正されたほか、米4~6月期GDP見通しが2~3%増と堅調で1~3月期の成長鈍化に係る文言を削除。インフレに関する文言は文章を分けたため、ここでは削除。

前回:「委員会は1~3月期の成長鈍化が一時的とみなし・・・インフレは中期的に2%へ向かって安定していくと予想する」

今回:「インフレは短期的に前年比で幾分2%割れを下回って推移する見通しだが、中期的に2%へ向かって安定していくと予想する」
※米5月消費者物価指数は前年比で鈍化したものの、漸進的な調整の過程でインフレが2%を下回って推移しても問題ないとの姿勢を裏打ちか。

前回:「短期的な経済見通しのリスクは均衡しているようにみえるが、委員会はインフレや世界経済並びに金融の動向を注視していく」

今回:「短期的な経済見通しのリスクは均衡しているようにみえるが、委員会はインフレ動向を注視していく」
※世界経済の回復、さらに米株高、堅調なエマージング株式市場、低水準で推移するVIX指数などを背景に“世界経済並びに金融”の文言を削除。IMFは4月に世界経済見通しを上方修正

【政策金利について】
FF金利誘導目標を1.00~1.25%で利上げを行うと表現に変更。

「委員会は経済状況がゆるやかな利上げを保証する方向で進展すると予想し、FF金利はしばらくの間、長期的に有効とされる水準を下回り続ける見通しだ。ただし、FF金利の道筋は経済指標で示される経済見通し次第である」
※前回から変更せず

【バランスシート政策】
前回:「委員会は政府機関債と政府機関が発行する住宅ローン担保証券(MBS)が償還した場合、元本をMBSに再投資し、かつ米国債の償還分を入札で再投資するなど、FF金利の正常化が十分進む(well under way)まで、一連の既存の政策を維持する。委員会が長期証券を相当な水準を保つという政策は、金融緩和の環境を保つことを支援するだろう」

今回:「委員会は政府機関債と政府機関が発行する住宅ローン担保証券(MBS)が償還した場合、元本をMBSに再投資し、かつ米国債の償還分は新発債に再投資するなど、一連の既存の政策を維持する」
※バランスシートの縮小方針を表明するに合わせ、2015年12月から4回目の利上げを決定した事情もあり“十分進むまで(well under way)”の文言を削除

前回:「なし」

今回:「委員会は足元、経済全般が概して予想通りに進展すれば、バランスシートの正常化プログラムを年内開始すると予想する。このプログラムは委員会の“政策正常化原則”に明記してあるように、元本の再投資額を減少しながらFRBが保有する証券保有高を縮小するものだ」
※“政策正常化原則”を別に公表、年内に実施すると声明文で明文化。

【票決結果】
票決は、2017年の会合では3月に続きミネアポリス連銀のカシュカリ総裁1人が据え置きを求め反対票を投じた。逆に据え置きを決定した1月と5月は全会一致だった、輪番制である地区連銀総裁の投票メンバーはシカゴ連銀のエバンス総裁、フィラデルフィア連銀のハーカー総裁、ダラス連銀のカプラン総裁、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁となる。なお2016年の全会一致での決定は1月をはじめ6月、12月と8会合のうち3回目のみだった。

【経済・金利見通し】
成長見通しは、2017年のみ引き上げた。米5月小売売上高や米5月消費者物価指数が鈍化し、トランプ政権の税制改革やインフラ投資、規制緩和が進まないものの、2016年から成長加速を予想しており、前回と比べて強気な見方と言えよう。インフレ見通しはPCEとコア含め2017年のみ下方修正し、足元のインフレ減速は一時的とのメッセージを打ち出した格好だ。失業率は5月の失業率を受け、強気見通しへ修正した。

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(作成:My Big Apple NY)

注目のFF金利見通しのドット・チャートは、3月分と中央値でほぼ変更なし。2017~18年まで、年3回の利上げを予想している。ただし、平均値では2017年が1.375%→1.404%、2018年は2.316%→2.227%、2019年は2.890%→2.687%とそれぞれ下方修正。FOMC声明文でインフレが2%割れで推移する見通しを反映したように、FOMC参加者の見方が心もちハト派寄りへシフトした様子を浮き彫りにした。

青いドットが今回6月、グレーが前回3月分のドット・チャート。リッチモンド連銀のラッカー総裁が調査会社メドレーへの情報漏えい問題を受け退任したため今回は15人と3月の17人から減少したため、タカ派の急先鋒が同総裁だったことが分かる。セントルイス連銀のブラード総裁は引き続き長期見通しを示さず、かつ据え置きの予想を維持した(クリックして拡大できます)。

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(作成:My Big Apple NY)

【イエレンFRB議長、記者会見

(正常化が“十分に進む水準”とは)
「特に水準を設定していない(no specific level)」
(トランプ米大統領との関係、FRB議長の再選あるいは後任人事)
「自分の2018年2月末までの任期を全うするつもりだ。大統領と将来について話し合っていない・・。そう遠くない将来に(大統領が)指名し
上院が即座に承認できるよう強く望む」
※自身の進退について、明言を回避。

(インフレ動向)
「いくつかの結果に過剰反応することは重要ではなく、インフレ指標は振れやすい(noisy)」
「インフレが上向く状況は整っている」

(政権、議会による政策運営が実現しない場合のリスク)
「(政策が実現しなくとも)経済減速を予想しない」
「信頼感は高水準を維持している」
「(多くの企業は設備投資)計画など、変更しておらず様子見姿勢にある」

(金融市場の動向)
「(米株高とドル安をめぐり)一連の要因を考慮仕入れている」
「(つまるところ)金融市場の動向を目標としていない」※声明文で「世界経済と金融の動向を注視する」を削除したことと整合的、成長やインフレへの懸念後退を示唆か。

(バランスシート縮小)
比較的早期に(relatively soon)に行う
※利上げとバランスシートの縮小を同時に行うかは、明言を回避。
「(最終的な水準などについては明言せず)単純に量的な枠組みというわけではない」
「(バランスシート縮小の)計画開始を決定した時に、反応に乏しいことが望ましくそう予想している」
「バランスシートの縮小は、何年にもわたって静粛に黙々と進めるものだ」
「(利上げと再投資終了が重なるか)未だ決定していない。全くもって我々の見通しと状況への評価次第だ」
※イエレンFRB議長いわく、フィラデルフィア連銀のハーカー総裁は、バランスシート縮小をめぐり「ペンキが乾くのを見ているかのように」行うべきとジョークを飛ばしたという。

(トランプ米大統領が表現したように、低金利派なのか)
「低金利を長期間維持することは経済を支援していく」
※13日付けWSJ紙によると、トランプ米大統領はイエレンFRB議長を“Low Yielder Person”と評価。

(低金利政策、量的緩和)
「(量的緩和は、長期金利を低下させることで)概して有効だったと結論づけられている」
「明らかにインフレを引き起こしておらず、全く反対だ」

(金融規制)
「銀行の規模や複雑性などに規制を調整し、商業銀行などの負担を軽減させる道を探る重要性を強く信じている
「我々は規制の単純化をめぐりアイデアを有し、検討すべき要点だ」
※トランプ政権の政策に共鳴、金融規制の緩和を支持。

【政策正常化原則】
3ヵ月ごとに再投資を縮小する額を拡大米国債は毎月60億ドルから開始して以降60億ドルずつ増加し1年後には毎月300億ドルへ、住宅ローン担保証券(MBS)は40億ドルから開始して以降40億ドルずつ増加し1年後には毎月200億ドルとする。
・バランスシートの縮小の目途は足元の水準以下ながら金融危機前の水準(1兆ドル以下)とはならず。

図解:バランスシート縮小(単位:10億ドル)
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(作成:My Big Apple NY)

JPモルガンのマイケル・フェローリ米主席エコノミストは、従来の9月利上げ、12月のバランスシート縮小発表という予想から「9月のバランスシート縮小、12月の利上げ」へ変更した。FOMC声明文やイエレンFRB議長の発言を受け、足元のインフレ鈍化より労働市場の逼迫を背景とした今後のインフレ上昇に注目するFedの判断、イエレンFRB議長の記者会見で“比較的早期に(relatively soon)“バランスシートの縮小を行うとの発言を受けたものだ。特に過去を紐解くと”比較的早期に“は「過去、2会合以内の意味を含んでいた」ため、見通し変更の決定打になったという。ちなみに、直近でイエレンFRB議長が「比較的早期に」という言葉を使ったのは2016年11月で、上下両院合同経済委員会にて利上げの時期について言及していた。

バークレイズのマイケル・ゲイピン米主席エコノミストは、結果を受けて「9月にバランスシート縮小、12月に追加利上げ」の予想を維持した。Fedはインフレ鈍化を一時的との認識を強調するものの、リスク要因として低インフレを挙げ仮に長続きする場合は「追加利上げが年明けへ先送りされる可能性」を指摘している。一方で、バランスシート縮小にコミットする姿勢を鮮明化させたため「バランスシート縮小の道筋を変更するにはハードルが高くなった」との見方を寄せ、年内実施を方向で固めてくると見込む。バランスシート縮小期間について「イエレンFRB議長は“a few years”と発言したため、3年にわたって行いバランスシートは3兆ドル程度へ縮小する」と予想。またイエレンFRB議長はリバースレポ金利と超過準備金利を利用したフロアが有効と示唆していたため、「現行の状況が続く」との見通しを示した。

――6月FOMCは、NY在住のストラテジストが「予想外にタカ派」とのコメントを寄せていたように、強気な内容でした。1)インフレ鈍化は一時的と認識、2)インフレ鈍化でも2%割れでも成長見通し上方修正、3)バランスシート縮小について「比較的早期に」行うとイエレンFRB議長が明言――など、2015~16年当時のFedと比較すると自信の深さが現れています。その理由は、やはりイエレンFRB議長の進退問題が挙げられるのでしょう。芳しくない経済指標が相次ぐ上、9月には債務上限引き上げ問題が控えるにも関わらず、イエレンFRB議長が在任中に金融政策の正常化に急いでいる印象は拭えません。バランスシート縮小をテーブルに載せた結果、政策の裁量余地を確保できたと言えるでしょう。

ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁が一人、据え置き票を投じた点は留意しておきたい。同総裁は対中政策でトランプ政権に助言したと噂されるポールソン元米財務長官時代に財務次官補を務め不良資産救済プログラム(TARP)を取り仕切るなどポールソン氏の信頼は厚いはずです。FRB議長の可能性は後退しつつありますが、トランプ政権に忖度していないとも限りません。逆に言えば、他の面々は“低金利派”へ転身したトランプ米大統領を支持していないと捉えられます。

タカ派寄りのFOMCをよそに、金融市場はドル安・米債安・米株まちまちの展開を見せました。肝心の利上げ織り込み度は12月が従来の41.2%から36%へ低下し、先送りを見込みつつあります。市場関係者は、FOMCより経済動向やワシントン情勢に慎重なのでしょう。Fedが金融政策の正常化に着手した2013年以降、これまで市場の見方に軍配が上がってきましたが、今回も正しく予想できるのか注目です。

(カバー写真:Federalreserve/Flickr)

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